第13話 【碧】――彼女の心情
防具装備は朱音と全く同じ神殺しシリーズで武器は片手直剣。
腰にはサブ武器として杖。
近距離攻撃に長け、遠距離攻撃にも長けた、攻撃レンジは合ってないオールラウンダープレイヤー。
それが碧と呼ばれるプレイヤー。
テンションを上げれば絶好調の紅の本気が見られるのは巷では有名な話し。
その罠に見事ハマった男は首をぽきぽきと鳴らして準備運動をする。
「さて……どうするかな、う~ん」
「くれみんの好きなタイミングで戦闘に入っていいよ」
相手がプロだと知らない紅は舐められてるのか、と少しムッと感情を表に出す。
だが周りの反応は違った。
これがプロの余裕なのだと、正しく状況を理解していた。
生半可な攻めでは碧に傷一つ付けれないのは紅が来るまでに戦ったプレイヤーが既に証明している。
「わかりました」
頷く紅にボソッと誰にも聞こえない声で、
「神災……どんなものか楽しみだわ」
と、呟く内野葵――碧。
対して紅は微笑む。
忘れていた高揚感が脳を刺激しアドレナリンを分泌させる。
鳥肌が立つのはビビってるからじゃない。
むしろ久しぶりの全力に心が躍っているから。
橘ゆかりとの約束を果たすためにもこれほどの準備運動の相手はいない。
知らないこそ生まれた勘違い。
だけど強敵と戦い続けてきた紅の勘が目の前のプレイヤーは強いと正しく認識したからこそ全力で行くと心の中で決めた。
構える紅。
両拳を軽く握り、肘を追って顔の前に持ってくる。
まるで空手が組手をする時の構えに碧も観客も驚く。
背中に背負った弓を何故使わないのか? と。
「俺様全力シリーズエターナル連発モード発動」
昨日読んだ漫画に影響を受けて開発されたばかりの全力シリーズではあるが、その言葉に「あ~」と納得する者たち。
これは紅の作戦だと気づいた碧の顔から笑みがこぼれる。
本当に最初から人の予想を軽々超えてくるプレイヤーなんだと。
「噂通りみたいね。もし実力もそうならリストからもう一本持ってこないとダメかな」
アイテムツリーの装備欄の一番上には今手に持っている『神殺し――竜神剣』がもう一本用意されている。それは見た目一メートル程度の長さに真っ直ぐな両刃を持ち重量は一キロから二キロ弱と言われている物。
そして剣専用スキル――ソードスキルの殆どを使うことができる汎用性に長けた武器。
そんな武器を持っても碧は知っている。
もし朱音に死を突きつけたのが本当だとしたらどんな大層な武器を装備しても意味がないことを。
なぜなら碧の剣技を超える槍技を持つ朱音が苦戦するのだ。
裏を返せばそんな朱音が追い込まれる相手なら自分ではもっと苦労するという簡単な理由だ。
だが、蓮見から漂う独特な雰囲気は碧でも今まで感じたことがない雰囲気だった。
体術もある程度なら簡単にコピーできる。
だけどそれでは面白くないとまずは剣。
剣を超えた先に二刀流、さらにコピー、そして変幻自在模倣二刀流剣士、と碧の中にある四段階のギア。それをどこまで使うことになるか、そして紅という男と対峙することで求める物をここで手に入れられるか。ここにわざわざ自分が研鑽に使うはずの時間を使ってまで来た理由は【神災の神災者】の異名を持つ紅と『神々の挑戦』前にどうしても戦かってみたくなったから。
本当は暇な時間などはない。
少しでも強くなって見栄張って宣戦布告した朱音に勝つために修行をしなければならない。
でも朱音に勝つためには彼女が経験した境遇を自分も乗り越える必要があると感じたから今日此処に来た。
そして運がいい事に初日から大物に出会うことができた。
本当に運がいいと思う。
その場でステップを刻み始めた紅が「~♪ ~♪ ~♪」鼻歌を歌い始めリズムに乗り始めた。
自分相手に鼻歌を歌うほどの余裕がある?
紅を見て集中する。
紅の僅かな動きも見逃すことがないように集中した瞳を通して碧の本能が急に危険信号を鳴らし始めた。
今まで見てきたプレイヤーとは何かが違う。
そうじゃない。
(この子嘘でしょ……)
碧は驚いた。
だけどそんなはずはないと首を横に振り、剣を持つ右手に力を持つ。
瞬間――紅が動いた。
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