第60話 激突 最恐 VS 最強 開戦――『四曲目 序章曲』


「――果てしない時の中で貴女と繋がることができた♪」


 紅は心の中で決意した。

 今からは短期決戦による全戦力を投入すると。

 このままではジリ貧で負け、総力戦でもどの道負ける。

 ならば活路を見出すため、一か八かのいつも通り大逆転を掛けた俺様全力表裏究極シリーズを持って朱音を殲滅すると決めたのだ。


 そして脳内では音楽が続く


 ――愛の力を理解するために愛を学ぶ♪


「第三次攻撃隊緊急発艦!」


 紫色の魔方陣が猛毒の矢を発射する。

 狙いは朱音だ。

 氷の触手がすぐに迎撃のため近づくが避けて迂回しながらもそれぞれが自立して朱音の命を狙う。

 朱音は氷の触手に命令を出し、確実に自動迎撃を試みる。

 その間も割ける集中力の大半は紅自身に向け続ける。

 そんな無言の圧に負けじと、気合を入れる紅。


 ――この愛を届けるために愛を学ぶ♪


「俺様創造! 水爆の矢!」


「複製による弓と矢による水爆……つまり使い捨ての無限ループ!? なんて害悪極まりない、無駄使いね」


 朱音の言葉通りだった。

 鏡面の短剣は水属性。

 その短剣を矢の形に形状変化させて放つ。

 そうすれば目標と接触すれば水飛沫が舞い水属性ダメージを与える。

 だけどその水の矢に炎を纏わせて放てば水飛沫が生まれると同時に状態変化して爆発する。水の矢と水飛沫では密度の違いから熱せられる速度は違う。つまり紅の本領が発揮され始めたと言うわけだ。


 まず一本目。

 そして先ほどと同じように高速移動を始めた紅はクナイと手裏剣の変わりに水爆の矢を連発して放ち始めた。

 MPがなくなると手持ちにある透明色の液体が入った瓶を今度はばら撒き続ける。

 度重なる爆発によって氷の地面がえぐられ空いた穴に流れ込むように着地と同時に瓶が割れ零れ出た液体が色々な所で溜まっていく。


 ――今にして思えば君の優しさは愛の温もりだったのかもしれない~♪


「さっきまで度忘れしてたが、小百合から聞いたから知ってるぜ! 炎を凍らせる絶対零度は確かに強力だが凍らせる対象に応じてMP使うんだってな! だったら朱音が持つMP量を超える爆発が来た時はどうするのか教えてもらおうか!」


 朱音は悟った。

 観客は悟った。

 司会者は悟った。


 そして――運営と紅の仲間――さらに世界も身の危険を悟った。

 新しい力を手に入れた紅がその力と今までの力を融合して今から何かを起こすことを。

 それは言い方を変えれば紅の調子がようやく本調子まで上がってきたことを意味していると。


 ――私の貢ぎ物があなたの手助けとなる日を強く強く強く望んでいます~♪


「その中身は秘密だが、今から俺様究極全力シリーズにして最高峰のパレードを見せてやるぜ! これは朱音に送る俺からの愛のメッセージだ!」


 すると上空に何やら舞う沢山の粉末。

 そこに一つの火炎弾を放り込む紅。

 粉は引火し大爆発の中から燃える火の粉となっていく落ちていく。

 それは聖水瓶の中にあった液体に引火し地上のあちらこちらで大規模内爆発を起こしていく。そのついでに生肉を焼いてみる。


「まず一発目! 氷を熱すると水になる。そしてさっきの粉はエリアトル……ケンタッ……なんちゃらとマグネシウムを混ぜ合わせて作られたもの。つまり今から起きる大火災に水を入れるとどうなるか後は見てのお楽しみ!」


 炎の中で生肉を焼いてみた紅はそのまま口に放り込み「あんま美味しくない」と感想の述べてみた。小腹が空いてはなんちゃらと言うがそれ以前の問題だった。


 真面目な話に戻り、非常に燃えやすく瞬間的に五千度近くまで燃え、マグネシウムと似たような性質を持つエリアトルインフェルニティケンタロウスの臓器を使った合成物質。ただし発火点が非常に低く燃えやすい点から取り扱いもかなり難しい品でもある。通称インフェルニティケンタロウスは超高難易度クエストで多くのプレイヤーを苦しめることでこの世界では知られている。ソロだとプロでも討伐率三割弱の超強力モンスターだ。それをどうやってエリカが手に入れたかは謎だがおそらく誰かさんのことを一途に想い、元居た世界でのログインを忘れるほどに商売熱心に稼いだ大金を使いプレイヤーからそれを買い取ったのだろう。生産職の彼女では万に一つの可能性でも勝てないから。


 地上が氷から炎で包まれる世界となった。

 正確には氷の上で炎が激しく燃え、氷を溶かし勢力を拡大していると言った方が正しいかもしれない。


 それで良しとせずに最早炎の森林を縦横無尽に動き回る紅はこれでもかと言う程にエリカから貰ったマグネシウムをばら撒き炎を大規模な物にしていく。

 息が苦しい。

 なんてものじゃない。

 肺が……いや臓器の全てが機能不全に陥るような劣悪で業火の環境下は朱音の身体にもダメージを与え総合的なパフォーマンス力を落としていく。


 たった数十秒で世界が書き替えられた状況に朱音はそう言った環境下でも対応できる装備を今回見に付けているし、息もできるようにしていた。

 だけど装備にも限界があり、予想を超える物に対しては軽減しかできず、過酷な環境は身体を蝕む毒となる。


 ――嫉妬して駆け引きのつもりで手を引いたこと後悔したよ♪


「全部は無理でも私の周りだけに限定すればMPを節約して炎ごと凍らせれる。そして炎に対する酸素の供給を無くせば火柱が氷柱になるわ!」


 ――命尽きるその日まで一直線に攻撃アタックします♪


 どうやらエリカが作った四曲目は紅の動きにマッチしたようだ。


「なるほどな! だったら二発目はどうする? 高鳴る俺様の鼓動(ビート)は誰にも止められないぜ!」


 紅の上空にはいつの間にか召喚されたメールが巨大な水の塊を作り待機していた。

 火炎弾によって引き起こされた爆発の時以外に紅がメールを召喚する時はなかったと確信した朱音はすぐに次に備える。

 今も勢力を拡大する炎の森林もしくは炎の海の一部は既に鎮火して氷の世界へと戻った。だけどそこに大量の水が覆いかぶされば……。


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