ロストプロローグ:討滅

俺が語り部である以上、一番最初に言っておこう。


−世界はクソである−


そうじゃなきゃ俺は今も、実家でぬくぬくと暮らしていたはずだ。

なんたって俺は世間一般で言うニートなんだから。

ただのニートじゃないぞ。ニートになってもう5年の中堅だ。

ネトゲとエロゲと自家発電だけで1日を消費できる言わば人生のプロだ。

当然ながら親は毎日泣いて喜んでたし、兄貴と妹の視線も独り占めさ。

モテ男は困るねまったく。


そんな俺だが、昔っからニートの素質があったわけじゃあない。

小学生の時から努力なんてのに縁が無い程俺は才能に恵まれてた。

テストは毎回上位。徒競走と持久走は当然1位。

高校にも、大学にもストレートで合格して、卒業後は嫁さんを貰って子供も二人生まれ、順風満帆な人生が待っている。そんなビジョンを持っていた。

だが実際は高校受験に失敗。俺は滑り止めなんて受けてなかったから高校生にはなれなかった。

人生で初めての挫折を経験した。

浪人し、再受験したが、1年でたるんだ腹は受験と共に戻ってはくれなかった。

努力なしに高校の勉強についてはいけず、成績はあっという間に下落。

頭も悪くてデブで、その上年齢も違うときたら始まるのはいじめと相場が決まっている。

小説やアニメでしか見たことがないいじめの数々に俺の心はいともたやすくポッキリと折れ、今に至る。


「頑張ってみろよ。案外なんとかなるかもしれないぞ。」


無責任な言葉を吐いてくる両親の顔は全く笑っていなかった。

事あるごとに俺の部屋にゲームをしに来た兄貴も、あんなに俺にべったりだった妹も、ぱったりと来なくなった。(ロリ物のエロゲをやってるとこを見られたのかもしれない)

そして当の俺はオタク趣味にのめり込み、現状を解決しようとはしなかった。

そんな俺に両親が愛想を尽かすのは当たり前で、殴ってでも家から追い出そうとするのも当たり前だ。

兄貴には殴られ、親父には出て行けと迫られ、追い詰められた俺は、運命のいたずらなのかなんなのか

積み上げてあったラノベの山につまずいて

100キロの巨体を持ってして窓ガラスを破壊し

マンションの六階から落ちた。


どうしてこうなったんだろうか。

俺の人生どこで狂ったんだろうか。

地面に衝突する刹那、俺はそんなことを考えた。

頭だけやけに冷静だった。


「結局クソゲーかよ人生。」


直後、俺は地面に着弾した。

骨の折れるリアルな感覚と、ボクッみたいな音が全身に響き、全身に今まで感じたこともない痛みが走る。

俺は、死んだ。

________________

僕の名はライカ。夢士になって12年の半機装人形オートマタだ。

僕は今から、悪夢を討伐する。

悪夢を呼び寄せ、狩る。それが僕の役目だから。

僕の生き残った部位が悪夢を呼び寄せる以上、この役目は永遠に続くんだろう。

いつから僕の身体から暖かさが失われたのか。

わからない。

わからないのだ。

覚えていることはあれどそれは電子回路による粗雑な模倣にすぎない。

本物の脳は既にこの世に無いのだから。

________________

俺がこのデカ鳥の前に立ってから数分が経った。まだライカは動かないままだ。

大仰にナイフなんか出しておきながら今更尻込みか…?


「あの……ライカさん…」

「動かないで。守れない。」


は?守れない?こいつ、俺を守るつもりでいるのか?


「守れないって……自分の身ぐらい自分で守れますが?」

「君の力量がどんなものかは知らないけれど、夢に呑まれるのが関の山だよ。いいから大人しくしていて。」

「ほほー?」


どうやらこいつは俺のことを舐めているらしい。

無理もない。自分よりも明らかに年下な俺が自分の身は守れるなんてぬかしてるんだ。こいつにとっては面白くないだろう。だが、


「地を這い、空を舞う風よ。我の前に結合し、力を与えよ。"風刃ウィンドブレイド"」


そんなことはこの世界に来てから何度も経験してきた。

見てわかる。このデカ鳥は別に格上じゃない。

空気を圧縮して作った刃がデカ鳥に飛んでいく。

今の俺が持つ最高レベルの魔法なら

同レベルくらい問題なく殺れる。


「っッ!?何してるの!!」


おいおい…ちょっと指示を無視しただけでキレすぎだろこいつ……


そんなことを考えた瞬間、俺はふっ飛ばされていた。

__________

「うーん……この子が持ってる夢は僕が見たのとは違うみたいだ……」

「えー?じゃあこの子無駄死にじゃない。」

「神は適当って知識が手に入ったからプラマイゼロ。」


悪夢を水晶玉に閉じ込めた後、僕は国の外にまで行って、哀れにもバラバラになって、無価値な夢になってしまった転生者の少年の身体の欠片を地面に埋めていた。


「転生者が生まれたのはここじゃないみたいだね。」

「ヒノモトも外れー?一体どこまで行けばいいのさー。」

「行けるところなら世界の果てでも空の上の宮殿でも行くさ。」


海はちょっと無理かもしれないけれど。


この国にいた経験は決して無駄ではなかったと思う。

少年は死んでしまったし、僕は彼が目的の人間ではなくて無駄足を踏んでしまったわけだけれど。これもいつかは役に立つ。


「行こっか二人とも。」


僕はライカ。転生者を探す機装人形オートマタだ。


              ・・・ロストプロローグ


                ‐終幕‐


__________

笑い声が聞こえる。

嬉しそうな笑い声が。

なんだろう。懐かしい温かさも感じる。

俺はゆっくりと目を開けた。


第一幕__アルフォンス・リ・セディア

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