第14話 紅 VS 碧 開戦
「えっ――!?」
脳内に流れる曲に合わせて紅が大きく踏み出して数歩で距離を詰めた。
たったそれだけ。
「もう俺がここに戻ることなんて~」
歌を口ずさむ紅。
「ないと思っていた。なのに~こうしてここに立っているのだろう~?」
最速で放たれた拳。
ワン、ツー、スリー、と続くジョブからの本命のストレート。
「……なにこの違和感……ッ!!」
ジョブは受けた。
だけど本命のストレートは剣で防御された。
なのに紅は笑っている。
「さぁ、行きますよ。ここから俺様全力パレード! まずはエスケープ!」
反撃をしようとした碧の視線の高さにほいっと放り投げられた手榴弾。
このまま爆発すれば両者の首から上が吹き飛んでしまうかもしれない。
そんな風に考えた時点で紅の思う壺となる。
常識を【神災の神災者】相手に持ち出す、それがどれほど危険な行為なのか碧はこの時わかっていなかった。
ドンッ!!
お互いに一秒でも反応が遅れれば首が飛んでいたかも知れない爆発が起きた。
碧が大きく後方にジャンプして紅の動きを再度見極めようとするが、紅はその一歩先を行く。
「第二弾、俺様全力シリーズ、全力で全速ダッシュ!」
「噂通り結構速いのね」
「行くぜ! 組手なら男の俺の方が有利だ!」
「いいわ、その自慢の拳斬ってあげる!」
地面に着地と同時に紅に向かって突撃する碧。
両者の距離が近づく。
「と、見せかけて聖水瓶、オンファイア!!!」
腕を引き殴る姿勢を見せる手には既に聖水瓶が握られている。
先ほど爆発の一瞬でアイテムツリーから取り出したのだ。
それを全力で投げるも簡単に剣で切られてしまう。
瓶が割れ聖水が宙に散らばる。
だけど突撃してくる碧は止まらない。
「猫だましとは舐めてくれたものね」
「やべっ!? こうなったら俺様全力シリーズ、真剣白刃取り!」
やれるものならやって見ろと剣を大きく振り上げる碧。
その瞬間、紅の表情に笑みが浮かぶ。
まるでなにかを狙っているかのように。
相手から見ればただただ不気味でしかない。
本当に真剣白刃取りを成功させるつもりなのだろうか?
そう考えるとどこか違和感を感じる笑みだ。
「悪いな、今日の俺様は復活祭! 派手に行くぜ!」
脳内に流れる音楽がサビに入った。
そして振り下ろされる剣は紅を真っ二つにするため、勢い良く振り下ろされる。
直後。
第二波が来る。
碧が力いっぱい振り下ろした剣と紅の間に手榴弾が降ってきたのだ。
「はぁ!?」
「さっきの爆発は囮! 本命はこっちだ! 俺様全力シリーズ、手榴弾花火!」
五個の手榴弾が斬られるより早く爆発する。
聖水を全身に浴びた碧に襲い掛かる炎と爆風。
それによって強制的に攻撃を中断され、身体ごと吹き飛ばされてしまう。
プロ相手に戦いの流れを完全に掌握する紅に観客は唖然とした。
実際もっと紅が苦戦するかと思っていただけに。
だけど実際はその逆。
完全オリジナル戦法の紅が碧相手に押しているのだ。
「きやぁああああああ!!!!」
「男は燃える! 女も燃える! それが男女平等主義の俺様の考え方! まだまだ行くぜ!」
地面を転がり、防御すらままならない碧に全力疾走で近づき殴りかかる紅。
「おら、おら、おら!」
テンションアゲアゲの紅に女性は殴れない。
なんて言葉は存在しない!!!
大事なことなのでワンモアカモン。
男女平等主義でテンションアゲアゲの紅に殴れない相手はいない!!!
「……ッ、ちょ!?」
紅の攻撃が当たるも致命傷はしっかりと避けてダメージコントロール。
同時に反撃の隙を伺い、それまでひたすら耐える。
これを徹底する碧はまだまだ冷静だった。
一件紅が完全に戦いのペースを握ったかと思ったが、まだ手綱はどちらにもわたっていなかった。
「スゲーな、美人なお姉さん! だったら超全力シリーズにもついて来れるよな!?」
元気な声と期待の眼差しを向ける紅。
「えっ……ちょ!? まだ上があるの?」
型が全くない弓使いがこれ以上好き勝手なことを始める?
そんな疑問が脳内によぎった碧の些細な表情の変化を「あるなら最初から使えよ!」と勘違い解釈をした紅は「任せろ!」と叫び、さらにギアを上げていく。
つまるところ、紅が最初に言った俺様全力シリーズエターナル連発モードとは、俺様全力シリーズ、俺様超全力シリーズ、俺様究極全力シリーズ、を相手を殲滅するまで使い続ける警告だったわけだ。
なので紅の頭の中では観客も込みの警告も既に終わっていると理解しているわけで、周りに対する配慮など一切考えていない。
「今こそ目覚めろ! 最恐にして最強の力! 法陣は更なる進化の過程に過ぎず! 矢を正義とするならば、悪を貫く理由となるだろう! 目覚めろ『猛毒の捌き』!!!」
効果を最大まで高める詠唱を使ったスキルの発動。
それによって紫色魔法陣から詠唱により強化された三十本の毒n……いや五つの魔法陣から合計百五十本の毒の矢が姿を見せる。
それを見た瞬間たった一人に向けて放つのだとここにいる全員が理解する。
その矢は絶対貫通の効果を得ており、生半可な防御壁では意味をなさない。
だからこそ碧相手でも有効的な一撃だと考えた。
それは碧自身もそうだった。
だけど忘れてはならない。
お前達の記憶にある神災はそんなに誰もが簡単に予想がつく物だったか?
と、思い出さなければならない。
結局のところ神災だけは、最強の朱音ですら最後まで攻略出来なかった業であったと。
その攻撃力は?
その攻撃範囲は?
その攻撃方法は?
そのプロセスは?
その後の第二次被害は?
その他諸々を今すぐに思い出さなければまだ平和ボケした奴らから死んでいくのは……必然と言えよう。
「フフフ、アハハハハハハハ!」
紅が高笑いを始めた瞬間――碧の感じる空気がマイナスになった。
本能が大音量で警告する。
――死ぬぞ?
と。これが錯覚や勘違い……そう思えない何かが既に……彼女を支配していた。
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