シャトルバスに揺られて
練習試合を行う狐山高校の体育館へは
十真たちが通う兎島高校は茨城県にあり今から向かう狐山高校は東京都にある。なので高速道路を活用し約2時間かけて向かう事になるのだった。
指スマ部の服装は全員ジャージ姿だ。黒色のジャージに金色のラインが腕と足に1本ずつあり背中には同じ金色で『兎島高校 指スマ部』と書かれている。このジャージは指スマ部で買い揃えているジャージで歴代兎島高校の指スマ部は全員このジャージを着ていた。
そんな指スマ部を乗せるシャトルバスの中では不穏な空気が流れていた。
シャトルバスの後列には十真と遥が隣同士に座り、王人が一人一番後ろの席に座っている。そして亜蘭は3人の少し前に座って1年の様子を見るために後ろを向いていた。
「ぜってー負けねぇぞ……負けねぇ、負けねぇ……」
王人は昨日の出来事を思い出しながら貧乏ゆすりをして苛立っている。王人にとって相当、癇に障る出来事だったのだろう。脳裏には真田達也が前髪をかき分けてニヤリと笑う姿が映し出されていた。
何度も同じ言葉を繰り返し戦意を高めている。
「ヴォゲ……吐きそう……緊張と車酔いで……いや、バス酔い……ヴッ……」
「十真くん……だ、大丈夫??」
「だ、大丈夫……じゃない、バスとか初めてだし……ヴヴヴ……揺れて……ヴォ」
「無理しないで……もう喋らない方が……」
今にも吐きそうな十真は剣幕な表情になっている。そんな十真の背中を優しくさするのは美少年の遥だ。小さな手のひらで何度も優しくさすっている。
十真が信じられないほど緊張しているので、遥はそんな十真を見て逆に緊張が解れたのだった。自分よりも緊張している人を見ると何故か自分の緊張が無くなりその人を助けてあげたいと思ってしまう人間の性だろう。もしくは遥の優しさだ。
「1年ズは気合十分じゃねェか! よかったぜッ! ガッハッハ!」
練習試合が初めてとなる1年の様子を見ながら呑気に笑う金髪モヒカン頭の亜蘭アラン。十真は剣幕な表情をしているので亜蘭は気合い十分だと勘違いしているのだ。背中をさする遥も十真の気合を高めているものだと思っている。
安心からだろうか眠気が襲って来て亜蘭は座席の背もたれを限界まで倒して眠りについた。
もう一人の1年、オレンジ色の髪色のショートヘアーの美少女は金髪ロングヘアーのセクシーギャルと女性陣二人でシャトルバスの中間あたりに隣同士に座っていた。
「結蘭先輩っ……真田達也って人に去年何かされました?? 話したくない事なら話さなくてもいいんですけど……」
遠慮気味に俯きながら狐山高校2年の真田達也について聞く玲奈。真田の話によると去年は亜蘭に勝利し結蘭に良い事をしてもらったらしい。玲奈の考えでは今年の遥とのツーショット騒動と同じようなことが去年も起きたのだと考えている。
「あー、狐山の、あいつに何かされた覚えはないな……いや、待てよ、アタシがやったな」
「やったって何をですか?? やらされたんじゃなくて?」
「デートデートしつこかったんでな、四つん這いにさせて踏んでやったよ。ブヒブヒ喜んでて、さいっこう~だったわ~思い出すだけで笑いそうになる。プフッ」
亜蘭は勝負に負けて姉を守ることができなかったのは事実。しかし当の本人は真田の言う通りにはならずデートを拒否。最終的には四つん這いにさせて踏んだとのこと。逆に真田は結蘭のおもちゃになったのだった。その光景を思い出した結蘭は思い出し笑いをしていた。
玲奈も容易く想像できてしまうところが怖いところだ。
「さ、さすがっすわ~先輩……私はてっきりその大きな胸とかキュートなお尻とかなんかいやらしいこと要求させられたのかと思って……」
ジャージからでもわかるほどの豊満な胸をじーっと見つめながら言った。
けれど無駄な心配だったと安心し肺の中で詰まっていた息をこぼした玲奈だった。
「その言い方だと何か要求されたのか?? 確か昨日先生に挨拶しにきてたらしいしな、玲奈可愛いかんな~男にモテるのは可愛い女の特権だかんな」
「いいえ……悲しい事に私じゃなくて遥くんです……勝負に勝ったらツーショットって言われて……」
「あっなんかゴメン……」
「いいえ、大丈夫です……私は十真くんさえ振り向いてくれればいいんです。だから今日は屈辱を晴らすため私の手で倒そうと思ってます!!」
「勝負も恋も応援してっぞ~」
玲奈の目は燃えている。屈辱を晴らすため闘志を燃やしているのだ。
その後、女性陣は「ところでさ~」という結蘭の言葉とともに恋愛トークへと変わり大盛り上がりだった。
シャトルバスの前方の座席では大いびきをかきながら眠る指スマ部の顧問の白田一輝がいる。もちろん練習試合当日なので酒は飲んでいない。ただ前日も酒を飲んでいなかったので夜中に眠れずに寝不足になってしまいバスの中でようやく寝れたという状況だったのだ。
その後ろで大いびきを聴きながらキャプテンの圭二は大学ノートに狐山高校の分析や練習試合のスケジュールなどこまめにまとめていた。知っている限りの情報が丁寧にびっしり大学ノートに書かれている。去年の情報なども書かれていてそれを読み直してもいた。
そこには3年、天空寺蒼と2年、真田達也の『スタイル』なども記入されている。
そのキャプテンの横の座席でプロテインバーを食べながら筋トレ雑誌を読む筋肉男の勇がいる。勇は新たな筋トレメニューを考えていたのだった。目を通している筋トレ雑誌に反応して胸筋がピクピク動いているのがピチピチのジャージから見てわかる。
そんな感じで指スマ部はシャトルバスに揺られながら狐山高校を目指したのだった。
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