第3話 初空戦
「各員……各個に敵を撃破せよ!」
天馬騎士隊の隊長が号令を出すと、天馬母艦の騎士たちは、一斉に槍や弓矢を構えて敵天馬騎士たちへと襲い掛かった。
「ちょ……まだ俺たち、上がり切ってないんだけど……」
ポールが言うと、ラファエルも渋い顔をしながら答えを返した。
「空にいるだけ、今回はマシだろ」
最後に飛び立ったポール一行は、味方の撃ちもらした敵天馬騎士を攻撃しに向かった。
空には敵味方合わせて200近い天馬騎士たちが飛び交い、敵の背後を味方が取り、その背後を敵が取りと、敵味方が入り乱れた乱戦へと突入していく。
そして、攻撃を受けた天馬騎士が、次々と血を噴き出しながら水面へと落ちていった。味方である青色の旗印が3騎、敵である赤と緑の旗印の天馬が5騎、水面へと呑み込まれていく。
『ひいぃっ!』
そして、俺の跨っている栗毛君はと言えば……怯え声を上げたまま逃げ回っている。その姿を見たポールたちは、ひきつった顔をしていた。
「いくらポニーさんでも、ありゃお手上げだな……」
「本当に逃げてばっかりで使えない奴だ」
普通はそう思うのか……と考えながら、俺は栗毛君を眺めていた。
コイツ、確かに必死に逃げ回っているが、感覚がいいのか常に安全な場所を飛ぼうとしている。
空の上は敵味方が入り乱れて戦っているため、常にどこが安全かは変わってくるし、場合によっては味方の流れ弾ならぬ流れ矢にも気を配らないといけない。
納得した俺は、まず左手に持っていたランスを放り投げて、敵天馬騎士に命中させた。
『え……? ご主人?』
「余計なモノがない方が、お前も思い切り飛べるだろう」
次に長弓を構えると、敵天馬に向けて連射し、4発で1騎を撃墜。間髪を入れずに3連続で矢を放って、また敵天馬を撃墜。
「槍や弓でウマを狙われたらアウトか。鎧なんてただの錘でしかないな」
矢の数がなくなると、俺は長弓ごと放り投げた。
『ゆ、弓まで捨てて……何を考えてるんです!?』
「これでまた軽くなったぞ」
『メチャクチャですよ~!』
俺は栗毛君に指示を出し、母艦上空からやや外れた場所へと出てもらった。そこは敵も味方も数が少なく、部隊から外れた天馬騎士たちが仲間を探していた。
「よし、アイツをやるぞ」
『は、はい!』
俺はその中でも、特に油断していそうな敵に狙いを定めて急降下を指示した。栗毛君に蹴りを入れさせる手もあったが、俺ことポニージャヴェックは風魔法も使えることが、最初に槍を投げた時にわかった。
「う、うわあっ!」
無警戒だった敵天馬騎士は、俺の風魔法を受けて水面へと呑み込まれていった。その様子を見ていた複数の敵天馬騎士が、かたき討ちをしようと俺を追ってきたが、今の俺はランスも長弓も持っていない。
栗毛君に急上昇を指示すると、楽々と敵天馬騎士たちの追撃を振り切った。
俺は体勢を立て直すと、今度は上空300メートルほどから、足元で戦っている天馬たちを眺めた。
やはり、敵天馬の中には、油断している者や別の敵に気を取られている者がいる。
「次はあいつだ」
『え、ええ~ もうやだよ~』
「そうか……ならば仕方ないな」
俺はそう答えると、今度は胴体にあるブレストプレートの紐をほどいた。そして水中を目掛けて勢いよく投げ捨てると、栗毛君は仰天した様子で俺を見てきた。
『う、うそ……何を考えてるのぉ!?』
「これなら文句はないだろう。それともチェインメイルも削減すべきか?」
『メチャクチャだよ!』
そう不満を口にしながらも、栗毛君は急降下の指示に従ってくれた。俺は敵天馬騎士に近づいたところで風魔法を発射。敵天馬を狙って確実に撃墜した。
そして、天馬母艦へと目を向けると、敵天馬騎士が爆弾を落としてきたが、それは水面へと落ちて水柱を上げていた。
母艦の上にいる水兵たちが必死に矢を放っていたので、敵天馬騎士も接近できなかったのだろう。
続いて突っ込んできた敵天馬騎士も、爆弾を落とすよりも先に、水兵の長弓を受けて爆弾ごと水中へと突っ込んでいく。
更に爆弾を持った敵天馬騎士が母艦へと襲い掛かったが、味方の天馬騎士たちが次々と援護に入って敵天馬を撃破していく。
『今……フレンドリーファイアしたね』
「ああ、俺はあそこまで母艦には近寄れない」
敵天馬騎士は、次々とペガサスに括り付けていた爆弾を海中に投棄し、上空へと撤収を開始していく。どうやら俺や母艦は生き残れたようだ。
味方の天馬騎士の隊長も号令を出した。
「深追いはするな……各員、周囲に警戒しつつ帰艦せよ!」
当然だが、最初に帰還するのは貴族階級の天馬騎士からだ。40騎ほどいた彼らも戦闘を終わらせた時には28騎まで減っており、戦闘の厳しさが嫌でも伝わってきた。
そして市民階級の天馬騎士たちも被害を受けていた。55騎いた我々も45騎まで減っているため、今回の味方の被害は22ということになる。
最後に俺が甲板へと帰還すると、先に降りていたポール一行が出迎えてくれた。
「5騎撃墜……大戦果でしたね!」
「オッサンの雄姿を見て、思わず胸が熱くなっちゃいましたよ!」
彼らは上機嫌だったが、俺は水面に浮かんでいるペガサスの死体を眺めていた。
元々ペガサスの納屋は100あったことを考えると、すでに3割近い味方がやられている。つまりこれは全滅の状態だ。すぐに天馬隊を補充した上に再編しないと……今度こそ母艦が被害を受けるだろう。
「戦果よりも味方の被害が深刻だ。次に補給はいつ受けられる?」
そう質問すると、ポールたちはお互いを見合ったまま黙ってしまった。代わりに口を開いたのは、愛馬の栗毛君だった。
『これって、母艦に安置されているマナクリスタルを届けるための航海でしょ。しばらく……難しいんじゃないかな?』
俺はじわりと冷や汗をかいていた。おい、まだ俺がここに来て初日だぞ。
最初から部隊が全滅状態なんて、これから365日……どうやって、生き延びればいい!?
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