第28話

「瀬野、ほら まただぜ」


アイツらの視線を感じるようになって今日で三日目だ。

廊下は午前中の授業から解放された生徒達で溢れていた。

その中で上田はアイツらを見つけ、そしてアイツらには視線を向けることなく前を向いたまま歩きながらそう言ってきた。


「しょうがねえ、食堂にでも行くか」


俺たちは屋上に行くのを諦めて階段を降り、そのまま学食に向かった。 先週卒業式があり煩わしいだけの存在だった三年たちが居なくなって、やっと快適な高校生活が送れると思った矢先のことだった。 結局岡田のケガに関することで三年の奴らから犯人が見つかることもなく、学校は厄介者でも扱うように早々と卒業生たちを追い出した。


そしてその学校、いや、あの二人の教師は今度は俺たちのことを監視するようにこうやって休憩時間の度にやってくる。 教頭の笹井と体育教師の峯岸だ。


ここ三日間、どうやら俺たちが屋上に行くのを見張っているようで、さっきも俺と上田が階段を降りていくのを確認するまでその気配は消えることはなかった。


「今日もこっちだったんだ」


弁当を食べていると芽衣が1人でやって来て空いていた俺の隣の席に座った。


「やっぱりまだ監視されてるの? 」


「ああ、たぶん間違いない」


「けどなんで俺たちが目を付けられなきゃなんねえんだよなぁ? 」


「そりゃ上田君の日頃の行いでしょ。 逆に今までよく放置されてたわね」


「芽衣ちゃんひっでえ」


「芽衣、お前もしばらく屋上に近寄らない方がいいぞ、それから川澄にも注意しといてくれよ。 まあお前らが謹慎受けるようなことなんてないだろうけどさ」


「うん、あ!それナオミちゃんの卵焼きだ!いただきっ」


芽衣は俺の弁当箱からひじきを混ぜ込んだ卵焼きを一つ取るとすぐに口に入れた。


「ああ~、 久しぶり~ やっぱナオミちゃんの卵焼きは特別だわ」


俺が引っ越すまで、俺と芽衣はどっちかの家でどっちかの母ちゃんが作ったご飯を食べることなんて当たり前のことだった。 久しぶりに俺の母ちゃんの作った卵焼きを満足そうに食べた芽衣は自分の弁当には手を付けずに席を立った。


「ダイエットダイエット」


そんなことがあったのは昼までの話で、問題が起きたのはすぐ後の五時間目の最中だった。


陽気の差し込む教室の窓際の席で俺が食後の睡魔と戦っていた時、いつも俺たちが居る屋上の方をふと見た。 ああ眠てえなぁ~ 、いつもみたいにあそこで昼寝でもしてぇなぁ~ なんて何気なく屋上を見ていたら、そこに思いもかけない光景が現れた。


川澄と川澄に詰め寄る体育教師の峯岸だ。


峯岸は後ずさる川澄の右手を掴んで何か叫んでいる。 俺は状況を把握するよりも先に教室を飛び出していた。 峯岸の野郎、川澄に何をするつもりだ。しかも昼間っから学校で、あの外道め。 とにかく急いだ。 後ろから上田が追いかけてくるのは分かった。たぶん教室に居た社会の村井はそのまま授業を続けているだろう。定年間近の村井にすれば俺が教室に居ようが居まいがどうでもいいことだ。 階段を駆け上がりおもいっきり屋上の扉を開けた。扉はガンッと大きな音を立ててコンクリートの壁にぶつかり、勢いは殺され、ゆっくりと戻ろうとしている。


「離せよ! その手を」


峯岸がジロリと俺を睨み付ける。川澄の右手は掴んだままだった。


「瀬野君」


川澄が泣きそうな顔で俺の名前を呼んだ。


「離せってんだろ! それでも教師かよ!外道」


「君は何か勘違いしてませんか? 」


峯岸の横に居た教頭の笹井が冷めた口調で言った。


「この女生徒は授業をサボってここでタバコを吸っていたんですよ」

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