第47話 君の姿
「どうかしらね。試しに触れて見たら?」
その言葉にピクッと反応する者たち。
「ん?」
蓮見の脳は理解に苦しみ首を傾ける。
「それでもし触れれなかったら幽霊、そうじゃなかったら本物ってことでいいんじゃない」
ようやく橘の言葉を理解した蓮見は「なるほど」と呟いてから、
「なら橘触れてきて」
と、もし相手が幽霊だった時のための生贄に同級生である橘ゆかりを差し出すことに決めた。
「…………」
対して橘は橘で蓮見を早く四人の元に渡さなければ四人の嫉妬という名の怒りの矛先が完全にこちらに向かうと必死だった。
美紀に関しては首をポキポキと戦闘態勢に入ろうとしており、このままでは逃げることすら許されない状況変化に橘は焦りを覚える。
「てかなんでゆかりが蓮見と一緒にいるの?」
どうやらタイムリミットが来てしまったようだ。
一歩一歩ゆっくりと近づいて来る美紀に思わず橘は蓮見を引きはがして身代わりとして差しだそうとするが、磁石のようにピッタリと貼り付いて本当に幽霊が見目形を変えていると信じている蓮見は離れない。
「それに私を幽霊呼ばわりとは久しぶりに会えた感動通りこしてムカつくわね。そもそも蓮見はそこにいるゆかりは幽霊とは思わないわけ?」
瞬間、蓮見の脳は人であると信じていた橘が幽霊と言う可能性に絶望した。
橘が離そうとしても離れなかった蓮見が素早く離れ部屋の隅へと逃げるが。
「ええい! お姉さんが捕まえた♪」
蓮見の行動を先回りしたエリカにあっけなく捕まってしまう。
「え、エリカさん?」
ここであることに気付く。
「な~に蓮見君」
「ちょっと失礼」
ペタペタとエリカの体を触って確かめる。
「ほ、本物? 幽霊じゃないです?」
「うん、本物よ♪ なんならおっぱいも触ってみる?」
「は、はい!」
本物と分かりいつもの元気が出てきた蓮見の脳天に衝撃が走る。
「そこまで正直になるな!」
「す、すみませんでした」
脳天を抑え謝る蓮見を優しく抱きしめ直すエリカ。
「ちょっと美紀!」
「なに?」
「なにも本気でげんこつは可哀想過ぎるわよ! 両者の合意がある冗談ぐらい受け入れてあげなさいよ!」
「合意って概ねアンタだけの合意でしょ? それに見ててムカつくから」
久しぶりに会えたのに自分が一番じゃない事に嫉妬が隠せない美紀は蓮見に対してどうしてもあたりが強くなってしまう。
素直になりたくても恥ずかしくてなれない、傍から見ればそんな単純かつ見え見えの理由でも蓮見からしたら本気で怒られたようにしか感じない。
「ついノリで言ってしまいました。すみません」
今の一撃で幽霊じゃないとわかり、嬉しさ半分、後悔半分の再会を果たした美紀に蓮見は謝った。
「蓮見さん、会いたかったです!」
妹キャラ全開で蓮見に勢い任せに抱きつく瑠香は頭をスリスリさせて甘える。
「頭撫でて下さい!」
「お、おう!」
気持ちよさそうに声をあげる瑠香に美紀が頬っぺたを膨らませる。
「ちょっと瑠香だけ甘え過ぎ。それにしても元気にしてた蓮見?」
「はい。あれ? 七瀬さん綺麗になりましたね」
ポンッとお風呂上りで体温が高かったせいか急に血行が良くなったように感じる七瀬は手で顔を仰ぎながら「ありがとう」と幸せそうな笑みを見せるのであった。
「あっ、瑠香だけずる~い! 蓮見君私も私も」
そう言ってエリカは蓮見が振り向いたタイミングで目を閉じてキスをする。
甘い香りにそそられて優しく潤いがある唇が蓮見の唇に重ねられた。
それを見たものたちが、わぉ、と目を大きくする。
「えへへ、蓮見君大好きだよ♪ この前は連絡を返せなくてごめんね、色々と私にも事情があったの。だからこれはお詫びと今の私の気持ちよ」
どこまでも真っ直ぐで一途なエリカはこれでもかと蓮見に気持ちをアピールする。
嫌われることを一切恐れない行動力に美紀や七瀬や瑠香がなにを思うのか。
そして橘は「とりあえず私は助かったみたいね」と一人安堵するのであった。
恥ずかしい、嫌われたらどうしよ、片想い中ならそんな誰しもが思うような感情がエリカにもないわけではない、ただそれ以上にエリカはビビッて行動しないで負けヒロインになるぐらいなら全力で行動して勝ちヒロインになることを望んでいた。
「よかったじゃん、蓮見」
急展開に全然理解が追いついてない蓮見。
「ゆかり?」
それを見て橘が近くに来て言う。
「ちなみにあそこにいる美紀も蓮見のこと本気で大好きな女の子だから放置したらダメだよ。ほら、今にも泣きそうな顔してるでしょ?」
「そんな顔してない!」
「私からのご褒美と言うか約束のハーレム良かったね。瑠香ちゃん、そして七瀬さん、貴女方が好きになった異性にはライバルが沢山いますので頑張って下さい。なら美紀またね、後で私がここにいる理由含め全部話してあげるから、今は蓮見との再会楽しんでね、なら邪魔者はばいばい~」
そのまま扉を開けて部屋を出ていく橘。
「ちょっとゆかり!? なに人の気持ち暴露して何処に行こうとしてるのよ!!!」
叫ぶ美紀。
そして気づく、
ハッと気づいた時には既に遅く、
「……ぅ、ぅん、ずっと前から好き」
と、目が点になって驚いている蓮見に頷いて遂に好きなことを認めた。
蓮見はようやく理解した。
橘が試合前に言った言葉の意味があれは全部本当だったのだと。
夢のハーレムを前に今の蓮見はやけに勘がよく。
ってことはゆかりもそういうことか! と珍しくポジティブに思考を働かせるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます