第46話 恋人候補たちの嫉妬
この世にタイムマシーンはない。ならば現実と向き合うしか道はない。
現在の状況を客観的に見れば橘が自身の座る椅子に蓮見の体を引き寄せて甘えさせているようにしか見えない。
つまりどう転んでも蓮見の意思と言うよりかは橘の意思の元甘やかされている状況だと言うわけだ。
「それが現実世界で私に見せつけたかった行為で間違いないかしら、小百合?」
勘が良いエリカはすぐに目の前の少女が小百合だとわかった。
もしかしたらログアウト前に好きな人のことで煽られたことを考えれば嫌でも普通は気付くのかもしれないが。時系列や会話の内容から察することができれば。
そんなわけでいつの間にか寝ている蓮見を無視して女の世界が構築されていく。
このままでは非常にマズイと感じた橘はまず話し合いができる環境を作る方法を考えた。
1. 今のままでは誰も私の話を聞こうとすらしない
ではどうやったら皆が話を聞いてくれるのか。
2. 見た感じ嫉妬で美紀まで怒ってる……味方はいない
唯一の味方は普段は全然頼りにならない幽霊が苦手な蓮見。
3. よりにもよって味方が……ん? コイツ……なんでこんな時にまで私の寝間着にヨダレ垂らして気持ち良く寝ているのよ……あれ、寝てる……つまり……
途中で不甲斐ない男を見た時、ある妙案が思い浮かぶ。
本当は可哀想だから使いたくないと良心が心の中で訴えてくるが、後でその分のお詫びをするから許してと心の中で先に謝る橘。
そして蓮見の耳元で囁く。
「は・す・み。幽霊が来たわよ」
その言葉は別世界で心を落ち着けていた蓮見の意識を素早く現実世界へと引き戻し、リラックスしていた脳を一瞬で覚醒させ、眠気を一気に吹き飛ばし重たく閉じていた瞼が全開で見開き、全身に力を入れ動けるようにする力を持っていた。
ただし――。
「幽霊!?」
大きな声で蓮見は部屋に視線を飛ばす。
そして体は正直でコアラのように自ら橘に体を預け、バイブレーション機能を搭載しているのかブルブルと小刻みに震えるのであった。
その一連の動作があまりにも洗練されており、誰もなにも言えないでいた。
いや……一瞬呆れてどう反応していいか迷ったと言った方が正確かもしれない。
「ちなみに蓮見が幽霊と感じた殺気の持ち主はあの人よ」
現在の状況説明をたった一言でまとめた橘の指先につられて蓮見の視線がエリカへと向かう。
すると、
「蓮見君♪ おいで!」
手をパンパンと鳴らして飼い犬を呼ぶように両膝を折って出迎える笑顔がとても美しいエリカがそこには居た。
さっきまでの嫉妬から生まれたであろう殺意のオーラは一瞬で消えていた。
どころか目が大きく見開れキラキラしている。
さらに声も橘に向けられたものとは違いとても柔らかくて優しい口調で再会を喜んでくれているように見えた。
「ゆ、ゆかり?」
震える声。
蓮見は明らかに怯えていた。
「なに?」
「エリカさんがおいでって言ってる」
「うん?」
「エリカさんが幽霊の正体? 後美紀や七瀬さん、瑠香も?」
弱弱しい声で尋ねる蓮見に橘は答える。
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