妖艶な蛇
狐山高校の天空寺蒼に負け俯きながら仲間の元へ戻る筋肉男の勇いさむ。
その寂しげな姿から励ましの言葉がかかる雰囲気だったが仲間たちは違かった。
「師匠……すごかったです……ボク、ボク、感動しちゃいました」
「お、おう。ありがとう」
涙を流しながら感動する美少年の遥。そんな珍しく感情的になる遥の姿を見て困惑する勇。
何より「先輩」呼びから「師匠」へと変わっていたことに驚いていたのだ。
勇は照れ臭さを感じながらも瞳を光らせる後輩を嬉しく思った。
「ぼ、僕も感動しましたよ……すごすぎました、あんなすごいの一生真似できないです」
遥の隣で十真も試合を見て心を動かされて泣いていたのだ。
涙を流しやすい二人だが本当に心の底から感動していた。
負けた勇だったがあの筋肉は誰にも真似できない。勇の努力の賜物だと仲間たちは気付いている。
だから励ましたり慰めたりするのではない。勇を称賛し讃えるのだ。
周りを見れば皆、勇のことを称賛の目で見ていた。
審判をしていた白田先生も笑顔でサムズアップしている。
「お疲れ様。また一緒に対策を練ろう。やっぱり天空寺は強いな」
筋肉がたくさんのった肩に優しく手を置いたキャプテンの圭二。その手は暖かく力がこもっていた。
圭二は悔しいのだ。ともに頑張ってきた仲間が負けるのは悔しいのだ。唇を噛んで堪えている。
いつもそばで見ていた圭二が一番、勇の努力を知っているのだ。
「俺が仇を取る。見ててくれ」
「圭二……」
このまま圭二は蒼と戦うため1歩前に出るが圭二とほぼ同時に前に出た人物がいた。
その人物は長髪で金色の髪が綺麗な女性だ。
花畑にいるような甘く優しい匂いがその長い髪から香る。
そしてぷるんと膨らんだ柔らかそうな唇に高校生とは思えないほどの豊満な胸とジャージからでもわかるお尻の完璧なライン。細い指には赤いマニキュアが施されている。
彼女は花澤結蘭。圭二と勇の同級生で指スマ部の部員だ。
「勇、お疲れさんっ! 次はアタシでいいか??早くやりたくてうずうずしてんだよ~。それに……」
己の体を抱きしめて、くねくねと体を動かし色気を出しながら言う。
途中で言葉を区切り圭二の方を見て言葉を続けた。
「それに??」
「圭二は最後だ。アタシが弱らせとくからよ~弱点でも見つけといてなっ!」
しっかりと真っ直ぐに圭二の瞳をまつ毛が長く綺麗な瞳が見る。そして不意打ちのウインクが炸裂する。
「まったく……3対1で勝ってもな」
「勝ちは勝ちなんだよっ~ってことでいいかな?天空寺く~んっ」
豊満な胸を揺らしながら今度は対戦相手の天空寺蒼を妖艶な眼差しで見つめ返事を待った。
「もちろんいいよ。3連続で相手しましょう。全国大会もほぼ連続で試合だからね。その練習と思ってやってあげる。でも俺は負けないけどね」
「ほ~う、いい度胸じゃねぇか~。いいねっ、イケメンく~んっ」
天空寺蒼の許可も得て結蘭は男が待つ位置までモデルのように歩いていく。足を交互にくねらせながら獲物を見続けて歩く。その姿はまさに蛇だ。美しい鱗を纏った蛇だ。
狐山高校の観戦している部員たちがざわつく。
「うぉお天空寺先輩とあの綺麗な人の対決だ」
「俺、何だか興奮してきちゃった、もちろん指スマにだからな」
「これは目が離せないな、いろんな意味で」
向かい合う結蘭と蒼を見て狐山高校の部員が興奮し騒いでいる。
勇との激闘の熱が冷めないうちに試合が始まった。
「よしっ!勇の仇だ結蘭!やってやれい!」
審判を務める白田が結蘭の前へ出てガッツポーズをとりながら瞳を燃やしていた。
その熱い応援を「先生あっちいぞ~」と、煙たがり細くセクシーな手で先生をしっしっと追い払う。
追い払われた白田を見てため息を吐いた狐山高校の黒田は戦いを始めようとする二人の前に立つ。
「それではお互いジャンケンをしてから試合開始だ」
黒田の合図によりジャンケンが始まった。
結蘭は細い人差し指と中指を出してチョキだ。その指は赤いマニキュアが見えるように爪が上を向いていた。
対する天空寺蒼は拳を突き出しグーを出した。
これによって先行は狐山高校の天空寺蒼となった。
「結蘭先輩ファイト~~!! 頑張ってー!!!」
「ねーちゃん! 負けんじゃねェぞォオオ! 勝てェェエエ!!」
同じ女性という事もあって応援に気合が入る1年の美少女の玲奈と結蘭の弟の亜蘭。
溺愛するシスコンのような弟はいつも以上に応援が熱い。
そんな二人の応援に投げキッスで答える結蘭があまりにもエロティックだ。
「結蘭頼んだぞ!」
「まかせなさ~い」
キャプテンの圭二の声援に応える結蘭はいつもの調子で返事をした。
圭二の横ではサイドチェストポーズをして筋肉で応援する勇がいた。
その勇の筋肉をチラッと見てそのまま目の前の対戦相手の方へ向き直した。
「それじゃあそろそろ始めるよ」
「いつでもどうぞ~こっちはもう待ちきれないのよ~」
向き合った二人は同時に構え始めた。
天空寺蒼は勇と戦った時と同じく『フォックススタイル』だ。
両手を握り人差し指と中指を立たせてピストルのような構えをする。
対する結蘭は通常の構えだが細い腕がクネクネと変則的な動きでゆっくりと動いている。
これが結蘭の『スネークスタイル』だ。
親指の爪に塗られて赤いマニキュアは獲物を睨みつける蛇の緋色の瞳のように見える。
構えが終わり準備万端の二人。
掛け声を言うために、呼吸を整える蒼。息を吸い、吐く。
体育館2階の窓のカーテンが風に揺らされ太陽の光が蒼を照らす。
照らされた蒼の髪は太陽の光に反射して青く光った。
そよ風を感じ目を見開いて動き出す。
「いっせーので!! 『1』」
先行の蒼の宣言は数字の1だ。蒼は親指を1本立たせている。
対して結蘭の親指は1本も立っていなかった。
1ターン目にして蒼は片手を引っ込めたのだった。
信じられない様子で自分の両拳を見つめる結蘭。
(嘘でしょ……しょっぱなからこれか、さすが五本指クラスの実力者ってことね……アタシは親指を立たせようと思っていたけど立たせていない。立たせていないこと自体がアタシが思ってた通りになっているみたいで、どういう事かさっぱりわからない……親指も立った感覚はあったのに立ってない……これはかなり厄介ね)
結蘭と同じく圭二も衝撃を受けていた。
「結蘭のスネークスタイルは相手を翻弄して能力をかわすんだが天空寺の能力をかわすことができなかったみたいだ……」
(その通りよ圭二……アタシのスネークスタイルは大抵の能力は受けずに済む。だけどこんなにもあっさり受けちゃうなんて……でもアタシのスネークスタイルはこれだけじゃないっ!)
圭二の言葉が耳に入り、心の中だけで自分のスネークスタイルを見直す結蘭。
そして圭二の言葉を間近で聞いていた1年も信じられない様子でいた。
「そ、そんな……このままじゃ……」
「諦めんのは早ェよ、最後まで見ろォ」
「は、はいっ」
諦めかけて俯きそうになった十真を亜蘭が柔らかい口調で叱ったのだった。
亜蘭の瞳は真っ直ぐに姉である結蘭を見ていた。
そして結蘭は、落ち着きを取り戻し構え直していた。
後攻の結蘭のターンが始まる。
「どうかな? 俺のフォックススタイルは?」
「ふふっ、も~う、さいっこう、こんなの初めて……もっと戦っていたいわ~」
「それはよかった」
と、蒼の問いかけに誤魔化しながら妖艶に応えた。
そして結蘭は宣言するために唇を一度、セクシーに舐めてみせた。
「いっせーので!! 『にっ』」
結蘭も蒼も親指を1本も立たせていない。宣言は外れた。
宣言した後に自分の手を見て結蘭は騙されていることにすぐに気が付いた。
(もーうなんなの、頭では1だと思っていたのに口では2を宣言してる。それにアタシの親指1本も立ってないじゃない。1本立たせようと思ってたのに、感覚では2本立ってるように思ってる。でも実際は1本も立ってない。もう、頭がおかしくなっちゃいそう……)
自分自身に騙される不思議な感覚を味わいながら結蘭は深く深呼吸をした。
その様子を見て対戦相手の蒼は口元を緩めて笑顔をこぼしている。
「混乱してるね」
「どうにかなっちゃいそうっ」
「こっちもどうにかしたくなるよ」
再び誤魔化しながら答えた結蘭だったが本当にどうにかなってしまいそうだった。
それほど天空寺蒼のフォックススタイルは強力だったのだ。
このまま蒼のターンに移行する。
片手のみの蒼。ここで宣言通りにいけばゲームが終わる。
「もっと遊びたかったけどこれで終わりだよ」
「寂しいこと言うなよ、アタシはもっと遊んでほしいなぁ」
「次が待ってるからまた今度ゆっくりと」
そんなやりとりをし、蒼は圭二の方をチラッと横目で見てから宣言を開始した。
「いっせーので!! 『1』」
このターンで終わらせるつもりで宣言をした蒼の親指は立っていない。
対して金髪セクシーギャルの結蘭は親指を立たせた反動で胸を揺らしていた。
立っていた親指の本数は2本だ。
蒼の宣言が外れた。
「まだ遊べるね」
「あら、嬉しい~」
なんとか宣言を外すことができた結蘭だがピンチには変わりがない。
そんなピンチの結蘭の2度目のターンが訪れた。
(ギリギリなんとか耐えたけど完全に指も頭も違う手でいこうとしてた。もう自分の意思なのか騙されてるのかよくわかんない。今のもたまたまなんだろうが、せっかく命が延びたんだ、少しくらい噛み付かせてもらうよ)
蒼の片手を見ながら再び唇をセクシーにぺろりと舐めた。
そして息を吐き、息を吸うタイミングで宣言する。
「いっせーので!! 『ぜろっ』」
その声は色っぽくセクシーだった。
そしてすぐに称賛の声と驚きの声が結蘭の耳に届く。
「お見事、驚いたよ1本も取らせる気なかったんだけどな」
「そんじゃ、片手引っ込めさてもらうわ~」
両者親指を立たせていない。つまり結蘭の宣言通りとなり、片手を引っ込めることができたのだ。
「よしっ! よくやった結蘭! あれがスネークスタイルのもう一つの力だっ!」
「す、すごい……」
驚き言葉が出ない様子の十真の隣では圭二が腕に力を込めてガッツポーズを取っていた。
そしてそんな二人の後ろで様々なマッチョポーズを瞬時に変えて喜びを表現している勇もいる。
「先輩すごっ!! 素敵っ! カッコ良すぎっ!! やばやば~!!」
「さすが、ねーちゃんだ!! マジでぱねぇ! いやマジでぱねぇ!」
結蘭が片手を引っ込めたことによって喜び、騒ぎ出しているのは玲奈と亜蘭だ。
騒ぐ弟と後輩の声を聞き、笑顔をこぼしながら態度を大きく見せ、豊満な胸を強調しだしたセクシーギャル。
「頭も指もこんがらがって何がなんだかわかんない混乱状態だけど、ちゃんとアタシの牙を受けたみたいで最高っ~」
「あぁ、無防備だった……」
艶めいた顔つきになり結蘭は蒼の親指を立たせなかった片手を見ている。
今回のターンで結蘭が宣言通りにいき、片手を引っ込められたのはスネークスタイルの効果がタイミングよく効いたおかげだ。
スネークスタイルは相手を翻弄し相手のスタイルの効果を受け辛くするだけではなく、相手の親指の動きを止める事もできる。
片手を引っ込めたばかりの蒼は油断をしていた。その油断しているタイミングでキツネの首元をガブリとヘビが噛み付いたのだった。
親指の動きを止めることに成功したら、あとは自分の混乱状態との戦いになる。
自分で自分を騙していたが、スネークスタイルの効果で蒼の親指の動きを止め流ことに成功し、偶然にも宣言通りとなったのだった。
一見強すぎる効果に思えるが、スネークスタイルの相手の親指の動きを止める効果は、警戒されてしまっては発動することができないという弱みがある。
「そっちの動きをアタシのスネークスタイルで封じられれば、いつかは引っ込められると思ったけど、まさかこんなに早くくるなんて思ってなかったよっ……」
片手をゆっくりと蛇のように動かしながら愛おしいものを見るような目をしだした。
そのまま蛇行する片手の動きを止めて一言、
「このまま反撃といこうじゃないか~、イケメンくんっ!」
うぉおおおおおおぉおおぉぉおお
結蘭の決め台詞で、体育館は本日1番の盛り上がりをみせたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます