第1回カクヨム短歌・俳句コンテスト俳句の部

しばしば

金魚の尾 ひらひら いのち ひらひらと

 小さい頃に暮らした家にはいつも金魚がいた。ぜんぶ縁日の金魚掬いで貰った金魚だからあんまり強くはなかった。ガラス水槽の中の小さな命の数は時々増えたり減ったりして、その中に随分長生きした一匹がいた。胴の大きさは何年経ってもさして変わらなかったのに鰭と尻尾はだんだん長く伸びて水の中で格別優雅に揺れていた。

 あの頃の私は学校で授業を受けながら窓の外を眺めては、決まりごとでがんじがらめの日常を「この世界は水槽みたいだ」と月並みな言葉で表し、だからといって何をするでもなくただ並べられた席に言われた通りに座っていた。窓の外、無限に見える空間をずっと歩いていくときっとどこかに透明の壁がある。その向こうに行くと生きていけなくなるような気もするけど、それでもどうなってるのか知りたいな、なんて無邪気に望んでいた。

 それから長い時が経って、金魚と暮らしたあの家は今はもう世界のどこにもない。私の思い出の中にはずっと鮮明に残っているのに。近頃は、最後に一匹残ったあの鰭と尻尾の長い長生きの金魚に自分を重ね合わせたりもしている。

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第1回カクヨム短歌・俳句コンテスト俳句の部 しばしば @shibashibaif

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