第2話

「怒んねえんだ? 」


俺と上田とヒロト他、全部で16人。 部室で授業をサボって煙草を吸っていたということで三日間の停学処分を喰らった。


保護者同伴で校長先生から説教を受ける羽目になったのだが、校長室にも応接室にも入りきらずで、仕方がなく空いている教室を使っての大説教大会が始まった。


説教時間中は校長先生は殆ど喋ることはなく、部室で俺たちのサボり現場を見つけた笹井教頭と体育教師の峯岸が、ネチネチネチネチと俺たちや俺たちの親、そしてそれぞれの担任教師までを責め続けたのだった。


まあそれでも長かった説教も終わり、晴れて今日から三日間のリフレッシュ休暇を手に入れた俺は隣を歩く母ちゃんに先の質問をぶつけてみた。


「べーつに、煙草くらいで目くじら立てて怒ってさ、美しい顔にシワが出来る方が嫌だもん。 それにアンタが煙草吸ってんの今日知った訳でもないし注意しなかったワタシにも問題あるんだからさ」


「ふーん、なんかワリいね」


「気にすんなし」


「それよりさぁ達哉たつや、ワタシ結婚しようと思うんだ」


「は? 」


17歳、つまり今の俺の年で俺を産んだ母ちゃんは、いわゆる未婚の母だった。 父親の存在を意識したことなんて殆ど無かったし、別に居てほしいと思ったことも どんな人なのか知りたいという気持ちもあまり無かった。

物心ついた頃からずっと二人暮しだったからそれが当たり前になっていた。


「このタイミングで言う話かよ? 」


「だってアンタってば親に迷惑掛けたばかりなんだから反対出来ないでしょ?」


ずりい…… まあ、いいけど」


「サンキュ、でさぁ、その人にも子供が居るわけよ」


「…… 」


「アンタ今「妹かな? お姉ちゃんかな? 」とか考えてたでしょ? 」


「は? 別に何も考えてねえよ」


「あらそう? とっても可愛いわよ、リョウちゃんって言うの、仲良くしてあげてね」


仲良くしてあげてね・・・・・・ その言い方は年下ってことかな? リョウ…… 涼? 亮? 遼? 弟? 妹? なんか意識してるみたいで聞きにくいじゃん! モヤモヤするじゃねえかよ。


「家はどうなんの? 引越し? まさか今2DKのアパートで生活ってことは無いだろ? 」


「すみれが丘にね、中古の一戸建ての手頃な家があってそこで新生活を始めようかって話になってんの」


「そこまで話進んでんの? もし俺が思春期こじらせて反対したら とか考えなかったの?」


「思春期なんて遠い昔でしょ、それにその時はアンタが独り暮らしでもすればいいかなぁって」


ってチョー他人事じゃん 」


「何言ってんのよもう17でしょ? どうせあと一年とかで出ていくんでしょ? 」


高校2年の9月、学年でも最下位を争う成績の俺は大学進学なんてもともと頭に無かったし、母子家庭の身としては金を出して専門学校に通うくらいなら、金を貰って働く方がましだと思っていた。その時は、まだ。

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