第59話 激突 最恐 VS 最強 開戦――『三曲目 part2』


 どんなに奇策を使い強者を演じてもそれは偽物であり本物には到底及ばない。

 純粋なPS(プレイヤースキル)を覆すには到底至らない。

 それは世間から神災と呼ばれるソレを持ってしても過酷極まりないと言える。

 もし相手が世界の頂点に立つ一角でなければ話しは違ったのかもしれない。

 だけど本当に強く実力が伴った者との対峙においては世界の常識がそのまま反映され非常識はあくまで相手がなれるまでの時間稼ぎ程度にしか機能しない問題を理屈ではなく体感でなんとなく理解した少年は舌打ちした。それは怒りや不満からではなくむしろ自分の実力不足だけに対するものだった。


「Is never fading story~like a guy of hero stand up♪」


 三曲目の歌詞は今までと大きく変わった。

 昨日エリカが歌っていた歌をそのまま真似しているだけなのだから、リズムが良いしなんかカッコイイいいな~ぐらいで本人はその意味をよくわかっていない。

 だけど気持ちを乗せる意味では間違っていない。

 だけど朱音は静かにそれを見続けている。

 まるで相手の全てを見通すように真っ直ぐに。

 氷の触手が炎を纏ったワイヤーを次々と切り裂いていくが、ワイヤーは磁力に引っ張られるようにしてすぐに再生して元通りになり、氷の壁を溶かして道を開拓していく。


「なんとも厄介なダーリン専用の道ね。破壊に集中すればそっちに意識が持っていかれて結果としては微妙になりそう。それに私も使えそうだし、余計な物以外は放置がここは得策かしら? それにソレ聞いてて案外いい歌ね」


 朱音は歌詞の内容から紅の次の一手となにか関係があるのかを予測し始めた。

 今までの傾向からあるときはある、ないときはない、となっている可能性が高いからだ。そのどちらかなのかを見極める。紅の記憶が正しければ歌の意図は正しく解釈できるかもしれない。


「I felt your love so I could believe in my self~♪」


「私へのメッセージかしら?」


 首を傾けた朱音は「それにしては大胆過ぎる告白は嬉しいけど、戦いには関係なさそうね」と小声で付け加える。


「~♪ ~♪ Now limit over my soul burning to challenge!」


「来る!?」


 朱音の危機感が紅の僅かな波長を読み取り攻撃に備えた。

 その予感は正しく紅が朱音の目から逃れるように炎で燃えるワイヤーを足場にして縦横無尽に動き始めた。今までより機動性に長けた姿は見目形以上に忍者らしい動きになっていた。

 鏡面の短剣を複製してクナイや手裏剣に変形させて投擲。

 攻撃のバリエーションも増えた紅はタイミングを計り再び零距離まで詰め肉弾戦による攻撃も入れていく。


「~♪ Even as time passes, I'm still waiting for your love to return♪」


「キレが良くなったわね。でも甘いわ」


「Do you notice my feelings? Do you really notice?」


「逃がさない!」


 紅と同じ方向に朱音が動いてきたことで距離を取る前に槍が頬を掠めた。

 初動に大きな差がない以上、加速しきる前なら槍が届いてしまう事実は紅が意図的に調整した残り僅かなHPゲージをさらに減らす結果となってしまう。

 事実上、自称最強モード足る新神災モードが打ち破られ始めたことを意味する。


「~~~♪ I want to be the star in your world♪」


 紅の歌にまさかの返答をする朱音。


「You're already the number one star! I love you!」


 朱音の目は既に始めて見るこの世界での最高速の領域に達した紅の動きに慣れてきた。それによって生まれた余裕が歌詞に対する返事である。

 この時、朱音も生まれて初めての経験をしていた。

 まだ目の前の少年は全力を出していない、まだ先がある!

 さっきから真骨頂と言える俺様全力シリーズの一つ表裏シリーズは愚か表と裏の全力シリーズのどちらも使っていない……すなわち何があるのかしらね、私!

 と、今まで得たことがない高密度な高揚感に身体が支配されていた。

 朱音の期待は既にこの状態に表シリーズを始めとした裏シリーズや表裏シリーズが加わること。


 そして運命の歯車は遂にギギギッと嫌な音を立てて進む。

 その願望であり願いは――叶ったと確信する、四曲目に入った紅が放つ覇気の密度が狂気を帯びたからだ。

 いつも感じていた得たの知れない覇気は本気で戦うに値する相手。

 

 それこそが――進撃の神災者だった。


 

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