第58話 激突 最恐 VS 最強 開戦――『三曲目 part1』』


 意図的な解釈など不要。

 心臓がさっきから煩いのは訴えているからだ。

 世界に見せつける時が来た! と。

 だから本能に忠実になった紅は叫んだ。


「火遁・マイスイートハニーエリカの術!」


 命名考案全てエリカが授けた『』の一つであり、それをなんの躊躇いもなくぶっつけ本番で実行する紅。

 その言葉に反応して紅の指先に装備された視認が難しいピアノ線に似た何かが地面・空中問わず張り巡らされ最も近い物に繋がるように伸びた。接続が終わるとすぐさま紅が纏っている炎が導火線に火が付いたように勢いよく点火し、氷の触手が支配する世界の中に別の燃える世界を構築していく。その正体はエリカが改良した特別製のワイヤーでありながら強度や柔軟性は勿論、耐火性にも優れている物。本来はギルドクエストなどで協力なモンスターの捕獲依頼時に良く使われる捕獲用アイテムなのだが、今回は僅かな隙間から氷が支配するさらにその外にも線として張り巡らされていた。まるで細い炎の線によってできた世界は一つのステージとも言える。RPGゲームで言えばボスを追い詰めたことによって形態変化やステージ特性が変わるアレに酷似していると言ってもいいのかもしれない。


 それは突然空いた地面の下にも張り巡らされていて、紅の足場となる。

 瞬間。

 導火線の役目を終えた両手から伸びた線はプツンと音を鳴らして切れていく。

 まるで空に足場を得たと言わんばかりに縦横無尽に動き始めた紅はハエのように素早くまたもや朱音を翻弄していく。


「私に拳で攻撃しては逃げてを繰り返してたのはこれを構築するためだったのね」


 思わぬ方法で攻撃を回避し、俊敏性をさらに上げた紅に賞賛の声を送る朱音。


「普通の人ならそんな使い方しないのに、ね!」


 その言葉はスルーして、


「俺様こそが白馬の王子様さぁ~♪」


 ラストを歌いきる紅は朱音にドヤ顔を見せた。

 燃えるワイヤーの上に器用に二本足で立つ紅の姿に「ほんと、よくこの短期間で成長したわね」と嬉しい気持ちになる朱音の目はさっきよりも輝いている。


 音楽は間髪入れずに三曲目に突入する。

 だけどこの時紅の身体には既に異変が起きていた。

 まだそんなに戦っているわけでもないのに経過した時間に対しては疲労が異常に多くスタミナも減っていたことだ。

 確かに歌を歌っている。

 その事実を除いても既に肩で息をするほど、疲れるにしては早過ぎる。

 そう感じた紅はここに来て少しばかりの未来に対する危機感を覚えた。

 目の前の相手はまだ息の一つも乱れていないのにこの差は一体なんだ? と。





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