第35話

「う~ん」


「何だよさっきからジロジロと」


「やっぱりお前ら何かあっただろ? 」


屋上、サボり、5人、久しぶりにキーワードが揃ったいつもの場所でいつもの顔ぶれ。 それなのにさっきから上田は俺の顔ばかり見ている。

正確には俺の顔を正面から8秒程凝視して左に5歩、移動して近くに座る川澄の顔を2秒程見る、そしてまた戻って来ては俺の顔を見る。

ずっと顎に手を当てたまま探偵さながら何かを推理しようとしている。


「何もねえよいつも通り、別に昨日も明日も変わるのは着てるTシャツの柄くらいだよ」


「瀬野、 無理に何か上手いこと言ってやろうとか、そういうチャレンジスピリッツいらないから、 そういうのが却って怪しいだよ」


「ぐっ…… ぐぬぬ…… 」


「だって前までなら屋上ここに俺やヒロトと居る時と川澄さんが来てる時とじゃ明らかにノリが違ったじゃん? 」


「んな、違わなくなっ」


「なく無いこと無い、な? ヒロト」


「たしかに川澄さんが居る時と居ない時じゃ鼻の穴の拡がり具合が1.8倍違うよね」


「なんだよその当社比! いつ調べたんだよ」


「芽衣ちゃんもそう思うだろ? この二人、幼なじみの身として感じるものがあるでしょ?」


上田のその場の空気を読まない強引なフリに芽衣は一瞬俺の顔を見たが、そのまま興味なさそうにそっぽを向くとコンクリートの段上がりになった陽の当たる場所に離れていった。


「川澄さんに限って達哉と何かあるとか、そんな事まずあり得ないから、ぜーんぜん、絶対無いから、ハッハッハッ ちゃんちゃらおかしいわ、ハハッハハッハッ」


「芽衣ちゃん笑い方がぎこちないって」


このままじゃ場の雰囲気も俺達の未来も悪くなる一方だと思い、俺はなんとか話題を変えてみることにした。


「ところでさ」


「ところで? この状況でその接続助詞放り込んでくる? ってことはよっぽど話題を変えたいんだな、まあいいや、ところで・・・・何だよ?」


「『五十歩百歩』って言葉があるだろ? それに似た言葉で『目くそ鼻くそを笑う』ってあるじゃん? 」


「瀬野、 今女性陣がスーッと退ひいてるのが分かるか? まだ続けるか? 」


「お、おうよ」


「じゃあ、まあ頑張れ」


「前から思ってたんだけど鼻くそかわいそうじゃね? 完全にただの被害者で貰い事故だろ? 」


「はい今の説明で状況把握出来た人? 」


誰一人微動だにしない。


「いや『五十歩百歩』は五十歩逃げた奴が百歩逃げた奴を笑って「逃げてることには変わりないから」って戒められる話だろ? けどさ『目くそ鼻くそを笑う』って目くそが鼻くそを「アイツ鼻くそだぜ」って笑ってるんだろ? 鼻くそはそこに居ただけじゃん! ただの通行人じゃん? 善良な第三者だぜ? それを指差して「わーいアイツ鼻くそだぜ」って笑われてよ? 鼻くそ何もしてなくね? イジメだぜこれ、俺は! 俺は! 」


「瀬野! もういい! もういいから! 」


完全に心を閉ざしてしまった芽衣たち聴衆を前に半泣きで喋り続けようとする俺を上田はギュッと抱きしめて優しく頭を撫でてくれた。


「辛かったんだな、瀬野」


この日テレビの情報番組では東日本が梅雨明けしたと、笑うと左頬にだけえくぼの出来る女性キャスターが悲しいニュースに続けて原稿を読んでいた。

屋上の俺達5人の上空を遥か遠くジェット機が、その機体よりもはっきりとした真っ白な航跡を残して飛んで行く。 俺達の心のモヤモヤも梅雨明けと共に


「瀬野、 全然晴れてねえから」


晴れてないらしい。

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