第66話 激突 最恐 VS 最強 決着――『運命カウントダウン始動』


「絶対に倒す!」


 気迫のこもった声は紅に見えない圧を与える。


「カウントダウンはもう誰にも止められねぇ! 諦めろ!」


「諦める? こんな胸躍る危機感を前にそんなことできないわよ!」


 今まで神災は多くの者から警戒され何だかんだで恐れられていた。

 だけど今は違う。

 逆に楽しむための媒体となっている。

 一秒、一秒、時は進む。

 そのたびに紅の手数が一つ一つ減っていく。


 絶対に手が届かないはずの相手に強く憧れた。


 陽と陰。


 太陽と月。


 空と地。


 決して交わる事がない二つが交わるようにして、最恐と最強が交わった。

 零度樹がボキッと音を鳴らして遂に根元から折れる。

 破滅のカウントダウンは残り五秒。


 同時――朱音の怒涛の攻撃が遂に紅の身体を射程圏内に収め、確実に仕留められる距離まで近づく。


 空中で重心を崩されバランスを崩した紅に回避手段はもうない。

 すでにスキルが発動するよりも早く朱音の一撃が速い所まできているからだ。


「チェックメイト♪」


 紅の眼が光、神災者の眼を発動。


「まだだ!」 


 最後の一滴まで絞り尽くしたMPで作り出された目に見えない壁が朱音からの攻撃を護ってくれる。

 だけど次はない。

 MPが足らず、一秒しか持続しなかったからだ。


 残り四秒。


 たった一秒。

 されど一秒がこんなにも長く感じるのは……。


 選手も観客も同じ。


「はあああああ!」


 紅のHPゲージが減った。


 残り三秒。


「ぐはっ……!」


 さらに減った。


 後少し。

 もう一撃喰らえば、ただの打撃でも死ぬかも知れない所まで追い込まれた最恐は苦痛に顔を歪める。


 残り二秒。


「へへっ」


 最後の一撃を喰らう前、最恐は不敵な笑みを浮かべた。


 同時、朱音の表情から笑みが消えていく。


「なに……この悪寒は……?」


 朱音の蹴りはクリーンヒットした。

 確かに紅の腹部に直撃した。


 だけど違和感に襲われた朱音の表情は強張った。


 そして違和感の正体に気づき、すぐに追撃に移る。


「ここで『白鱗の絶対防御』!?」


 紅は十パーセントを勝ち取って、まだ生き残っている。

『白鱗の絶対防御』は致死攻撃を受けた際、十パーセントの確率でHPを一残して耐えることができる自動発動スキル。

 それは今まで幾度となく紅に力を貸し救ってきた。

 だからこそ朱音は紅がまだ生きている理由がすぐにわかった。


 残り一秒。


 急いで溜を作り、攻撃すれば間に合う距離。

 二人の距離感はそんな感じで物凄く近かった。

 運よく生き残った紅に待つのはやはり絶体絶命のピンチに変わりはなかった。

 だけどピンチはチャンス。

 そんなわけで紅の行動はやはり誰にも読めなかった。

 自ら手を伸ばして朱音の身体を引き寄せる光景は周りから見れば自殺行為でしかない。だけど紅は勝つために一生懸命で決して勝負を諦めての行動ではなかった。

 それは――勝つための切り札でもあった。

 相手の考えを超えていけ。

 そんな言葉通り、紅は朱音を一瞬で無力化する。

 別に秘孔を付いて無力化したなどではない。

 むしろ紅にそんな才能はない。

 もっと簡単で誰にでもできることだ。

 唯一の救いは相手が異性であったこと。

 これにより抵抗は軽減された。


「――ッ!?!?!?」


 紅の不意打ちに朱音の脳内は真っ白になり全身から力が抜けた。

 その隙に密着した身体を引き離して、思いっきり腕を掴んで力を入れハンマー投げの要領で二人の密着と同時に始まった超新星爆発の爆心地へ朱音を投げ飛ばす。


「おりゃああああああ!!!!」


 気合い十分の紅の雄たけびに、


「…………ふぁい!?」


 なにが起きた!? と理解が追いつかない朱音。


 大衆の前で……。

 娘たちの前で……。

 えっ、えっ、えっええええ!? わ、……わ、た、私に今ここでキスぅぅぅぅ!?

 私とダーリンのディープキスが全世界に配信されたのぉ!?


 誰もが予測しない行動。

 それは後から多大な誤解と怒り(主に嫉妬)を買うことになっても、今を全力で生きる少年には恐れるに足りない! からできた行動。。。

 それは観客席が歴史上一番騒がしくなった瞬間でもあった。


 世間体を無視した行動は同じく世間体を無視した大爆発によってすぐに沈静化させられる。厳密には嫉妬、怒り、妬み、ひゅ~ひゅ~など二人をチヤホヤする声をかき消す衝撃波と光が生まれたのだ。




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