第12話
「で、あるからして~ 」
退屈な授業は続く。俺たちの尻の下で。
俺と上田とヒロトは川澄に屋上の鍵を開けてもらい授業をサボっていた。
「何が? 『であるから』って? 」 俺の呟いた独り言に上田が反応した。
「ん? ああ、漫画とかドラマとかでさ、授業シーンに入る時ってちょっと老いぼれた先生の「で、あるからして~」ってセリフからよく始まるじゃん? 」
「ん~、言われてみれば…… あるかも、そのあと主人公がボーっと校庭を眺めていてその老いぼれに注意されるんだろ? あるある・・・・だわ、で? 」
「ん? 」
「で? 何? 」
「いや、それだけ」
「出たよ瀬野お得意の『投げっぱなしトーク』」
上田は2本目のタバコに火を付けると寝転がり、口を鯉みたいにホコホコと動かして煙で輪っかを作り始めた。
「そういや瀬野タバコ吸わないね? ヤメたの? 」
「ああ、別に吸わなくてもいいかなぁって、また吸いたくなるかもしれないけど」
家には今までと違って母ちゃん以外の人も居るし、3年の神崎に誘われた学校の裏の倉庫も色々めんどくさくて断ったし、屋上は…… 川澄に申し訳ないという気持ちが何処かあるし、なんてことを考えていたら別に吸わなくてもいいかなぁという結論に辿り着いたのだった。
「なあ、上田はタバコ吸い始めたきっかけって何だった? 」
「きっかけ? ん~、なんだろう…… カッコ良さそうだったからかな」
「格好付けてタバコ始めた男が居たんですよ~ 」
「なぁ~ にぃ~ !? やっちまったな! 」 ヒロトの不意討ちのフリについつい条件反射で乗ってしまった。
「バカッ 声デカイよ」 上田は制止するがヒロトは調子に乗って笑っている。
「男は黙って」 「酢コンブ! 」
「ヤメろって! 誰か来たらどうすんだよ」
上田は余程恥ずかしかったのかケタケタ笑う俺とヒロトのワキ腹を攻撃して来る。
「ハハハ、まあでも俺も理由聞かれたらやっぱり『格好付けて』だと思うわ」
キーン コーン カーン ~
「お! 休憩だ、戻ろうぜ」
「今までも休憩してたじゃん」
「今まではサボリだろ」
屋上から降りてきた俺たちを仁王立ちで待ち構えていたのは『デアルカラ』の老いぼれ教師ではなく芽衣だった。
「よう、芽衣」
「『よう芽衣』じゃないわよ、何よヨウメイって? 私は…… その、何? アレ、ヨウメイ…… ヨウメイ…… そう! 養命酒! 健康になるお酒か!? 」
「うわっ…… 下手くそぉ…… 」
「芽衣ちゃん今のはちょっと…… 」
「…… 」
「やだっ、 バカッ! そこはもっと上手くフォローしてよ、ってそんな事はいいの! 授業中にアンタ達の声が外から聞こえてきてたわよ、ウチのクラスは上杉先生の授業だったから何も問題無かったけどアンタ達もうちょっと大人しくしていなさいよ、また停学になっちゃうわよ」
「いいんだよ芽衣、俺たち今が楽しいんだから、それよりさ芽衣、屋上で何してたと思う? 」
「何してた? って何してたのよ? 」
「なあ、ヒロト! 」
「カッコ付けてタバコ吸ってる男が居たんですよ~ 」
「だからヤメろって! 」 上田は言われる度に恥ずかしさが増していってるようだった。
「うぉおおお! 決めた! こうなったら俺もタバコヤメる! 」
「おおお! 」
「男は黙って」
「塩素ガス」
「男は黙って」
「塩素ガス」
「鼻血出して気絶しちゃうよ~ 」 「ハハハハハ」
「バーカばっかり、次の授業はちゃんと受けるのよ、ったく」 教室に戻ろうとした時、廊下の遠く向こうで川澄が手を振っていた。 四時間目は自分が屋上に行くから鍵はそのまま開けておいてと言っていたから、おそらく今から川澄もサボリなんだろう。
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