第11話
友達との鍛錬が出来なかった命は、次の土曜日、またみんなで集まれないかと連絡を取った。
次に
最後に
✝︎✝︎
当日、命は成真の家までの道を覚えていない為、三人が家まで迎えに来てくれる事になっていた。
命は昼ご飯を革と食べていた。普段革はすぐに命と会話するが、今日は何も話さず黙々と食事を進めていた。
気に入らないのだ。命がこれから
食事が終わり、洗い物を終えてキッチンからリビングへ帰ってきた革へ、命は話をきりだした。
「――遊びに行くけど、あらたもくる?」
「絶対行かねーよ! あんなクソ共の顔みたくないし」
その事にてイライラしている人に対し、よくもまあ恐れずに話題を振れるものだ。
「あらた……あんまり俺の友達、悪く言ったら……ダメ」
「――ごめん」
命は男友達の事をとても大切に思っている。
革が傍に居てくれれば良いと思っていた命の考えを、三人は少し変えてくれたのだ。
命が三人に出会ったのは高校一年生の時。剣術の腕を自分なりに磨き上げ、一人で鍛錬を続けていた命は、いつの間にか剣術スクールに通わなくなっていた。
在籍はしているものの顔を見せない命に対し、その当時剣術スクールの先生であった輝響の親は困り果てていた。
当時、そんな態度の命は剣術に対して不真面目で、人に対して迷惑を平気でかける奴だ、許せない。と輝響は思っていた。
その時には輝響、雅、成真は既に友達であったが、輝響と成真は命と学年が違う為、命に馴染みがなかった。
命と面識があったのは同じ学年で同じクラスであった雅。
雅は命の事を「才能のない剣術バカ」と思っていた。何故かと言えば、授業をサボり、中庭で一人刀を用いて素振りを何回もしては、先生に怒られていたからだ。雅はそんな様子を
――才能がない奴は闇雲に鍛錬するんだなぁ。可哀想。僕は天才だから、そんな切羽詰った鍛錬必要ないんだよね。
と、命を見下していた。
雅は友達である輝響も輝響の親も困っているのならば、命を完膚なきまでに叩きのめし、またスクールに通ってもらおうと思った。
――あいつにさ、僕達が勝ったら、スクールにまた来てもらうって条件で勝負挑むのはどう?
そんな提案を輝響と成真に伝えると、二人はそれを了承した。
次の日、学校で雅は命を屋上に呼び出した。命は雅について行き、屋上へと赴くと、そこには輝響と成真が居た。
――なんの用?
命が口を開けば、輝響は真面目な顔で問う。
――剣術スクールに何で来ないんだ?
命はそれに対し
――俺は俺の剣術をする。――あんなお遊びスクールには、もう用はない。
と語る。
真面目に剣術を学びに来ているみんなの顔や気持ちを思うと、輝響はその言葉を許せなかった。輝響は怒りを顕にした。
――お遊びスクールなんかじゃない! みんな、真剣に強くなりたくて来ているんだ。失礼な事を言うな、謝ってくれ。
輝響のそんな言葉に、命は鼻で笑い
――謝らせたいなら……俺に剣術で勝って見せろ。
と返した。
自分達が言う前に、命から勝負の話をされ、丁度いいと思い、輝響はそれを受けた。
――三人一緒にかかってきてもいいぜ?
命は笑ってそう言ったが、それに対して輝響は
――俺達三人と君一人でやらせてもらうけど、それぞれ戦う時は一対一だ。そして魔法は無し。
と話した。
流石に命の態度に嫌悪を覚えた雅は
――お前が負けたら、パンツ一丁で土下座してもらうからね。
と言い、成真は
――お前が負けたらその嫌味な程綺麗な顔にパイを投げてやる。
と言った。命はその条件も笑いながら了承した。
放課後、命は久しぶりに剣術スクールへと顔を出した。先に来ていた輝響、雅、成真は既に刀や剣を握り準備は整っている様だった。稽古場には四人の姿しかなく、静まり返っていた。
挨拶も無しに命は三人の方に視線をやり問うた。
――誰から?
自信満々に雅がそこから一歩前に出た。
――秒で終わっちゃうかもね。――僕、天才だから。
稽古場の真ん中に命と雅が対面して並び、命はやっと刀を出して握った。普通では無い出し方に少し驚いたものの、雅はふんと鼻で笑う。
――出し方しか目立たないんでしょ? あーあー、可哀想にね。僕の剣技はしなやかで美しいから、見惚れるといいよ。
そう言い終わると双剣を構えた。
――始め!
審判を務める輝響が声を出した。
刹那、命が床を踏みしめると瞬時に雅に強烈な一突きを繰り出し、雅は簡単に稽古場の壁へと抑え込まれてしまった。急な出来事に脳がついて行かなかったが、ハッとして体に巡る痛さと、命の冷たい瞳と視線が交わった瞬間、雅の脳内は恐怖一色で塗りつぶされた。
――無理……。
小さく弱々しい一言が、稽古場に響き渡る。
――命の勝ち!
輝響はそう言った。
刀を壁から抜き、その場に倒れ込む雅に対し、命は静かに口を開いた。
――無駄口を叩く暇があるのならば……より鍛錬をしろ。才能に甘えるな……集中し、努力しろ。勝負に……言葉はいらない。
悔しさと恥ずかしさで、雅は声を上げて泣いた。
――次は誰だ?
命はそう言って、稽古場の全体を見回した。
輝響は雅をなだめており、成真は先程の戦闘を見てから震えが止まらず、刀を両手で抱きしめながら命を見ていた。命と視線が交わると、成真はうまく息ができなくなり、軽い過呼吸状態になった。冷や汗も止まらなくなり、急に成真は命に対して
――ごめんなさい! ごめんなさいでした!!
と謝りはじめた。
命はその様子に苛立ちを感じ、成真の元へと歩みを進めた。そして冷たい瞳で成真の事を見下げた。
――痛みが怖いのなら……そもそも剣術をするな。君の守りたいものは、そんなにも簡単に投げ出せるのか。――情けない。
命は静かに言い放った。
成真はその場で顔を上げることなく、静かにその言葉を噛み締め、声を殺し泣いた。
――最後は……君か。
そう言いながら、命は険しい顔で大剣を見つめている輝響の方に視線を向けた。その声を聞いた輝響は命の方を向き対決の場まで歩を進めた。
少し離れた場所にいる雅は、輝響を応援していた。
――なびー! そんな奴ギッタンギッタンにしちゃえー!
輝響はこのスクールで一番強いと言われている剣豪であった。命の動きはさっき見ただけだが、自分と同じくらい……いや、それ以上かもしれないと感じ身震いしたが、輝響は退かなかった。
この戦いに勝ち、皆が遊びで剣術をしていない事を証明し、失礼な発言を撤回してもらい、謝って欲しいから。
先程まで泣いていた為、目が充血し少し腫れぼったい成真が審判を務める。
――始め。
静かに声を出した。
お互いに刀と大剣を構え、相手の動きを伺う。命にも少しは分かるのだろう、輝響が手馴れた者だと言うことが。先に仕掛けたのは命であった。輝響の方に瞬時に移動し、斬り掛かろうとするが、それを大剣で受け止められてしまう。だが、それで諦める命ではなく、そこからも斬撃を何度も大剣に対して撃ち込んでいく。流石に強い攻撃を何度も耐えられず、輝響も命の動きをしっかりと見つめ、大剣なしで攻撃を避けた。大剣を握り直すと、ふぅーと息を吐き大きく息を吸った。
刹那、輝響が連続で命に斬りかかる。命はそれを全て刀で受け否しては受けの繰り返しだ。命の刀の方が細く、下手をしたら折れてしまう。輝響は馬鹿力で何度も大剣を振ってくる。命はそんな
命は輝響が大剣を振りかざす隙に後ろへとバク宙し距離をとった。命はまた輝響に斬撃を何度も撃ち込んでいくが、大剣に受け止められてしまう。だが、命の狙いはそこではなかった。大剣への斬撃を一度やめて、自分のキックを大剣に当てた。輝響はそれを斬撃だと思い受け止めた。そこから命は輝響の後ろへ回り込み、首元に刀を這わせた。
輝響は肩で大きく息をしながら大剣を下ろす。
――勝負ありだね。
輝響はそう言ってから、命に対して一礼をした。
勝てなかった悔しさで、輝響も涙を流した。命は輝響に静かに歩み寄る。
――楽しかった……君の剣技、研ぎ澄まされている。――ごめん、遊びなんて言って。
なんと命から謝ってきたのだった。
輝響は驚きのあまり涙が引っ込んでしまった。
しばらくの沈黙が流れ、命は深呼吸をしてから首を上下左右に動かすと、無言で稽古場を後にした。
雅と成真は輝響の元へ駆け寄った。そして誰がせーのと合図したわけでもなく、三人同時に「強かった」と口にした。
その時輝響は「あの子と切磋琢磨したい!」と思い、雅は「僕より馬鹿そうなのに強いとか生意気! あいつより強くなって見返したい」と思い、成真は「怖いイケメンだった……ほんと無理。――でも、俺もあいつみたいに強くなりたい」と思って。いた。
最初に行動を起こしたのは輝響であった。稽古場から急いで飛び出し、命の後を追う。
――待ってよー!
そう言いながら、雅は輝響の後に続いた。
――ええっ⁉︎ ちょっと……お、置いてくなよー!
情けなくそう言いながら、成真はみんなの後を追った。
輝響は命に追いつくと、命の前に立ち塞がる。
――君と一緒に、これからも鍛錬がしたい。スクールで俺達と切磋琢磨しよう!
それに対して命は、表情一つ変える事はない。
――嫌だ。――通うのめんどくせーから……スクール辞める。
そう言って、歩みを進めた。
そんな命の腕を輝響は掴み、嫌な顔をしながら輝響を睨む命にはお構いなしに話を続けた。
――じゃあさ、俺達が君に会いに行く。今日、君は謝ってくれたし、あんなに真剣に戦い楽しんだ俺達は、もう友達だよ!
輝響はしっかりと見ていたのだ。命が自分と本気で戦う時に見せた
雅と成真は断られるだろうと思ったが、命の口から出た言葉は意外なものであった。
――俺は勝手にやらせてもらう。好きにしろ。
その答えを聞いた輝響は喜び、雅は仕方ないなと言いながらも嬉しそうな顔をし、成真は一人眉を
それから鍛錬を共にする中で、それぞれ剣術をする理由は違えど、その気持ちは本物だと知った命は、次第に三人に対して興味が湧いた。時には自分の知らない事も気兼ねなく話してくれたり、話を聞いてくれたり、優しさをくれる。
程なくして、命は三人の事を友達と認めた。
いくら相手が革であろうと、命は大切な友達の事を、あまり悪く言われたくないのだ。
微妙な空気が流れている中で、インターホンの音が鳴り響いた。革は玄関まで赴くと、ドアについている小窓から相手を確認し、眉間に皺を寄せながら開けた。
「やっほー! あらた」
「やっぱりてめぇらか」
「こんにちはあらたちゃん! みことの事迎えに来たよ」
「分かってるよ。――呼んでくる」
訪問者は輝響、雅、成真であった。雅と輝響は革に挨拶したが、成真は特に何も言わなかった。
苦手なのだ、成真は革の事が。
成真は革に対して特に何もしていないのに、怒鳴られる頻度が高い。「みことに触るな!」や「みことが美人だからって惚れるなよ!」等を毎回の様に言う。
「みんな……来てくれて、ありがとう」
「じゃあ行こうか」
命の登場に、成真はやっと口を開いた。
四人集まった所で、玄関から出ようとすると、革は
――あのさ……と、もじもじしながら声を出した。
四人は振り向き、口々に「どうしたの?」という中で、革は四人の方を向きその場で一礼をした。
「み、みことの事、その……よろしく」
その場に静寂が訪れたが、すぐに輝響はそれに対してニカッと歯を見せて笑った。
「うん! 今度はあらたちゃんも一緒に遊ぼうね」
「はぁ? 遊ばねぇよ……」
「どこ行こうかなー、買い物とか遊園地に遊びに行くのもいいね! 今度みんなで考えよ」
「話きいてねぇなこいつ……い、いいから早く行ってこいよ!」
あらたは照れくさくなり即座に身を翻すと、リビングの方へと戻って行ってしまった。
「あらたって素直じゃないよねー」
「俺には……結構素直、だぜ」
「そらみこと相手ならそうだろうね」
玄関を出て、四人は雑談をしながら、成真の家へと向かった。
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