第16話 あっけない決着
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既に神災は戦場だけを攻撃範囲とはしておらず、両者が取り決めた間合いを超えたその先まで攻撃範囲を拡大させようとしていた。
その光景を遠目に見ていた巫女装束の女は呟く。
「私がこの身体でログインする日が来るとはね……」
既に自動発動スキル『代行者の眼』を発動させている。
「この世界で初めて生で見たけど感謝するわ碧さん。どうやらアイツの失われていたと思っていた感覚がまだあることが確認できたわ。そして神災の土俵で勝負を挑んだ時点で勝敗は既に決したようね」
かつて小百合と呼ばれた少女の口調は以前の物とは大分違う。それでも一つだけ共通点があった。それは姿が同じということではない。どちらの小百合も……。
「記憶や感覚を共有して今日わかった。アイツは紛れもない――」
紅の理解者だと言うことだ。
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「――アハハ! 行くぜ! まずは俺様全力シリーズ花火世界!」
声を合図に紅が放り投げた火炎瓶が爆発し飾り付けられた物へ息吹を吹き込んでいく。
眩しい七色の光が輝いては大きな音を鳴らし、敵味方関係なく視覚と聴覚の機能を狂わしていく。
どんなに凄い人間でも五感の中でも最も良く使う二つを失えば大半の戦闘能力を失う。
紅は目を閉じ、地面に着地する。
だけど、さっきまで紅を追尾していた碧は地面に倒れている。
HPゲージは減っていない。
MPゲージも満タン。
なのに、地面に倒れて動かない。
既に触覚や深部感覚に平衡感覚も失われているため、立つ事もままならないのだ。
「そんな深部感覚にまでダメージを受けるなんて……」
眩しい光と大きな音。
普段経験しないことに脳の処理が正常に行われるどころか、ダメージを受けてしまったことによる一時的な障害。
だけどそれが致命傷なことを碧は知っている。
どんなに優れた才能があっても、コピーすら出来ない者の前ではその力の真価は発揮されない。
かつて見よう見まねで試してみた朱音の戦闘スタイルはコピーできなかった。
理由は簡単で朱音の戦闘スタイルはいわば型があってない。
言い換えるなら変幻自在の神槍使い。
それが碧から見た朱音の戦闘スタイルだった。
同じ女性として憧れた彼女に追いつく為に毎日頑張ってようやくここまで来た。
振り向いて欲しいから強がって、挑発的な態度を取って、少しでも意識されるように不器用ながら彼女なりに頑張った日々が懐かしく感じる。
そんな朱音よりコピーが不可能な少年が今目の前にいる。
「…………」
想像を大きく超えた光と音は例えるなら目に見えないダメージで一見外傷はないがとても厄介だった。
「まだまだ行くぜ! お次は――」
どうやってアレを凌いだのだろうか。
もし慣れだと言うのなら……。
碧から見た紅は既に人の皮を被った化物であると――確信した。
もう目は見えず、音も聞こえず、平衡感覚を乱され立つこともできない。
勝ち目は失われた。
それでも肌で感じるプレッシャーが教えてくれる。
紅はまだまだ元気で好戦的であると……。
「申し訳ございませんが、この勝負はここまでです。紅さん、碧さん」
次の一撃で負けると覚悟した碧を護るように巫女装束の小百合が姿を見せる。
そしてライブ中継が遮断される。
これでここの状況を把握できる者は三人と運営陣だけとなった。
「え?」
驚く紅。
「ここでそれを使えば一体どれだけの被害が出ると思いますか?」
「ん? 被害だと?」
「はい」
「俺の心の中は無被害だが?」
「……ゴホン。現実の話をしているのです」
咳払いをする小百合に紅は首を傾ける。
「現実? 別に新しい世界に生まれ変わるだけじゃないのか?」
「それでは困るのです。今は別の
小百合の説得に頭に???を浮かべる紅。
本気で理解しようと頑張っても、キャパシティーとは? とそもそもの言葉の意味がわからない紅。
なので――。
「ならこれ止めたら俺とデートしてくれます?」
「…………!?」
今度は小百合が頭に???を浮かべる。
紅の言葉を本気で理解しようと頑張っても、デートとは? とそもそもの言葉の意味がわからない小百合。
自分の話とデートの話がどう繋がるのか、見当すら付かないのだ。
だが断った場合の未来はなぜか簡単に想像が付く。
そうなれば色々と困る小百合は心の中で少し考える。
ここでの最適案はなんだろうか? と。
「わかりました。今からデートをしましょう。なので碧さんとの勝負は私がお預かりします」
小百合は既に何が起きていて、何でまだ生きているのかすら、正しく理解できていないであろう碧から紅を引き離すことを最優先とした。
こんな所でサーバーが落ちた日には目も当てられない。
それに碧が負ければ神々の挑戦にも支障がでるかもしれない。
なにより――小百合の願った【神災の神災者】は今日の一試合だけで復活した。
厳密に言えば神災は既にあの日の戦いからなぜか進化している可能性まで今日感じた。
ならば、創造主との約束は既に達成に向かっていると判断できる。
後は時が来るのを待てばいい。
「それで構いませんか?」
「え……まぁ、はい……」
「なら行きましょうか」
三人しかいない戦場で、ダメ元の発言が成功し逆に戸惑う紅の手を握り小百合は近くにある湖へと歩いて行く。
そして、誰にも見られることなく、一人戦場に取り残された碧は強制ログアウトとなった。厳密に言えば小百合の力で強制ログアウトを遅らせていただけ……既にあの時決着は……付いていたのだ。この決着は小百合と碧しか知らない物となった。
この日、神災は他の世界のトッププレイヤーにも通じる事が証明された。
それは――神災教の復活を意味し、他の世界の者たちからも警戒されることを意味する。
さらには――再び板が新規のスレッドを立ち上げては物凄い勢いで更新を始めた瞬間となった。だって神災が長い眠りから目覚めてしまったのだから……。。。
もし世界が時の流れと共に進化するなら神災も時の流れと共に……。
だとするなら、今日の出来事は紅が新しい形の神災を手に入れる為の前触れなのかもしれない。
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