第6話 オッサンと女性隊員2人の小隊
栗毛君と共に甲板に向かうと、クリステルとフロリアーヌも、自分たちの愛馬に跨って待機していた。
「では、まずは私が飛び立って周囲の安全を確認する。合図をしたら2人は飛び立つように」
「はい!」
クリステルたちの返事を聞くと、俺は栗毛君に滑走路に向かうように指示した。
「では、頼むぞ」
『りょーかい!』
栗毛君は軽やかな脚取りのまま、空へと飛びあがっていく。
「軽やかだな」
そう伝えると、栗毛君は何とも言えない顔で俺を見てきた。
『槍なし弓矢なしというだけでも驚きなのに、ポニーさん……今回はチェインメイルだけなんだもん。そりゃ僕でも素早く飛び上がれるよ』
確かに、こんな天馬騎士は前代未聞かもしれないが、基本的に空の戦いでは天馬が飛べなくなれば墜落となることに変わりない。
ならば、天馬の負担になる装備を極限まで減らして、運動性能を高めた方が生き残る。
「まあ、偵察任務でもなければ……水兵たちに止められただろうがな」
『僕としては楽ちんでいいんだけどね。心配にはなるけど……』
雑談を交えながら船の周囲を飛び回ったが、敵影のようなものは見えないし、水中から人魚のような影も見当たらない。大丈夫そうだ。
俺は発艦指示を手で伝えると、クリステルとフロリアーヌの2人は天馬を操って滑走路を走り出した。彼女の天馬たちも軽やかな身のこなしで高度を上げていく。
『2騎とも身軽そうだね』
「ああ、細身の槍くらいは持ってきても仕方ないかとは思ったが、二人とも見事に軽装だな」
2人とも胸当てなどの防具は装備していたが、それでも男に比べて体自体が軽いため、天馬にかかっている負担は俺とあまり変わらない様子だった。
間もなく俺の左側にはクリステル。右側にはフロリアーヌという陣形で並んで飛ぶ形になった。
「これから周辺の空域を偵察するが、船は常に動いている。進行方向を考えながら飛ばないと洋上で迷子になるぞ」
「はい!」
自分で言っておきながら、あらためて恐ろしい言葉を口にしていると思った。
ここは全域が海という場所だ。ここで母艦とはぐれるということは、文字通り墜落……つまり死を意味することになる。
通常の偵察なら、方角はきちんと把握しているからそんなことは無いが、問題は敵の偵察部隊と遭遇した時だ。
激しい上空での戦闘を行うと、自分の方角さえ見失って、明後日の方角を目指して進んでいくということがリアルであるだろうから困る。
俺は女性隊員2人を引き連れて。南南東の方角を目指した。
なぜこの方角なのかと言えば、空襲をしてきた敵の天馬母艦の存在が確認されているからである。
飛び続けること30分。俺の視界には敵対勢力である、赤と緑色の特徴的な旗を掲げる船団が現れた。
「……天馬母艦2。中型護衛船3、小型護衛船5。あれで間違いなさそうだな」
そう伝えると、女性隊員2人も生唾を呑んでいた。
「思った以上に大きな船団ですね」
俺は望遠鏡を手に取ると、天馬母艦の様子を覗き見た。
すでに向こうも俺たちの存在に気付いているらしく、甲板に天馬騎士を呼び出して出撃の準備を始めようとしている。
「どうやら、奴さんがたには気づかれているようだ。引き返すぞ」
そう伝えると、女性隊員たちもすぐに俺に従った。
偵察用の天馬は移動速度が速いことを向こうも熟知しているらしく、追撃をしてくる様子はない。
俺たちは予定通りに、自軍の甲板に降り立つと、すぐに天馬隊長の部屋へと向かった。
「報告します。南南東の約35キロメートル地点に敵船団を確認。天馬母艦2、中型護衛艦3、小型護衛艦5でした」
「35キロメートルか……相変わらず食いつかれているな」
そう呟きながら、天馬隊長は腕を組んで難しい顔をした。
隣にいた、貴族出身の天馬隊長補佐も難しい顔をしながら隊長を見た。
「隊長……ここはやはり、打って出るべきです! 精鋭と謡われる我ら王国天馬隊なら……必ずや敵母艦を航行不能に陥らせることも可能かと」
「早まるな! 敵は尾行してくる母艦2隻だけではない。我らの任務は秘宝グリーンクリスタルを安全に故郷に送り届けること」
その言葉を聞いた、天馬隊長補佐は苛立った様子で下唇を噛むと、すぐに俺に視線を向けた。
「ポニー……貴様はどう思う?」
俺に振らないでくれよ……と内心では思ったが、意外にもすぐに言葉は出た。
「敵は尾行を続けていますが、攻撃を仕掛けてこないということは、我らの実力を恐れて守りを固めている可能性があります。獅子のように睨んで敵をけん制することも必要かと……」
そう伝えると、天馬隊長補佐は納得いかないが、一理ある意見だと言いたそうに複雑な表情をしていた。
「我慢比べか……胃がキリキリしそうな話だ」
「とにかく、偵察任務ご苦労だった。明日に備えてゆっくりと休んでくれ」
俺は「ははっ!」と答えると、丁寧に天馬隊長の部屋のドアを閉めた。
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