第25話

いつものように上田とヒロトと三人、屋上でバカな時間を過ごし、昼休憩に合わせて教室に戻ろうとしていた時だった。


「瀬野」


階段を降りた廊下の壁にもたれながら声を掛けて来たのは同級生の岡田だった。岡田とは以前はバレー部の部室で一緒になって授業をサボる仲だったが、タバコがバレて謹慎処分になった後、俺たちはタバコを止めたこともあって、いまだ喫煙組の岡田たちとの付合いは自然と少なくなっていた。

一人でこんな所で待って、わざわざ声を掛けて来たということは、俺たちが屋上に居ることを知っていたのだろう。


「よう、どうした?」


岡田の表情は決して友好を示すような弛んだものでは無かった。そしてキスでもして来るんじゃないかと思わず防御の構えを取ってしまうくらい口を尖らせながら話しかけてきた。


「お前ら、いい場所見つけたみたいだな」


やっぱりだ、屋上は合鍵をこっそり所持している川澄と、それを知る俺たちだけの秘密の場所だったから他の奴にはあまり知られたくはなかった。


「ど、ど、どういうことだよ? お、俺たち別に何もしてないぞ」


「瀬野…… お前、隠し事出来ないタイプか、まっすぐ育てられたんだな、 って言うか授業中でも突然 外から笑い声とか聞こえてくるし、大体の奴が気付いてんだろうよ お前らが屋上でサボってるの」


「マジ!? 」


「おう、 そんなことよりお前ら屋上でタバコ吸ってんだろ? 」


岡田が昼飯の時間を潰してまで聞きたかったのはどうやらそのことらしい。 そうか、きっと神崎たち3年に命令されて来たのだろう。 俺や岡田がタバコが見つかって謹慎処分になった後、俺は神崎に呼ばれて学校の外にある倉庫に連れて行かれたことがあった。 そこは裏門を出てすぐの所だが普通の民家の倉庫で学校とは何の関係も無い所だった、そして倉庫の中はそこそこ綺麗に整理されていた。

けれど それは決して倉庫として綺麗な訳ではなく、ソファーや多くのパイプ椅子があったり、麻雀卓があったり、漫画の並んだ本棚があったりと、そう、休憩スペースとして整理されていたのだった。 そこで中央のソファーに座る神崎に言われたのが『いつでもここを使っていい』ということ。

しかも神崎は言った、「ここは学校にはバレない」と。 当時まだタバコを吸っていた俺にとっては好条件この上なかったが神崎の話はまだ続いた。使用するには月に五千円払えということ。

どうしようかと何日か考えたが次第に考えることもバカらしくなり、遂にはそこまでしてタバコを吸うということ自体がバカに思えてその話は断ったが、岡田や他の2年生の中にはその条件を飲んだ奴らが何人も居たようだ。 きっとそいつらにとっては、俺たちが金を払わずに好きにやってることが面白くないんだろう。


「岡田、俺たちとっくにタバコなんて止めてんだよ」


岡田は意外そうな顔をしていた。


「下手な嘘付いてんじゃねえよ」


「バーカ、俺が嘘付けないのは今さっき分かっただろ、それに嘘かどうかって、お前はずっとタバコ吸ってるから分かんねえんだろうけど、吸ってない者からすれば匂いで一発で分かるぞ、 お前臭いもん、ヤニの匂い」


「あん? 適当なこと言ってんじゃねえよ」


岡田は心配そうに自分の制服の匂いを嗅いでみたがよく分からなかったのだろう、すぐに俺たちを睨み付けると首を亀の様に伸ばして凄んできた。


「岡田、お前何ムキになってんだよ、タバコなんか吸ってっからカルシウム不足なんじゃねえのか? アーモンド小魚1パック分けてやろうか?」


「い、いらねえよ! とにかくお前ら目立ち過ぎなんだよ。いつまでも調子乗ってられると思うなよ」


岡田は昭和の漫画のチンピラのような捨て台詞を吐くと面白く無さそうにどこかへ行ってしまった。


「達哉」


岡田と入れ替わるように声を掛けて来たのは芽衣だった。


「よう、どうした? 愛の告白か? 」


「はあ? 死んでもしないし、屋上の鍵貸してよね、今から川澄さんと屋上でお弁当食べるんだから」


芽衣はスっと右手を突き出して屋上の鍵を要求する。


「川澄も一緒なのか? じゃあ俺も行こうかな」


「来なくてヨシ」


「なんだよお前までやけにプリプリしてんな、カルシウム不足か? アーモンド小魚食べるか? あっ! そうかせい


パコーンッ!


「・・・・・・理・・・・・・」


「一回本当に死んどけバカ!」

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