第33話
「達哉、どうすんの? 卒業したら」
晩めしの団欒、というほどの会話もなく母ちゃんと光彦先生、そして婆ちゃんがたまに話す程度で俺や凌は黙々と箸を動かし続けていた。
「さあ、どうするんだろうね」
「だろうねってアンタのことでしょう、光彦さん何か言ってやって」
「ハハハハ、大丈夫、達哉君はナオミさんが思っている以上にしっかりしているから」
光彦先生は母ちゃんを心配させないように気を使ってくれたのだ。そのことは高三の夏を迎えようとしている今、全く将来の方向に動き出していない俺自身が一番よくわかっている。
「ごちそうさま」
始終無言だった凌はエビチリの皿の最後の一つを口にすると自分の食器をシンクに入れてそのまま階段を上っていった。アイツはあの時以来あからさまに俺をシカトする。
言い訳じゃないけどアレは俺的には事故みたいなもんで、その後川澄と何かあった訳でもなく逆に気不味くなってしまい、まともに目も合わせられないでいるくらいだ。
「ねえ、光彦先生はどうして先生になったの? 」
そういえばまだ聞いてなかった質問を箸を動かすついでに聞いてみた。
「そうだねえ、両親への反発、 ってのは冗談で気が付けば二人と同じ道を進んでいたんだよなぁ」
光彦先生は横で無反応なままお茶を啜るばあちゃんを見ると照れくさそうに笑った。
「へぇ、ばあちゃんも昔先生だったんだ。 でも納得出来るね、いつもキチッとしてるっていうか几帳面っていうか、それ聞いたらなんか急に緊張してきたわ」
「アンタ、なんで光彦さんには緊張しないのよ」
「だってばあちゃんは何も喋らなくても威厳みたいなのがあるじゃん、光彦先生は、まあ、ほら、のどかだなぁって感じで」
「ハハハハ、 まあ母さんや死んだ父さんとは教師といっても確かに違うタイプかもね」
「本当、あのお義父さんの子だなんて想像付かないもんね」
「えっ?母ちゃん光彦先生のお父さんのこと知ってんの? 」
「えっ? あっ、まあ、うん写真で見たイメージよ、イメージ」
母ちゃんと光彦先生の出会いは母ちゃんの介護の仕事の利用者だったばあちゃんとの付き合いから始まったって聞いている。 初めて光彦先生を紹介された時にどこかモヤっとする感覚が残っていたんだけどやっぱり、きっと母ちゃんと光彦先生はもっと前からの知り合いだったんだろう。 別に隠す必要もないと思うけど追及する程のことでもないし、まあいつか機会があった時にでも聞くことにしよう。
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