第4話 撃墜されたペガサス隊の補充
間もなく水兵たちは、特殊な小型船を使いながら水面に浮いているペガサスの回収を行っていた。
鎧に身を包んでいる騎士やライダーは、撃墜されると溺れて死んでしまうことは多いが、元々裸の天馬の場合は、自分自身がダメージを受けていなければ助かることもある。
水兵たちは水面から18頭ほど、動けるペガサスを引き上げると、納屋まで連れてきていた。
「そのまま使えそうなペガサスは12頭。残る6頭も治療すれば大丈夫でしょう」
納屋の責任者であるダンが言うと、天馬騎士隊長は難しい顔をしたままヒゲを触っていた。
「問題は天馬騎士の方だな……予備の者は10名しかいないから、残りは水兵から募集するしかあるまい」
ペガサス隊は83騎まで数を回復させたが、残る8騎が問題だった。
もう予備の天馬騎士はいないため、天馬騎士団長たちは一般水兵に募集をかけたが集まりは良くなかった。
そもそも、ペガサスを乗りこなせる人材が珍しいうえに、死と隣り合わせの割には一般兵にとって魅力はあまりないのだろう。
この世界に来て3日目の朝になった時にも、食堂には天馬騎士募集の張り紙が付いたままという状況だった。
食事をしていると、ポールたち若手メンバーもやってきた。
「ポニーさん、となりいいスか?」
「構わんぞ」
ポールたち4人組は、俺の隣のテーブル席に腰掛けると、さっそく騎士募集のことについて話しはじめた。
「相変わらず集まり悪いみたいだな……騎士の件」
「そりゃそうだろ。天馬に乗れるのなんざ、俺たちみたいな高原育ちか金持ちくらいだし」
「そういやさ……おもしろい話を聞いたんだよ」
「なんだよ?」
マルタンはニヤニヤしながら、他のメンバーに近づくように手で合図した。
「騎士募集の話……どうやら、女の子が立候補したらしいぜ?」
「ま、マジ!?」
他の3人が驚きの声を上げると、マルタンは口元に人差し指を当てた。
「まだ決まったワケじゃねーけど、女の子が天馬騎士に乗ったりしたら……お坊ちゃんたちが騒ぎそうだよな」
「ああわかるわかる。天馬は勇猛果敢な男が乗るもんだと思ってるもんな……お坊ちゃんたちはな」
「なに夢見てるんだろうな〜?」
まあ、俺には関係ない話だろうなと思いながら聞き流したが、翌4日に天馬隊長に呼び出されることになった。
この流れは……何やら嫌な予感がする。
「ポニージャヴェックです。ただいま……」
「入ってくれ」
「失礼します!」
ドアを開くと、天馬隊長の部屋には2人の少女たちの姿があった。
片方は長弓隊に所属していたフロリアーヌ。もう片方は納屋担当のクリステルだ。この流れはもしや……と思いながらも、隊長の話をとりあえず聞くことにした。
「忙しいなかすまない。実はだね……この2人の指導を頼みたいのだ」
正直に言うと、あまり面倒ごとには関わりたくない。
どうにか断れないだろうかと考えを巡らせてみると、なかなか説得力のありそうな材料があることを思い出した。
「よろしいのですか? 私は過去に1度撃墜された身です。それに……この母艦に来る前はただの狩人。王国で正式な訓練を受けたことは一度もありません」
俺としては最初の1度撃墜されたとだけ言おうとしたら、更に口が勝手に過去の出来事まで告げてくれた。もしかしたらもう一人の俺が手を貸してくれたのかもしれない。
これで天馬隊長も引き下がるだろうと思っていたら、彼は引き下がるどころか食い下がってきた。
「君も存じているとは思うが、この船旅は困難を極めるものになる。今までの格式ばったやり方ではなく、天馬の運用方法にも抜本的な改革が必要になるだろう」
彼は鋭く俺を見てきた。
「ぜひやって欲しい!」
ブラック企業にいたときは、部下に全ての責任や業務を押し付け、自分だけ楽をし安全な場所に居ようとする上司ばかりを見てきた。
しかし、この天馬隊長は違うように思える。前の空戦でも率先して敵と戦いながら味方に指示を出していたし、今回でも全身全霊で天馬隊の改革をしたいという気持ちに偽りはなさそうだ。
俺はぐっと手を握りしめた。これほどの意志力を持った上司は初めてだ。
ならば……
「わかりました。俺なりにやってみましょう」
そう答えると、天馬隊長は胸を撫でおろすように体中の力を抜いて安心してくれた。
「ありがとう! では……ただいまより、ポニージャヴェック君を小隊長に任命する。彼女たちにお願いしたいのは偵察任務だ。しっかりこなせるように指導してやってくれ」
偵察任務と聞いて、俺も心底安心した。
さすがに女の子2人を引き連れて、戦場を飛び回るというのは気が引けたし、偵察任務なら俺自身も生き残れる確率がぐっと上がるというモノだ。
こうして俺は、小隊長の階級と2名の部下を持つことになった。
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