第7話

たまり場だったバレー部の部室を取上げられた俺たちは仕方がないから暫くは大人しくしていることにした。


当のバレー部はというと、元々まともに活動もしていない開店休業状態だったのであまり影響は無かったが、それでもキャプテンの森は引退した3年から相当責められたらしい。


今回の件で親にバレたことでタバコをやめる奴も居たし、目立たないように少数で体育館の裏やトイレで隠れて吸ってる奴も居た。


俺や上田は相変わらず隠れて吸っていたけど、ヒロトは親にメチャクチャ怒られたらしく一切吸わなくなった。


「瀬野 」


昼休み、俺と上田が食後の一服にとトイレに向かおうとした所を3年の高島という奴が声を掛けてきた。


「なんすか? 」


「お前らタバコ吸いに行くんだろ? いい場所教えてやるよ」


「着いてこい」という高島のなかば強引な誘いに俺と上田は従うしかなかった。


「入れよ」 高島に連れられて来たのは学校の裏門を出てすぐの所にある民家の倉庫だった。 アルミサッシの軽いドアをスライドさせるとその室内は倉庫とは思えないような造りで、広さも教室一つ分位はありそうな程だった。


天井近く高い位置に並んだ窓からは充分に明かりが入り、校庭隅の陽の当たらない部室のような陰湿な雰囲気は一切なかった。


倉庫の中には20人程の生徒が居り、3年だけだと思ったその中にはよく見ると三週間前に一緒に停学を食らった同級生の顔もいくつか見かけた。


「よう、瀬野」 ソファに座ってタバコを吸っていたのは3年の神崎だ。


俺たちも似たようなもんだけど、この神崎って先輩はあまりいい噂は聞かない。 幸い今までは直接何かされるということはなかったが出来ることなら今後も関わりたくはない。


「ちぃっす」


「残念だったな部室取上げられて」


「…… 」


「ほれ、突っ立ってないでそこ座れよ、タバコ吸うんだろ? 」


「この倉庫ならいつでも来ていいぜ」


「マジっすか? 」


「ああ、但し口外は一切禁止、もしバレるようなことがあったら、その時は停学くらいじゃ済まないけどな」


「この倉庫って神崎先輩の知り合いの持ち物なんすか? 」あまり関わりたくない先輩だが、口の中がまだ弁当の塩サバっぽかった俺は誘惑に勝てず空いていた椅子に座りタバコに火を付けて聞いてみた。


「俺たちも先輩から受け継いだんだ、だいたいこの時期に3年が2年に教えてやることになってんだよ」


「へぇ、よく学校にバレないもんっすね」


「校外だから簡単に入って来れないのか、それとも先生あいつらも面倒臭いことには首を突っ込みたくねえんじゃないか」


「そんなもんなんすかね」


そんな簡単なものではないことはもう少し後から知るの事になるのだが、その時はたいして気にしていなかった。


「五千円だ」


「は? 」


「1か月の使用料だよ、一人五千円、妥当だろ? 」


「…… 」


「ここならまず学校にバレることはねえよ、お前ら次見つかったらヤバいんだろ? 教頭も峯岸も一度マーク始めたらしつこいぞ」


母ちゃんを呼ばれて停学を言い渡された時の嫌味ったらしい教頭と体育教師の峯岸の顔が浮かぶ。


「瀬野! 上田! お前らも使わせてもらおうぜ、どうせタバコ辞める気なんかねえんだろ? 」


入口付近の背もたれの無い円形のパイプ椅子に座っていた同じ2年の岡田が言ってきた。この岡田はタバコ、酒、ギャンブル何でもやる。


「神崎先輩、俺んチ母子家庭なんすよ、五千円ったら俺の半年のこづかいっすよ、五千円払ったら俺禁煙しないとやってけませんよ」


「アホ、まあいいよ二・三日考えな、ただ誰にも言うんじゃねえぞ」


俺と上田は一本だけタバコをフィルターのギリギリまで吸いきると倉庫を出て校舎に戻った。

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