第8話
「達哉! 」
教室に戻ろうとした時に後ろから呼び止める女子の声がした。
俺のことを下の名前で呼ぶ女子は母ちゃん以外には一人しか居ない。
「よう、
停学中に
「くさーい! アンタまたタバコを吸ってたんでしょ? 」 背伸びをして俺の学生服の胸元あたりに顔を近付けると、クンクンとその匂いを嗅いで鼻を摘まんだ。
「マジ? そんなに匂う? 5限は細木の授業だったよな、ヤバいかなぁ、芽衣! お前消臭スプレーとか持ってねえの? 」
「失礼ね、私臭くなんかならないし、制汗スプレーならあるけど貸さないわよ」
「はあ? ケチ」
「見つかっちゃえばいいのよ、それでスパッと辞めなさいよ」
機嫌が悪くなくても芽衣はいつもこんな感じで、可愛気なんか全く無い。
「ぐっ、 そんなことを言う奴はこうだ! 」
俺はそう言ってそのタバコ臭い学生服に芽衣の顔を押し付けて両手でしっかりと抱き締めた。
「フグーッ! ホムーッ! ムーッ! ヤメッ! ヤメッ! 」 芽衣は身体をバタバタとさせて必死に離れようとしているが俺はさらに強く力を込めた。 「どうだ参ったか? 」
「ぷはっ…… はぁはぁはぁはぁ…… バカッ! なんでそういう事を平気でするのアンタは! 」
「お前赤くなってるぞ? 照れてんのか? 」
「バカッ! 」 芽衣がおもいっきり俺の股間を蹴り上げた。
「ふんぐっ! 」
「息が出来なかっただけよ! はぁはぁ、 ったくいつまで保育園児でいるの!? 」
股間を押さえて転がりながら悶絶している俺に芽衣はもう一発 尻に渾身の一撃を喰らわせた。
「お母さんがね! 結婚のお祝いパーティーしたいから今晩ウチに来てねって アンタは来なくていいからね! ナオミちゃんに必ず伝えなさいよねバカ!」
「達哉君」
やっと股間の痛みが引いてきた頃、また誰かに呼び止められた。
「達哉」と呼ぶのは芽衣くらいだけど、俺のことを「達哉君」なんて呼ぶ奴は男にも女にも居ない。 いったい誰だ? と振り向くとそこには数日前に初めて記憶した男の人の顔があった。
「光彦さん」 母ちゃんの結婚相手の光彦さんが校長先生と一緒に立っていた。
「誰なの? 達哉」
「ん? あっ、 いや、ちょっとした知り合い」 いきなりのことで芽衣の質問にはテキトーな返ししか出来なかった。
「ちわっす」
「ほう、 お知り合いですか? 」 今度は校長先生が光彦さんに質問した。
「ええ、 まあ、 狭いですね世間って」
「なんで光彦さんが学校に? 」
「上杉先生には産休で休まれる伊藤先生の代わりに皆の国語を教えてもらうことになったんだよ」
「えっ!? 光彦さん公務員って言ってたけど先生なの? 」
「はは…… まぁ、補欠みたいなものだけどね」 光彦さんは照れくさそうに笑うと「それじゃまた」と先を歩く校長先生を追いかけて小走りに離れていった。
「ちょっと達哉、やっぱりアンタも今晩来なさい、その辺の事詳しく教えて貰わなきゃね 」
キーン コーン カーン ~
「いけねっ! 授業だ、またな芽衣」
「達哉 わかったー?ナオミちゃんにきっちり伝えといてね! 」
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