第14*

 めんどくさい。

 俺はそれが大嫌いだ。


 悪魔は初対面にも関わらず、勝手にボディタッチして来た。

 不快だ。それに笑い方もうるさい。

 何君、パーソナルスペースって知ってる?

 それに最初から俺を殺そうとしてきている。何故それ程までに、他人に感情を向けられるのか、俺には理解が出来ない。

 何に対しても、特に何も感じていない俺は、他人からしたら不幸な人種なのかもしれない。だが、俺にとってこんな幸せは無い。


 幼い頃、一を聞いて十を知る様な奴で、そこからまた何故そんな事になってしまうのか、他の考えはどうだろう等、細かい事まで悩み、知ろうとする自分が嫌だった。

 だが、俺はそのめんどくさい性格をやめられなかった。答えが出ているのにも関わらず、いつも同じような事を悩み続けた。

 例えば、自分の性別だとか。例えば、母が人間として馬鹿すぎる理由についてだとか。

 悩んだって仕方の無い事だ。それなのに、俺は毎日毎日悩んだ。

 やめたかった。全てやめたかった。

 考えた所で、悩んだ所で、幸せにはなれないから。


 願いがかなったのは、エペルのおかげだった。

 エペルは俺に力をくれると言った。そしてその代わりに俺の意識を貰うとも言った。

 なんていい契約内容だろう。俺はすぐにその契約を了承した。

 その日から俺は、考える事がなくなった。悩む事も無くなった。

 何故だと思った瞬間に、エペルが俺の意識を喰らうのだから。


「めんどくさい」 


 クソデカボイスの笑い声に、俺は頭痛がして来た。

 目の前の悪魔を今すぐにでも黙らせたい。

 そう思った俺は、エペルの力で放つ強力な技で直ぐに終わらせたいと思った。

 意識内のエペルが眠っていたので、俺は契約内容の一つである【名前を呼べば何時でも起きる】を使った。


「……エペル」


 エペルは目を覚まし、そして姿を現してくれた。

 現実で久しぶりに顔を見たけど、こんな顔だったんだなと思った。

 以前いつ会ったか覚えていない。

 きっと、その時の意識はもう、エペルが喰らったのだろう。

 俺はゆっくりと目を閉じ、そしてエペルの力を借りる。全身が熱くなり、力がみなぎるのがわかる。

 そして、小さく呟いた。


「赤」


 うるさい声で叫び、地面に転がる悪魔に対して、俺は苛立ちを覚えた。

 でも、それも直ぐに無くなるだろう。エペルが喰らってくれる。

 悪魔が居なくなって、うるささが止んだ。

 静かで快適だ。

 ヒサちーが俺を見て心配そうな顔をしているなと思ったら、目の前がぐるりと回転した。


 意識が……。

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