・・・プロローグ 狩る者と狩られる者
調査報告書
エリア822/エリア名 ヒノモト
出現の有無/有
所有者 不明(未調査)
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・
・意思疎通の可否/不可
詳細・特徴
大型鳥類の見た目をした通常色の悪夢。
着陸からしばらくこちらを伺うかのように静止していたが、こちらが武装を展開すると行動を開始しようとする様子が見られた。
数時間以内に続報を確認できなかった場合、エリア822の座標24−5へ増援を求む。
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ボクがトランクから小さなナイフを取り出して、黒鳥に向けると、黒鳥はこちらを睨んで、羽を広げて威嚇のようなモーションをとった。
敵意があることは伝わるらしい。
次に黒鳥に立ち去って欲しいという旨を言葉で伝えたが、黒鳥は微動だにしない。意思疎通はできないようだ。
「面倒だな……ナル起きて。」
「むぅー?」
「あの鳥の所有者探して。場合によっては緊急コール。」
「りょーかい」
しばらくムムムと目を見開いたナルだが、見開いている時間からして見つからないことは明らかだ。
「セイル。」
「兵装は無いわよ。」
「わかってる。ありあわせ見繕ってよ」
「
「まだいい。」
機装のメンテはセイルに任せて報告書を書く。この報告書を本拠地に送信し、増援や兵装の要請を出すんだ。今回は増援だけ。
「あのぉ…なにをなさるおつもりで…?」
「戦い。」
「はい?」
意味がわからないという顔をされる。当然だ。こいつに夢は見れないだろうから。
「うわぁぁぁぁ!!!」
建物のどこかからまだあどけなさの残る声が聞こえてくる。
子供の狩人だろうか。
「もう…なんでこんなことに……死にたくないよ…嫌だよ…」
子供の狩人はなるべくしてなったという奴が少ない。
大抵の場合、日々の糧を得ることができないような階級の奴が仕方無しになるのだ。
当然そんな奴はすぐに死ぬか精神が壊れる。
たとえ狩人になり、神の加護を得たとしてもだ。
「大丈夫だ…ここはきっと安全…安全なんだきっと…」
そんな立場の奴以外でも狩人が死ぬときは死ぬ。
老練の狩人も新米の狩人も、戦士もクズも、等しく死ぬ。
なぜなら夢がいるから。
『狩人は魔を討ち
夢士は夢を破り
民は支配を覆す』
こんな一節がある。
狩人は魔を専門とし、夢士は夢を得意とし、民衆は支配を破る団結を持つ。
という意味を持っている。そして、どれも専門分野以外に対しては無力ということも意味しているのだ。
『狩れぬゆえ狩人、夢破れず
過去ゆえ夢士、支配怖れ
邪心ゆえ民、魔に呑まれん』
要するに狩人は夢を破れないのだ。
「あの時と同じ…あの時と…」
見えたとしてもただそれだけ。対処する
それにそもそも狩人の専門は狩ること。
狩る以外できない彼らは夢を破れない。
狩人になるとは、夢想に喰い殺される恐怖に怯えるということなのだ。
「なにか…外のあいつを倒せるような物…」
………
「ねえ、キョウリ?」
「はっ、はい?」
「あれは誰?」
先程から一人でいる子供を指して問う。
「あれは近頃狩人に登録予定の子です。ああ見えて腕が立つんですよ。何しろ7歳で複数の魔法が使えるんですから……ってぇ!?どうしたんですかライカさん!!」
「え…?」
キョウリの説明を聞きながらボクはいつの間にか涙していた。
だって仕方ないじゃないか。
『ボクの生の目的が達せられる未来が少しだけ見えたんだから』
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「ミズキです。先月7歳になりました。」
「ライカだよ。多分15歳だよ。」
「え?多分?」
「こっちの話。」
キキョウの紹介を聞いてから数十分後。ボク達はこのミズキという少年と一緒に黒鳥の前にいた。
「じゃあミズキ。最後に確認だよ。あの黒鳥が見えるんだね?」
「はい。」
「僕の指示に従えるね?」
「…はい。」
「じゃあ行こうか。」
「了解です!」
そう言って彼はまだ恐れの色が見える瞳を無理に歪めてみせた。
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報告
エリア822/エリア名 ヒノモト
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大型鳥類の見た目をした通常色の悪夢。
着陸からしばらくこちらを伺うかのように静止していたが、武装を展開すると行動を開始しようとする様子が見られた。
一時間四十二分三秒後、当該悪夢を鎮圧。
またこの際
『死傷者一名』
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用語録
夢士
夢という存在を観測し、破ることを目的とした集団。
彼らは狩人と協力して共に国家を守っていたが
同時に夢を観測することは異端であるとされ、多くの夢士が処刑されてきた。
そのため過去の文章には迫害の歴史が色濃く残っており、今でも夢士迫害主義を掲げる国家が存在する。
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