第68話 エピローグ 決着――『運命の始動』(終)
■■■
某運営室――。
受話器越しに大きな声が響く。
「貴様、ほ、本当にコレだ大丈夫なんだろうな!?」
「…………」
ガチャ。
責任者は無言で受話器を置いた。
どうやら親会社の社長はわが身が間接的に危険な状態であることを察したようだ。
だけど責任者は「リスクなしでアレを朱音とぶつけるなんて無理だって。前回その逆でどうなったか考えろってんだ、ばか。しかし奥の手はまだ……ある」とタバコを吹かしながら呟いた。そして静かに一人微笑んだ。
■■■
人の手によって引き起こされた過去最大級の爆発はありとあらゆる物をかき消していく。巨大な岩の塊ですら簡単にかき消す力を持ってしても二人はすぐに死ねない。
【亡命の悪あがき】によってシステム上保護されているからだ。
ただし爆発に巻き込まれる前から使用しているため、二人に残された時間は最早延命と呼ぶには今回あまりにも短すぎる。
地下に存在する大量の高温でドロドロとした物と人工的に作られた巨大な水の塊
の衝突が生むエネルギーは凄まじく紅の過去を知る者は全員が『サーバー落とし』が再び来た! と確信する。
全て 出s 切った――げ ンカ ぃ こ ぇた――
遂に終焉の時がやってきた。
世界線を超えて訪れるノイズ。
それは壊れたラジオのような音。
実は密かにだが――。
先手が幾つも打たれていた世界。
プレイヤーがフィールド構成に使われているリソースに意図的に攻撃した場合に発動するダメージコントロールシステムの導入。
日本から呼ばれた(エリート)運営陣は過去から学習し新しいシステムを組み上げインストールしていた。
本来ならそれによりここまでリアルな超新星爆発いわば星の最後をシステムの製作者の想像で補完された通りに実行するようなことにはならなかった。
再現できるということはつまりそういうことだ。そして神災は時間経過と共に進化しダメージコントロールを凌駕する結果となった。成長という名の進化はあまりに早くあまりに恐ろしい。
ここまでくれば距離など最早あってないようなもの。
全ては一瞬なのだから。
今までとは違い、渦巻く暴力的な力の暴走と破壊ではなく神の裁きのように一瞬で全てを無にする一撃は紅だけの絶対必中を備えた
今まで誰もが経験したことがない一撃の前では朱音ですら無力。
経験したことがない事象は相手に恐怖すら与えず瞬き程度の時間でなにが起きたかを理解する前にプレイヤーを殺し抹消する。
どんな防御系統のスキルでも防げない。
既にサーバーは完全再現に尋常じゃないキャパを喰われており余力はなくなっている。それは神々の挑戦を運営するメンバーが所属するアメリカに本社置くHappy Life company社に紛れ込んだ神災教のメンバーの予想すら軽々超えていた。
天地を揺るがす力で、強引に世界を従わせ、作り変え、抗うことすら許されず
突如として出現した星だらけのフィールドは……宇宙フィールド。
そこには既になにもなく、なにも残っていない。
ミズナからゴキブリ並みの生命力を持つと評価された紅すら先の一撃は耐えられなかった。
だけどそんなフィールドにただ一つだけ爆発の前になかったものが存在する。
それは――。
『Win 紅』
の文字だった。
紅は遂に最強を倒した……。
そして朱音を救い、朱音の考えが間違っていると証明した。
それは少し前の里美の考え方と被る所もあり、多くのプレイヤーが勝ちに執着するあまりゲーム本来の楽しさを忘れていることだ。
そんな男が遂に世界の頂点の一角の仲間入りをした。
だが、全ての奥の手を披露した紅はその後世界の女王の異名を持つアリスとも勝負をするが手の内を全て読まれ敗北し予選落ちが決定した。
どうやらラスボス枠にはまだ早かったらしい。
予選を全勝したアリス、そして得失点で勝ち越した朱音が最後は勝ち上がり、神々の挑戦決勝戦が終わった――この日新たな世界の王者が誕生した。
その名は――朱音。
純粋無垢な表情で楽しそうにゲームをする彼女は今までの中で一番強く正に誰が見ても最強の称号に相応しいプレイヤーだった。
この日――ゲームの歴史に新たな一ページが刻まれる。
最恐だけが最強に勝った。
神災はまだ消えていない……。
なぜなら彼は予選最後の戦いの時にこう言ったからだ。
「里美! 俺たちの戦いはまだ始まったばかりだ! だから本気でこい! 俺も全力で行くからよ!」
満面の笑みを見せる紅と同じく可愛らしい微笑みと力強い眼差しを向ける里美の試合は里美がプロに相応しい実力者であることを証明する戦いとなった。
その最後の瞬間――朱音が、アリスが、エリカが、ミズナが、ルナが、他実力者や神災教の者たちが察した。
――なんだこの……違和感は?
各々が私たちの挑戦やサポートはまだ終わっていないと確信した。
■■■
時は経ち――あれから一年と少し。
蓮見は三回追試を受け、無事に高校を卒業した。
そんな蓮見の日常はごく平凡で語るにはあまりにもちっぽけなものだった。
それは、意図しない偶然が生んだ日常生活に過ぎない。偶然二人の男女が惹かれ合った未来に蓮見が居ただけである。
母親が再婚し義理のお姉ちゃんとの同居生活が始まる前日に偶然美紀と付き合うことになった蓮見。
「はすみくん♪ そろそろ一緒にお風呂入ろうか♪ お姉さんが身体洗ってあげるわ」
「はい!」
瞬間、元気の良い返事をした弟が床に倒れた。
暴力が蓮見の体を襲ったからだ。
その光景に急いで駆け寄る昨日義理の姉となったエリカ。
「ちょっと人様の恋人の前でイチャイチャ……以前になんでアンタが同居してるのよ! 今すぐ元居た家に帰れ! この泥棒女ぁ!」
普段本気で怒鳴ることがなかった美紀の怒りが大爆発した。
「私の家はここよ。帰えるならソッチが帰れば?」
「そうはいかないわ! お母様と師匠には今月はお泊りしていいって許可もらってるんだから!」
「私だけの蓮見君(弟)にこれ以上近づかせないで! なんですぐに私に甘えようとする可愛い蓮見君に対していつも暴力で解決しようとするのよ、この暴力女ぁ!」
こちらはこちらで姑の嫉妬ではないが似たような物が積もりに積もっていたのか怒りが大爆発していた。
両者――急激に今まで以上に親しく特別な関係になった。
それもあって二人が抱える焦りや怒りは何処か似ており、心に余裕がなかった。
そのためその状況を生んでいる元凶たる男が二人の間に入り仲裁すればそれが一番良いのだが残念ながらこんな時まで寝てい……強制的に意識を狩り取られているため儚い和解の希望はこの瞬間
「二人とも、深夜に煩い! 痴話喧嘩するなら時間を考えなさい!」
「「お(義)母様……!?」」
「あとアンタは呑気に一人寝てないでこの二人を止めなさい!」
床で寝ていると勘違いした母親によって強制的に意識を戻された蓮見は頭部に鉄拳制裁を受けていた。
それを見てどこか気まずくなった美紀とエリカが黙ったことで蓮見の身を犠牲に二人の口喧嘩は大きな物に発展する前に鎮静化が成功という結果を迎えた。
「二人とも謝りなさい。それで仲直り、いいわね?」
「「ごめん……」」
「よし。あとアンタはこっちにおいで。少し話があるから」
「えっ? おれぇ!?」
どうやら美紀とエリカの戦いはこれから――新章が始まるようだ。
そして蓮見は母親に別の部屋へと連れて行かれた。廊下から聞こえる「意味わからない説教はいやだぁー」と言う嘆きの声に少女たちは相手が相手なだけに助け舟を出すことができなかった。
Exとりあえずカッコいいのとモテそうなので弓使いでスタートしたいと思います~外伝:世界に羽ばたく神災編~ 光影 @Mitukage
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