第9話 オッサンvs紅闇の死神
俺は、クリステルとフロリアーヌに言った。
「すぐに散会! 死神と一定の距離を取れっ!」
「「はい!」」
そう指示を出すと、俺は左手に風の渦を纏って、敵対する赤黒い一角獣天馬を睨んだ。
赤黒い一角天馬は、体中の闘気を燃え上がらせると、そのつぶらな瞳に俺の姿を映した。そして、向かってくる。
俺もまた栗毛君に言葉をかけた。
「根性見せろよ! ポニー隊、唯一の牡!」
『正直……怖い』
どう見ても危険な相手だが、ポニージャヴェック自身が撤退を嫌がっているのだから仕方ない。
天馬たちは人間を背負っているので、動きは遅くなるが、そのぶん俺たちには手数がある。
「行くぞ!」
俺は元からあった高度を生かして制空権を確保すると、上空から急降下する形で相手の赤黒い一角天馬に襲い掛かった。
敵は70センチメートルほどの角を構えて俺を迎え撃とうとしたが……俺はすかさず号令を出した。
「頼む!」
クリステルが水魔法を、フロリアーヌが長弓をそれぞれ放ち、敵の体勢を崩すと、俺は間髪入れずに風魔法を敵の天馬に向かって放った。
敵は角を剣のように用いて、俺の風魔法を斬り払ったが、姿勢はかなり悪いものになった。これはチャンスだ。
クリステルとフロリアーヌも散会したため、敵である赤黒い天馬は俺を睨みながら体勢を立て直そうとしている。俺はなるほど……と思いながら先行すると、敵天馬に背中を追わせた。
『ちょ、何考えてるの……ご主人!?』
「いいから飛べって……こんな感じでさ!」
俺は、栗毛君の左肩を軽くたたいて身体を傾けさせる。
敵である赤黒い一角獣は、その角を光らせると、まるでオートボウガンでも持っているかのように炎の矢を撃ち出してくるが、それらの攻撃は、まるで栗毛君を恐れるように斜め後方へと落下していく。
これには栗毛君も驚いていた。
『なにこれ……どういうこと!?』
「お互いに斜め飛行をしているだろう? だからまっすぐに狙っているつもりでも狙いが不正確になるんだ」
俺はそう解説しながら、栗毛君に急上昇を指示した。
その直後に、赤黒い天馬が炎魔法を飛ばしてきたが、1発だけ栗毛君の翼を掠めたくらいでほぼ無傷のまま、今度は俺が赤黒い天馬の背後を取ることができた。
「もらったぁ!」
しっかりと敵を射程内に収めた俺は、最大出力で風魔法を放ったが、なんと赤黒い天馬は、炎の壁を盾にして攻撃を防いできた。
「な、何だって!?」
俺の攻撃を受け流した赤黒い天馬は、軽々と空を駆けながらツブラな瞳に俺を映した。どう見ても……コイツはバケモノだ!
俺が悔しく思いながら心の中でつぶやくと、何やら不思議な声が脳裏に響いてきた。
――たまには人間とやり合うのも乙なものだな。我が名はオスカーアライズ。また遊びに来るがいい
渋く、男前な声だった。
しかし、呑気にそんなことに注目している場合じゃない。もう一人の俺であるポニージャヴェックは冷静さを欠いている。
「おい、どうしたポニー?」
ポニー自身の声が、今度は俺の脳裏に響いた。
――あのウマは……違う。私は……戦うべき相手を間違えた。
俺は何とか、ポニー自身の意識を奥に押しやると、クリステルたちを見た。
「クリス、フォリー! 母艦に帰還するぞ!」
「はい!」
「承知しました!」
俺たちの後ろ姿を見守っている一角獣オスカーアライズを感じ、俺は何とも言ない空恐ろしさを感じていた。
俺たちは敵対勢力の一角獣と、本気で命のやり取りをしていたつもりだったが、この目の前のオスカーアライズは、まるで模擬戦でも楽しんでいるかのような雰囲気で戦っていたのである。
「…………」
それも、6対1か。
このウマが本気で俺たちを襲いに来たら、果たしてどれくらいの犠牲が出ただろう。
――…………っ!
それだけじゃないか。
ポニージャヴェック本人も、先から感情を高ぶらせたままだ。何やら過去に大変な過去があったことは想像に難くないが……これを戦闘中にやられてはたまらない。
「空戦の時は……赤黒い一角獣天馬に気を付けないといけないな」
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