オーニソプターの飛翔1


『2045年5月1日』





「武蔵武蔵! 飛行機について教えて下さい!」


「やなこった。今は飯の時間だ」


「そういって、昨日は放課後も遊んでばっかりだったじゃないですか!」


「アーアーキコエナーイ。ワタシニポンゴサッパリネー」


「Please tell me how to fly an airplane!」


「くそ、こいつバイリンガルだったな……」


 5月に突入し、暖かくなってきた昼下がり。

 教室にて今日もまた武蔵とアリアは騒がしく言い合っていた。


「いいではないですか! 時は金なりです、飛行機に関して学ぶことはまだまだあると思います!」


「妙子先輩に教えて貰えばいいだろう。マネージャーとはいえ、あの人だって色々知識はあるみたいだし」


「―――…………。」


 なんというか、色々と言いたいことはあるものの、教えて貰っている以上文句は言えない、みたいな苦渋に満ちたお顔であった。


「まあ、なんだ……悪い」


「いえ……部長は面倒見もいい、素敵な先輩です」


 妙子は教えるのが下手だった。そりゃあもう、裸族が裸足で逃げるくらいに下手だった。


「とにかく昼休みは飯を食わせてくれ、一時間しかないんだから」


「なら一緒に食べましょう」


「言っとくが、日本じゃ昼ごはんを一緒に食べる男女はただならぬ関係だと周囲に認識されるぞ」


「その手にはもう引っかかりませんよ」


「そうか。はい、あーん」


 弁当のおかずを箸で取り、アリアに差し出す武蔵。

 差し出されたイカさんウインナーを、アリアはきょとんと見つめる。


「なんですか?」


「いや、おかずの交換くらい普通の遊びだろ?」


「そうなのですか。では失礼して」


 武蔵の箸から、ぱくりとウインナーを戴くアリア。


「では返礼せねばなりませんね。あーん」


「おうよ、貰うぞ」


 平然と互いに、おかずの交換を続ける二人。

 そんな男女を、教室のクラスメイト達はこっそりと伺っているのであった。







「武蔵武蔵!」


「なんだうるさい」


 放課後になると、怒り顔のアリアがいきなり迫ってきた。


「先程クラスメイトから、私と貴方が交際しているのではないかと訊ねられたのですが! 貴方何か変な噂を流しましたね!?」


「酷い言いがかりだな。きっと昼のを見て皆そう思ったんだぞ」


「昼の、とは?」


「男女が弁当を一緒に食うと、男女交際していると認識されるって注意したろ」


 アリアは情報元らしい女子生徒の元へ駆けていき、すぐに戻ってきた。


「本当でした! 昼、私達がお弁当を食べているのを見てそう疑念を抱いたと!」


「だろー?」


「どうして教えてくれなかったのですか! 昼食を一緒に食べたら交際しているサインだなんて!」


「だから教えたろう」


「はい、確かに! 恨みます!」


 恨まれた。


「そんじゃ、俺はもう行くぞ。今日は用事があるんだ」


「そう言って逃げる気ですね! 約束通りエアレースについて教えて下さい!」


「どんだけ信用ねえんだよ俺。ちょっと他の学校に顔出しに行くんだ」


「練習試合ですか?」


 部活で他校へ赴くとなれば、練習試合だと推理するのは当然であろう。

 実際そういうことは空部同士でも珍しくはない。武蔵も現役時代は様々な名門校の空部へと殴り込んでいたのだ。


「俺はもう競技から引退している。道場破りはなしだ」


「競技? ……そういえば、空部の大会って具体的に何をやるんでしょう?」


「お前は何がしたくて空部に入ったんだ……?」


 アリアの空部への入部。てっきり競技に参加したいが為だと考えていた武蔵だが、彼女はそこまで深く考えてなどいなかった。


「飛行機に乗るの、楽しかったので」


「……そうか」


 あまりに原初的な欲求。

 それを否定する言葉を持たず、何故か眩しく思えた武蔵は目をつい逸らす。

 武蔵は目を逸らし、空から逃げてしまった。立ち向かわんとポーズはとってはいるものの、ゼロを再び戦場に舞わせる勇気が持てずにいた。


「ああーっ! 今、ちょっとバカにしましたね!」


「してないよ。お前が真剣なのはあい解った」


「え、あ、はあ」


 まさかあんな曖昧な動機を『真剣である』と評価されるとは思わず、アリアは戸惑ってしまう。


「わ、判ればいいのです! というわけで、私に―――」


「本当に忙しいんだ。他校に行くのに遅刻するのはまずい」


「……おや?」


 どうやらはぐらかす為の詭弁ではないと気付いたアリアは、不思議そうに訊ねる。


「今日は本当に、何かご用事があるのですか?」


「最初からそう言ってるだろう……」


「詳しくお聞きしても?」


 用事があるならば無理強いは出来ない。その内容を訊ねるアリア。


「自衛隊の宇宙護衛艦やまとが、今ちょうど大規模整備中なんだ。滅多にない機会だからな、港にいる間に見学を申込んでおいた」


「ほう。変なところで勉強熱心ですね。しかし個人で見学などさせてもらえるのですか?」


「いや、雷間高校空部の名義で申し込んだ。個人でも駄目とは言われないだろうが、空部ならば割と好意的に迎えられるし」


 空部の部員は教育課程を行うまでもなく、最低限基礎的な機械知識を学んである。自衛隊にとっては格好の獲物だ。

 今も昔も、自衛隊は若い人材の確保に躍起になっているのである。


「職権乱用です」


「割と健全な申し込みだろ。俺にしては」


「普段は不健全であると遂に認めましたね。って、空部名義なら私も無関係ではないではありませんか!」


「今日はあくまで打ち合わせだぞ? お前は留守番してろ」


「部長も行くのでしょう? 私1人残って何をしていろと」


「いや、妙子先輩は用事で行けないそうだ。お前も部室秋津洲には行かず、さっさと帰れ」


「空部といいつつ、実質貴方1人ではありませんか」


 やはり職権乱用であったと不満を示すアリア。


「先方も1人だけ来られても迷惑だろうし、ちゃんと他学校の空部も合同でお誘いしている。雷間高校空部みたいな幽霊部活動ではない学校だから、それなりの人数になるはずだ」


 アリアはいっそ関心した。この男、自分の目的に対しては実に迅速に行動する。


「そのバイタリティーを是非、新入部員の育成に向けてほしいものです」


「独学で学んでやろうってくらいの気概のないヤツは、人から教わったって程度が知れるぞ」


「教えるのが億劫な育て下手人間の常套句です」


 耳を手の平で塞ぎ、アリアの指摘をスルーする武蔵。

 アリアは武蔵の両手を頭から剥がし、見学への参加希望を申し出た。


「そういうことなら私も行きますから。解説お願いしますよ」


「専門家の説明を素人向けに再翻訳しながら見学しろというのか……」


 武蔵は若干憂鬱になった。これでは自身の勉強もままならない。


「ところで他の空部というのは? そんなものがあったのですか?」


「あるに決まってるだろ。セルフ・アークに学校が幾つあると思っているんだ」


 練習しやすい大規模な空港が近い学校は、空部の激戦区になりやすい。

 宇宙港のあるこの近辺の高校もまた、同様に空部の活動が盛んなエリアだった。


「鋼輪工業高等学校という空部強豪校でな」


 何故か不意に、遠くを見やる武蔵。


「……正直あまり気は進まないんだが、都合がついたのがあそこだけだった」


 苦渋の表情をする武蔵に、アリアはその理由をすぐに察する。


「どうせ、その学校の女生徒に手を出したから気まずいとかそんな理由でしょう? 他校にまで魔手を伸ばすとは流石ですね」


「違う。向こうが、俺にちょっかいを出して来るんだ」


「―――武蔵! 人として、言っていいことと悪いことがあることも解らないのですか!?」


「なんで俺が責められるんだよ……」







 ただの打ち合わせなら興味はないから帰る、と舐め腐ったことをほざくアリアと別れ、武蔵は空中バスで鋼輪工業高等学校へと向かう。

 すっかり遅くなった日の入り、未だ燦々と明るい太陽を眺めつつ武蔵は思案する。


「アリアにプレゼントをせびれそびれた」


 実は今日は武蔵の誕生日だった。

 ここぞとばかりに友人知人にそれをアピールしてきたのだが、アリアには伝えられていなかったのだ。

 仮に伝わっていたとして貰えない可能性も高い。高いが、それでも僅かな可能性に全てをかけることを厭わない男であった、武蔵は。


「明日にでも教えておくか。『えっ、昨日誕生日だったのですか!? どうして教えてくれなかったのです、一日遅れですが誕生日プレゼントとして私をもらって下さい!』って展開もありうるしな」


「「「ねーよ」」」


 武蔵は周囲に座っていた見ず知らずの乗客達に総ツッコミされた。

 武蔵は不服そうに周囲の彼らを睨み、だが逆に哀れなものを見る目を向けられそっと視線を空中バスの外に戻す。


「美人の先輩、可愛い妹、同い年のバイト仲間、ストーカー女の都合4人からプレゼント貰ったし! プレゼント弱者なんてことはないし!」


 決して自分は虚しい人種ではない。そう大声で周囲に知らしめる武蔵。

 小物である。


「いやストーカーってなんだよ」


 思わず突っ込む武蔵の後ろに座っていた男子生徒。

 彼は知り合いでもなんでもないが、不穏な単語に指摘せずにはいられなかった。


「ストーカーはストーカーだ。差出人不明の大きな手作りホールケーキが郵送されてきた。愛を感じるだろ」


「その愛で喜べるのかアンタ」


「手作りだぞ手作り。長い髪の毛が入ってたのは調理中の事故混入であると信じたいところであるが、とにかく愛は感じるだろう」


「食ったのかよ」


「ちなみに妹からのプレゼントは肩たたき券(有料)だ」


「実質まともなプレゼント2つじゃないか」


 有償の肩たたき券など前代未聞であった。割引ですらないのだ。


「ちなみにバイト仲間からのプレゼントはスピルだ」


 武蔵はポケットから金属片を取り出して自慢げにみせる。


「……なんだそれ」


「モーターの軸とかが空回りしないようにする為の金属片だ。これは独自規格の珍しいものなんだぞ」


「ありがたいものなのか?」


「いや正直扱いに困ってる。だが愛は感じるだろう」


 こいつに向けられた愛は等しく歪んでいやがる。

 男子生徒は武蔵を残念な人を見る目で見た。


「その調子だと、美人な先輩のプレゼントだってしょうもない物なんだろ?」


「失礼な、見ろこの立派な本を!」


 武蔵は鞄から取り出した本を示す。


「英語書?」


「ジェーン年鑑といって、世界的にも有名な軍艦の本だ。一冊10万以上もする権威ある本なんだぞ」


「へえ、そりゃ確かに愛を感じる。船好きにはたまらんな、良かったじゃないか」


 ようやくまともな、それも立派なプレゼントがでてきた。

 他人事ながら、後部座席の男子生徒も安堵させられる。


「いや俺、別に船好きじゃないけどな。たぶん読まない」


「…………。」


 男子生徒はそっと武蔵との会話を打ち切った。

 読まない高価な本。金属片。雑用有料券。呪いのケーキ。

 こいつはまともなプレゼントを貰えない、そういう側の人間なのだ。そっとしておいてやろう。

 彼はそんな優しさをいだき、武蔵に飴玉を1つ差し出して肩を叩き、椅子に座り直す。

 武蔵は貰った飴に首を傾げる。


「誕生日プレゼントか?」


「そうだよ、それでいいから」


「これで5個目だ、ありがとう」


 屈託のない武蔵の笑顔。

 名もなき男子生徒には、その笑顔は妙に眩しく見えたのだった。







 鋼輪工業高等学校。

 次世代の技術者を養成することを目的としたこの学校には、大小様々な技術系部活動が存在する。

 社会で即戦力となる人材を育てる為、校風としてこの学校は現場での経験を重視している。その指針に則った活動であった。

 座学を軽視するのは愚かだが、実地の経験はやはり必須だ。そういった積み重ねは間違いなく個々人の財産となり、この国の将来を支える人材の礎となる。

 それを理解するからこその活動であり、その内容は多岐に渡る。自動車レースからロボット大会、そしてエアレース参加を目的とする空部まで。

 この学校に関わる生徒はすべからく何かしらの専門家の卵であり、複合的な工業製品である航空機を取り扱うには必要な技能を持つ者ばかりだ。だからこそ、工業高校の空部は必然的に強豪校となりやすい。


「校門前で空部の人が待ってるって話だったが……わからん」


 プラカードでも持っててくれれば一目瞭然なのだが、さすがに部活動の打ち合わせでそんな手間はかけない。

 どうしたものかと棒立ちする武蔵だが、すぐに自分の浮きっぷりに気が付いた。

 ただ1人、違う制服を着る武蔵は悪目立ちする。しかし彼は気にした様子もなく、あえて人並みの流れを逆行する。

 こういうのは挙動不審となってこそ怪しいもの。堂々としていれば周囲は勝手に納得するのだ。

 武蔵は威風堂々と校門をくぐり、昇降口へ入ってスリッパを拝借。校舎へと侵入する。


「ちょい待て、どこ行くのよ」


 呼び止められ、武蔵は足を早めた。

 知った声だった。


「アドュー!」


「こらっ、おい逃げるな!」


 怒声に対して、武蔵はダッシュする。

 捕まる気などサラサラなかった。

 土地勘のない校舎を駆け抜けるも、追う側は別ルートから先回りする。


「死ねやムサシぃ!」


 目の前に飛び出す黒髪長髪の少女。

 彼女の手にはグラインダー。円盤状のヤスリを高速回転させ、金属を削ったり切断したりする工具。

 危険な電動工具上位にランクインする、割と殺意高い武器だった。


「死ぬかボケェ!」


「死んだら殺す!」


「どっちだキチ女!」


 グラインダーの電源コードで武蔵の首を締めようとする少女。飛びかかってきた彼女の腕を掴み、巴投げで背後に放り投げる。

 割と容赦のない武蔵だったが、彼も必死なのだ。


「ぐへっ!」


「さらばだ時雨!」


 彼女の名を呼んだ武蔵は、ひっくり返ってパンツ丸出しな少女を見捨てて再び駆け出す。


「じゃあなイチゴピンク!」


「その粗末な小口径機銃を削り切ってやる!」


「俺の戦艦砲を切りたければ鋼鉄用ディスクを持ってくることだな!」


 上下逆さまのまま吠える少女。彼女へ言い返し、武蔵は遂に彼女を撒くことに成功するのであった。







「ここまで逃げれば安全だな」


 鋼輪工業の屋上に逃げ込んだ武蔵は、携帯電話を取り出して後輪工業空部の顧問に連絡する。


「もしもし、はい雷間高校空部の者ですが。はいどうも、ご無沙汰しております。件の打ち合わせですが、どうにも他校ということで迷ってしまって辿り着けそうにないので、申し訳ないのですが電話で済ませようと思いまして。はい、白露さんがお迎えに、ですか? はい確かに待っていてくれました、黒髪の美人な方ですよね。あの人は案内してもらおうと声をかけた直後に、下痢でトイレに駆け込んでしまったので。あ、いえいえお気になさらず。生理現象ですから仕方がないですよ。はい、それでは打ち合わせと参りましょうか」


 つらつらと嘘を交えつつ他校の顧問とつつがなく打ち合わせを進める武蔵。あまりに堂々とした態度に、顧問は完全に騙されていた。


「はい。日程は予定通りということで。わかりました、その件はこちらで準備しておきます。ああいえご心配なく、中学の頃から空部で経験してきましたから。え? いえ私なんて大した選手ではありませんよ、大和武蔵と申します。いえいえ昔とった杵柄ですから」


 自身のネームバリューすらも躊躇いなく活用する。基本、利益があればプライドを捨てられる男であった。

 なお「昔とった杵柄」は意図的な誤用である。

 日本のエアレーサーなら知らぬ者のいない大和武蔵の名に、電話相手は完全に信じ切った。

 つつながく終わった打ち合わせ。電話を切り、バックグラウンドで実は電話が繋がりっぱなしになっていないか確認し、武蔵は大きく息を吐く。


「こっちの空部の可愛い娘をチェックしようと思ってたのに、予定がご破産だ」


 重ねて記すが、武蔵のエアレーサーとしての勇名は学生選手として最高峰である。

 「好きです! 抱いて!」なんて憧れを抱く女性選手は幾らでもいるのだ。

 そんな娘狙いでわざわざ足を運んだというのに、まさかの時雨登場。

 旧知の仲、それもある意味武蔵の天敵たる少女。空部に在籍していることは把握していたものの、まさか彼女が案内役として待っているなどとは思ってもみなかったのだった。


「……終わったことを悔やんでも仕方がない。明日からのことを考えよう」


 武蔵は考えを切り替える。

 明日からのこと、即ち誕生日プレゼントの返礼に関する案件だ。


「信濃とイチゴパンツストーカー女はともかく、由良ちゃんと妙子先輩にはしっかりとお返しないと」


 特に妙子先輩のプレゼント、ジェーン年鑑。

 よく判らん物を貰ってしまったが、金額的にはぶっちぎりのトップ。

 プレゼントは金額ではないとは言うものの、学生にとって10万は大きい。よって武蔵はこれを妙子の気持ちだと解釈する。


「やはりあのおっぱい先輩こそ、俺のメインヒロインだな」


 昨今のメインヒロインはフラグを立てずとも勝手にルートに入るような者ばかりだが、初代ときめいちゃうメモリアルをプレイ済みな武蔵に抜かりはない。妙子より愛の篭ったプレゼントを渡されたからには、相応の覚悟で返礼せねばならぬと無い知恵使って灰色の脳味噌をフル回転させた。


「誕生日プレゼントのお礼か……本来なら妙子先輩の誕生日に送るのが正しい作法だろうが、兵は神速を尊ぶと戦国武将の剣豪も言ってたからな」


 可及的速やかに、この立ったフラグを揺るぎないものにせねばならない。

 カモフラージュに信濃達へもお礼の品を送りつつ、本命へ急接近する為の方法を画策する武蔵であった。


「信濃へのお返しは俺の使用済みパンツでいい。あの拗らせたストーカー女は……手の混んだケーキを貰ったことは事実だし、ちょっぴり高級な缶入りクッキーの詰め合わせでも送ろう。でも郵送し返すのも面倒くさいな、今度ウチに取りに来るようにメールしておくか」


 自分に対するプレゼントを自分で回収しに来い、という外道な要求をする主人公である。


「だが妙子先輩と由良ちゃんへのお返しに手を抜くわけにはいかない。フラグが立っているかはまだ微妙なところだが、だからこそのもう一押しといったところだ。胸キュンなイベントを起こせば、そりゃあもうメロメロメロンちゃんだ」


 数日間、武蔵は考えた。授業も聞かず、バイト先の店長とワニワニパニックしつつ考え抜いた。

 ―――そして、運命の日。空部の部室艦橋にて、武蔵は勝負に出る。


「妙子先輩! ―――いや、妙子!」


「えっ? あ、はい」


 名を呼び捨てにされ、キョトンと目を丸くする妙子。

 武蔵は構わず言葉を続けた。


「これを付けろ、俺の妙子!」


「呼び捨ては気にしないけれど、『俺の』は止めてもらえないかな」


 窘めつつ、妙子は差し出されたメカメカしいゴーグルを着用する。

 それは今時珍しくもない、VR用のゴーグルであった。

 言われるがままに被れば、妙子の前に仮想空間が広がる。

 そこは長い吊橋の上だった。


「俺の女になれ、俺の妙子!」


「吊橋効果を狙ったのはわかるけれど、私も一応空部部長よ?」


「誤算!」


 妙子は高所が平気な質であった。

 呆れつつゴーグルを外すと、目の前にはほぼ全裸の武蔵が仁王立ちしていた。


「―――と見せかけて! プレゼントのお返しは、俺自身です! 食べて!」


 唯一の衣服は腰に巻いた赤いリボンのみ。もちろん、端を引けばぽろりといく寸法である。


「さあどうぞ」


 妙子は躊躇なくリボンを引いた。


「きゃー! この人マジで引いたー!?」


「まぁ」


 ぱおーん!








あとがき


登場人物紹介


足柄 妙子(17)

おっぱい大きい。

頭はわるい。




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