第13話
「で、あるからして、
「ん? ああ、 はい」 四時間目は数学の日野の授業。 あまりにも退屈でつい窓の外を眺めて考え事をしていた。
「何が「ああ、はい」だ、そんなにワシの授業は退屈か? 」
「はぁ」
「くぅ~、 もういい、お前なんかに単位はやらん、好きなだけ外を見ておれ。 皆もヤル気が無いならいつでも出ていっていいんだぞ、別にワシがテストで苦しむ訳じゃ無いんだからな」
テストでいい点数を取った所で俺なんてどうせ地元のちっぽけな会社でテキトーに働いて、仲間とテキトーに遊んで、テキトーに老いぼれていくだけなんだから、どうでもいいんだけど。 そんな風に少しフテ腐れながら怒られた後もまたボンヤリと窓の外を眺めていた。
あっ、紙ヒコーキだ
その紙ヒコーキは四階にあるこの教室の、さらに上から校庭に向かってゆっくりと、ゆっくりと、けれどその綺麗な飛行姿勢を崩すことなくずっと遠くまで飛んでいった。 川澄…… この時間にこの四階よりも高い、つまり校舎の屋上に居るのは川澄しか居ない。 あの紙ヒコーキは川澄が作ったのか…… 上手だな、今度作り方を教えてもらおう。
※※※※※
はぁ、今日もコイツが待っているのか。
引越し前よりも10キロ以上遠くなったこの帰り道は自転車で通う俺には試練でしかない。 しかも家に着く最後の最後で、この100メートル近い坂道を登って行かなければならないというハードトレーニングまで付いてくるんだから、やっぱり母ちゃんの結婚に反対すりゃ良かった。
「瀬野くーん! 」 引越しして来てから4日目のこの坂道を前に俺がげんなりしていると、後ろから川澄の呼ぶ声がした。
「よう! 川澄は電車通学だっけ?」
「そう、だってこの坂道毎日登るなんて考えたことも無いもの」
「だよな、こんなのチャリこいで登ったら血管切れるぜ」
前言撤回、こうやって川澄と楽しく喋りながらなら引越ししてきたのも悪くない。
「そういや紙ヒコーキ、飛ばしてただろ? 屋上から」
「紙ヒコーキ? 」
「そうだよ、今日の四時間目」
「え? 四時間目って私屋上に行かなかったわよ、瀬野君たちが降りてきたから鍵だけ閉めに行ったんだけどすぐに戻って授業に出たもの」
「川澄じゃないの? たしか校舎の上から飛んで行ったんだけどなぁ」
「私たち以外の誰かが屋上の鍵を持ってるってこと? 」
「そうなるよな、幽霊でもなけりゃ」
「じゃあこれから屋上に行く時は少し用心しないとね」
「そうだな、じゃあ俺んチここだから」 家の前まで来たので話を切り上げようとしたら川澄が笑っていた。
「あっ、そうか引越しの時に会ったもんな、知ってるよな」
「フフフ、知ってるわよ。 瀬野君は知らないみたいだけどね」
「ん? 何が? 」
「すぐに分かるわよ、じゃあね」
「お、おう…… 」 川澄が言ったことが気になったけど、すぐに分かると言うのなら今ここでムキになって聞くのも女々しく感じたので俺は家に入った。
「ただいまー 」
「ワンワンワーン」
「おかえり、今日は光彦さんも早いから着替えたら夕飯皆で食べるわよー 」
「ほーい」 母ちゃんはさすがに婆さん、じゃなくてお義母さんの前では上杉先生のことをミッチャンではなく 光彦さんと呼んでいるようだ。
上杉先生は俺の学校に臨時の教師としてやって来て数週間、なかなか仕事が溜まっているらしくいつも帰りが遅かった。 朝は全員揃って食卓を囲むけど、晩飯は母ちゃんと俺と婆さんと、凌とリョウ。
俺も凌もさっさと喰うとすぐに自分の部屋に戻ってしまうから会話なんてほとんど無かった。 今日もいつものように部屋に戻って着替えをしていたら窓にコツッと何かが当たる音がした。
気のせいか、と着替えを続けているともう一度同じように。 今度は間違いなかった。
誰だよこんなイタズラする奴は? と窓を開けた俺は「£Ъλξ!」と声にならない声を出してしまった。
「か!川澄、どうして!? 」 隣の家の窓からさっき別れた川澄がこっちを見て笑っている。
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