第63話 激突 最恐 VS 最強 開戦――『Call』


 両者が素早くMPポーションを使い仕切り直す。

 熱せられた空気は既に上空に持ち上げられて、冷やされていく。

 すると空気中の水蒸気が水や氷の粒となって雨雲ができる。

 そこで起こる大量の静電気が放電を始め、空の天候が急激に悪くなった。

 元々悪くはなっていた。

 だけど今はそれ以上に悪くなった。


「三発目。次は落雷世界お披露目の時間だ!」


「……相変わらず規模がとんでもなく大きいわね。とてもじゃないけど一人の人間に向ける天変地異じゃないわね」


 逆である。

 一人の敵を倒すためにここまでしても足りないと。

 立場が違えば発想や見方も変わる。


 大規模火力型の一発系のスキルではなく、沢山のスキルや環境変化を利用して作られる俺様究極全力シリーズは開会式の時に紅が言っていた通り無限の供給による永久機関を連想させる形で時間の経過とともに姿を変えて敵を追い込みつづける。

 故に隙などなく下手に動けない。

 次になにが起こるのか予測せずに動けばどうなるかは語らずとも誰でもわかる。

 現実世界でイメージするなら山の天候はよく変わると言うが、もし自分一人の時に未開の地の山で遭難したらどうするのが一番生存率が高いかという話でもある。ここまで来れば一つの判断ミスで取り返しのつかないことになると判断する朱音の脳は冷静だった。

 そう――。

 冷静に考えても紅に対しては確実に勝てる方法が思いつかないのだ。

 次の一手が予測困難。

 自然の法則性なら知っている。

 そこにその時々で変わる紅の法則性を照らし合わせると未来が視えない。

 なので結局のところ朱音自身もどこかで覚悟を決めて一か八かの戦いにでなければならないわけだ。その時の緊張感はそう味わうことができない媚薬。脳が媚薬によって支配されるのを理性で制御して最良のタイミングを見極める。

 進撃の神災者の異名を持つ紅を倒すのに必要なのは見目形が綺麗だったり派手なスキルなんかじゃない。一見地味でしょうもないような純粋なPS(プレイヤースキル)。それは今までの集大成が試されるような場面とでもいうのだろうか。だから朱音の全身には既に緊張が走っていた。


 人が恐いのは未知なる存在と力。


 アリスのように人間味がある相手はいずれ勝てるようになる。


 だけど予測不能で成長速度も以上に早い者にはそれが通じない。

 というか、勝てると中々思えない。


 プログラムで作られたモンスターも所詮は人間が作った物。

 いつかは勝てるようになる。


 だけど人間でありながら常識が通じない相手にはそれが通じない。

 というか、常識が足かせとなって自分に襲い掛かってくる。


「ありがとう、ダーリン。貴方を好きになって良かった。娘二人をここまで導いてくれてありがとう。だから最大の敬意と誠意を持ってここからは相手するわ。オーバーリミット覚醒」


「……?」


「私のHPと引き換えに発動する持続型の覚醒よ。そしてダーリンのそれと同じくHPが減れば減るほどその効果を強くするわ。HPの自動減少は残り一割で止まる。そしてMPを糧として命を繋ぐ効果も持つわ。もしHPよりMPが先に尽きても持続するおまけ付き。この世界ではアリスと私しか習得できなかったスキル。皆はこれを世界の覇権を握るためのスキルなどと大層なことを言うわ。まぁHPとMPを除くステータスを最大で三倍にするって意味では間違っていないわね」


「さ、三バい!? お、おかあさn、、、あ、お、おかねさんの!?」


 ここに来てようやく自分の前に立つ相手が誰なのか再度認識した紅は動揺を隠せないでいた。完全に傾いていた戦いの流れが一瞬にしてひっくり返されたような感覚を覚えた紅の全身には鳥肌が立っていた。


「そうよ。この姿を見せるのはアリス以来よ、つまり二人目ってことになるかしら、うふふっ」


 白いオーラは炎が包む世界でも綺麗に輝いており、偶然いや運よく朱音の頭上に落ちてきた落雷より美しく綺麗だった。

 なにより目に見えない突きが落雷を真っ二つにしたと紅が気づいたのは朱音の足元からあがる黒煙を見てだった。

 目にも見えない神槍の矛の一つが紅に向けられる。


「このゲームには幾つかの隠し要素があるの。私たちプロでもソロ討伐率二割の隠しクエストとか。その中にある最も高難易度でソロ討伐率三パーセント程度の敵にノーダメージで勝つとこのスキルは手に入れられるんだけど、所詮はプログラムだったわ」


 朱音はゴゴゴゴゴゴゴと威嚇するようにうねり声をあげる雨雲に目を向けて懐かしむように話し始めた。


「行動パターンはエンジニアが制作した物に限定される。つまりその行動パターン……たしか177通りだったかしら? それら全部を覚えたら簡単に攻略できたわ。夢中になったゲームなら誰もが熱心になれるでしょ? まぁ私のワクワクはこれを手にした瞬間永遠に失われる結果となった。もう飽きたって思ったの。だけど違った。貴方、ダーリンが居たわ。好奇心と言う名の鍵を持ったダーリンは私のワクワクの扉を再び開けてくれた。本当に感謝するわ、うふふっ」


 その笑い声とは対照的に紅は、


「あはは~まじかっ……」

(つまり『ア・ビアント』を超えろってことか。あるにはあるが、正直種をどう用意したものか……)


 と、苦笑いしかでてこなかった。

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