方向性の無い高校生達は今日も屋上で光合成をする

第一章 第1話

キーン コーン カーン コーン ～

チャイムが鳴り教室のいつもの席に…… 俺たちは座っていない。

「缶コーヒーってさ、『振ってから開けて下さい』って書いてあったり『振らずに開けて下さい』だったりするじゃん？」

たまり場となっている男子バレーの部室で食堂の自販機で買ってきたコーヒーの缶を眺めながら正面に座る上田に話し掛けた。

「分かる、「どっちだよ！ 」ってツッコミたくなるよね」

上田は読んでいた漫画にしおりの代りに指を挟んで閉じると、わざわざ俺の言葉に耳だけじゃなく身体ごと傾けてきた。

「これ見てくれよ」

手渡した缶を半回転させ上田はそこに書いてある注意書きを声に出して読み上げた。

「ん？ どれ…… えっと、軽く振り、少し待ってからお開け下さい？ なんじゃこれ？ 」

「そうなるだろ？ 『なんじゃこれ？ 』って、『軽く振り、少し待ってからお開け下さい』って言われても『軽く』ってどの程度よ？『 少し』ってどれ位よ？ 俺任せかよ！ いいの？ 不味かったら責任取ってくれんの？ 」

「なるほどね、それで瀬野君はご立腹なワケだ」

「いや、別にご立腹はしてないけどさ、開けちゃうよ？ 俺の思う『軽く』と俺の思う『少し』で？ 」

「どうぞどうぞ、好きにしてやって下さい」

俺の鼻息が荒くなるのとは逆に上田の興味はもうそこには無く、再び漫画を読み出した。

「あきらめないで ! 」

「いきなりどうした！？ おい！ ヒロト」

それまで全く俺と上田の会話に入ってくることもなく、上田の隣でずっと何か考え事をしている様子だったヒロトが唐突に喋り出したので、俺も上田もビックリしてヒロトを見た。

「ん？ あっ、そうか！ ごめんごめん、つい家で一人で居るつもりで 真矢みきのモノマネの練習してた、そっか、ここ学校だったな」

「この雑音の中でよく自分の世界に籠れるよな、ってか一人の時にそんなことやってたんだな、お前バカだろ」

「ヒロトマジ天然だからｗｗｗ」

「えっ？ なになに？ 」

俺の右横に座る竹中が大ウケするとその横で独り音楽を聴いてた岡野がヘッドホンを外して何が起こったのか聞いてきた。

ギィィィッ 「こらぁ、お前らここで何してんだ」

ほぼほぼペンキの剥がれ落ちた鉄製のドアがその老朽さをアピールするように嫌な音を立てて開くと、薄暗さに慣れてしまった俺の眼を潰す勢いで真っ白い光が一気に流れ込んできた。

「ちっ なんだ西谷かよ」

「びっくりしただろ？ しかし煙たいよこの部屋、こんなん先生来たら煙草吸ってるのすぐバレるぞ」

宮野と佐藤と一緒に授業をサボりに来た西谷はそう言うと制服の内ポケットから煙草を取り出し、すぐに火を付けて吸い出した。

「お前も吸うんかい！ 」

「二時間ぶりなんだぜ、二時間も我慢した俺を誉めろよ」

「ロンッ」

「まじかよ！ またヤられたよ～ 」

左隣でミニサイズの麻雀セットでジュースを賭けて勝負していた岡田たち四人がひと息付いて牌を触る手を止めた。

「交代交代、次は俺たち四人の番」 そう言ったのは岡田たち四人の勝負を後ろで立って見ていた川口たちだった。

「多くね？ 人 多くね？ ねえ何人居るの？ この狭い部屋に？ いち に さん ・・・ 臭くさっ！ 誰だよ屁こいたの！ 」

「…… 」

「ヒロトお前だろ！？ 」

「ほんとだマジくっせぇ！ 」

「お前腸腐ってんのかよ」

「実出てないか！？ 」

ブンブンブンブンブンッ ペコッ

「あああっ！ 西谷 俺のコーヒー勝手に飲んでんじゃねえよ！ 強く振り過ぎなんだよ！軽く振るんだよ！ すぐに開けんじゃねえよ！ ゆっくり開けるんだよ！ 不味くなるじゃねえかよ！ ああもう！ 狭いし暑いし臭いくせえし！ コーヒー不味くなるし！」

ガチャガチャ ギィィィッ！

「コラァ！ お前ら全員そのまま動くなー！ 」

「あっ…… 」