第42話 目覚めたラスボスは表裏シリーズを見せつける


 ■■■


「悪いな、俺様は……俺様の役目を果たす」


 紅の眼が名前と同じ紅色に輝く。

 それは何かの前触れなどではなく小百合が使う『代行者の眼』と同じような力を持っていた。

 暴風渦巻く剣圧が紅に当たるより先に目に見えない壁に阻まれて消滅していく。


「さっき偉い人が俺様のことラスボスって言ってたのもう忘れたか?」


 紅は手に入れた。

 過去に朱音から指摘されたエリカから与えられた力が自爆特攻になっていると。

 そのデメリットを意図的に無くしたり、意図的にデメリットをメリットに変換してHP調整できるようになった今、全ての攻撃は紅のMP量に応じて調整される。例えるならMPが不可視バリアのHP量とも考えられる。

 湧き上がる観客達による歓声の中、紅の口が動く。


「俺様専用ユニークスキル『神災眼』。視認しMPゲージが足りればスキルだけじゃなく物理攻撃やアイテムの攻撃すら無効化するスキルだ」


 アレンはようやく理解した。

 先ほど運営が言った。

 最恐のラスボスを用意した、の意味が。

 ゾッとしたのは気のせいなんかじゃないと。

 高まる高揚感。

 アルゴリズムでは決して再現できない、敵対者が強くなればなるほど敵対者の実力に応じて常時進化するラスボス――それも神災だと知った。


「朱音が貴様を認めた理由……ふっ、面白い。久しぶりの未知なる敵がまさか貴様だったとはな……では、行くぞ!」


「おう! かかってこいや!」


「貴様では俺の盾を超えられない」


「そんなのやってみなきゃわかんないだろ?」


「では答え合わせの時間だ!」


 両者が「あはは~」と笑い始める。

 フィールド全体に走る緊張感と重たくなる空気。

 ピリピリとした何かが肌を刺激する時、神災の宴が始まる。

 海フィールド全体から聞こえる『俺様テンションアゲアゲ』。

 分身たちが歌い始めた。

 それが紅自身に力を与える。

 聴覚で感じるのではなく全身でそれを感じることで脳を刺激する。

 アドレナリンが分泌され、紅の自信に満ちた笑みは決して強がりなどではない。

 今から見せるわざは里美やミズナやルナに俺たちの業でもプロ相手に通用することを見せるための希望の業の第一段階である。

 瞬間火力の表シリーズ。

 そして無限の裏シリーズ。

 それらを合わせた時、神災の新しい力が発揮される。


「悪いが今回は一瞬で蹴りを付けさせてもらう。俺様は今から皆の応援に行かなくちゃいけないからな」


「それは世迷言か?」


 アレンが高速接近してきた。

 それに対して紅は海の中へ急降下。

 紅を避けるように意思を持ったかのように海は真っ二つに割れ、地面までの道を作る。


「大海よ、我が女王の名の元に命ずる。我が主が進むべき道を開けよ」


 紅が離れたことで自由の身となったメールが海の中で両手を広げ声をあげる。

 海は女王の命を受け、その命令を実行した。


 アレンが紅に近づくよりも紅が地面に到着する方が速く両者の距離は縮まるどころか開くばかり。


「見えた! 大地の脆い部分! 俺様超獣変化!」


 紅が叫ぶとその声によってスキルが発動し神災竜へ変化する。

 赤い眼の神災竜にはエリカ特性の武装が施されている。


 その一つが超電磁砲である。


「超電磁砲起動! さらに急速充填!」 


 紅のMPゲージが一気に零まで減少する。

 同時にアイテムツリーからMPポーションを取り出してMPを素早く回復。

 MPを弾丸として急速充填された砲弾は地面に零距離で放たれる。


「大地を粉砕しろ、超電磁砲レールガン!」


 空気を切り裂く弾丸が大地の脆い部分に発射され大火力で粉砕していく。


「今だ! 応援歌で回復したMP全部注ぎ込みやがれ、俺様たち!」


 後方五十メートルまで迫ったアレンを無視して叫ぶ紅が後方上空に目を向けるとメールが大海の水を操作し姿を見せる神災竜たち。

 その数、三十。

 言い方を変えれば三十機の超電磁砲が牙を向いていることを意味する。

 アレンの後方から向けられた超電磁砲は各機本体の指示を受けた分身たちが各々起動させ照準を合わせ始める。


「座標、確認完了」


「誤差三。自動修正入ります」


「環境認識問題なし。障害物なし」


「熱源感知。熱源の動きを自動予想し、標的を狙います」


 エリカが紅のために追加した自動調整装置が作動し分身たちを補佐する。


「世界を壊し、世界を創造する、俺はここに誓う!」


「何を誓うつもりだ?」


 アレンは一直線に浮遊する神災竜となった紅本体に盾を正面に付き出して突撃する。

 そこに迷いは一切ない。


「俺様裏シリーズを掛け合わせ完成された俺様表裏究極全力シリーズ『ア・ビアント』でラスボスとして相応しい姿をここにいる全員に見せつけることだぁ!」


 三十機の超電磁砲が紅自身が開けた穴に向け発射される。

 全ての超電磁砲が一ヶ所だけを狙い放たれた。

 それによって地面は抉られていく。

 海水を含んだ地面は既に柔らかく、凄い勢いで抉られて深い深い穴を形成していく。

 それに合わせて。

 その光景を見た観客たちの一部や一部の運営陣たちのトラウマが掘り起こされる。

 掘り起こされるのは地面だけではない。

 紅の熱い心に似たグツグツとした赤くてドロドロとしたものも掘り起こされていく。


 大地が揺れる。

 何処からともなく聞こえてくる不吉な音。


 ドドドドドドドドドッ。


 「メールやれ!」


 「了解だよ!」


 メールは操れる海水全てを紅戦隊が空けた穴に勢いよく注ぎ込んでいく。


 地下で発生した超新星爆発が物凄い勢いで巨大化していく。


 紅が操れる神災の中でも純粋な破壊力だけで言えば最も危険な一撃が今世界を超えて再び再現される。


「おいおい、待て待て。こっちのサーバーも落とすつもりか!?」


「最後の切り札使うの早過ぎだろぉぉぉぉ!!!」


「一回戦でこれとかもうフラグバキバキじゃねぇか!!!」


「エリカぁぁぁ、メールぅぅぅぅ、お前ら誰の手助けしてんだぁぁぁ!」


「はやまるなぁぁぁぁぁあ!!!!」


「全員衝撃と爆音に備えろ!!! スピーカーを通して爆音が響くぞ!」


「もうお前のその姿はただの神災竜じゃなくて神装神災竜のほうがあってるよ、、、うん」


 観客たちの叫び声を完全に無視して不敵な笑みを浮かべる紅はアレンの片手直剣の一撃を躱してメールと合流して神災狐となって最速で空へと逃げる。


 神災狐の背から生える進化した六枚の羽根は金色に光神々しさを見せつける。

 まるで神が降臨した様は絵になっていた。

 目は紅の名の通り赤色。

 赤い眼の先では地下で急激な熱膨張を始めた水が姿形を変えて顔を出し始める。


「悪いな、この状態の俺様はメールの力も使える。つまり大地の下にあるマグマに海水を無限生成して送り込める。そしてこんなことも!」


 大地から水が勢いよく吹きあがると同時に半球状のドームのように広がってアレンを閉じ込めてしまう。


 大爆発の中心地付近で水の牢屋に閉じ込められたアレンがどうなったかは考えるまでもなく、紅の勝利で終わった。


 マントルが地上に吹き出て燃え広がる大地を見た勝者は一人小さく呟く。


「チッ……落雷世界や水の橋演舞見せる前に死んだのか……意外にあっけなかったな……本当はここからが俺様表裏シリーズの真骨頂だったのに……つまんねぇの……」


 この瞬間、ラスボスが本当に外の世界から降臨したと認識される。

 誰から見ても、神々の挑戦状のダークホースは紅一人となった。

 運営は見せつけた。

 どうだ、って!

 紅も見せつけた。

 里美たちに進化した姿を。

 そして鼓舞の意味を含んだ爆音をフィールドを超えて届けた。


 世界ランカーの上位、つまりシングルランキングを持つ者たちはようやく『神々の挑戦』での最大のは神災だと共通認識を持つ。



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