狙われた遥

 十真たちの跡を着いて来ていた人物は爽やか系のイケメンだ。

 髪は茶髪でセンター分け。分かれた左右の前髪がうねりをきかせてウェーブしている。右目の涙袋のあたりにある黒いホクロが存在感は放つ。

 そんな人物が十真たちに一体なんの用なのか?なぜ着いて来ていたのか?


「あんた、学校の校門から着いて来てたよな……」


 鋭い眼光を飛ばすもう一人のイケメン。高身長の王子様系イケメンの空風王人だ。


「えぇえ。学校から?? き、気付かなかった……」


 王人の言葉に誰よりも最速で反応し絶句する十真。


「怖い……」


 と、ぎゅっと十真の腕を掴む遥。女子ではないのに行動が美少女すぎてかわいい美少年だ。瞳は涙が出る寸前で目元は赤くなっていた。

 そんな遥の様子を見て遅れて玲奈も十真の腕を掴む。「きゃー怖い」と、棒読みで言っていたのは気にしないでおこう。本心ではなんともないと思ってる幼気いたいけな美少女なのだ。


 王人の言葉に対して「お見通しか」と、言わんばかりの表情をする謎の人物は自分の正体が何者なのか名乗るために口を開いた。


「僕は、狐山高校2年の真田達也さなだたつや。みんなからはサナタツと呼ばれているよ。明日の練習試合の挨拶を兎島高校の白田先生にしに来たのさー」


 彼は明日の練習試合の相手、狐山高校の2年生だった。指スマ部の顧問である白田先生に挨拶し、そのままデパートまで十真たちについて来たのだ。


「なんでこそこそついて来てたんですか? 偵察ですか?」


 王人は強気な口調で疑問を飛ばした。彼は練習試合の相手。言うならば指スマのライバルだ。ライバルだからと言っても仲良くしたい相手だが質問の返事によっては違って来る。ましてや偵察などでここまでついて来られたら仲良くはできないと王人は考えている。


「偵察? 違う違う。ついて来たのは悪かったと思ってるよ。本当は挨拶をしてすぐに帰ろうとしたさ、ただ……」


 そこで言葉を切り、センターに分かれている前髪をパフォーマンスするかのように優雅にかき分けながら続きを男前な声量で言った。


「そこの男の子に見惚れちゃってさ。気付いたらついて来ちゃってたってわけなのさ」


 彼の視線の先には十真の腕に隠れて小動物のように怯えている遥がいた。その視線を感じ遥は余計に怯え震えた。


「ちょっと待ってよ!!」


 と、1歩歩き、十真と遥の前に出て、もう1歩歩き、王人の前にでた美少女は殺気立ちながらで叫んだ。


「確かに遥くんは可愛いけど、男の子だよ! ここにピチピチの可愛いJKがいるのにっ! なんで私じゃないのよ!! なんで……私に見惚れないのよっ!!」


 と、気持ちをぶちまけたが言ってる途中で自分で自分が可哀想に思い自己憐憫じこれんびんに陥った。気が付いた時には目元が赤くなり泣く寸前だった。否、もうすでに泣いていた。2歩後ろに下がり元の位置に戻り泣きながら十真の腕を掴んだ。玲奈は自爆してしまったのだ。


「僕の願いは1つさ! その子と……ツーショットの自撮りを撮らせてくださーい! できるならデートを! デートをお願いしたいです!!!!」


 練習試合の相手校の1学年上の先輩が目にもとまらぬ速さで土下座をしてた。この土下座は付いてきたことを詫びる謝罪の土下座ではなくお願いをする懇願の土下座だった。


「へ、変態だったー!!!!!!」


 十真は呆れた様子でツッコミを入れた。


「ツ、ツーショットだけなら……」


 と、遥はそれくらいならいいと思い口を開いたがその声をかき消すぐらい大きな声で叫んだ人物が2人いた。


「ダメだ!!」


「ダメよ!!」


 王人と玲奈は遥の声をかき消し真田の用件を完全拒否した。

 王人は謝罪の1つもない事に対して怒り、玲奈は女としての誇りを守るために怒った。

 土下座をする爽やかイケメン系の変態はゆっくりと顔をあげ立ち上がり服についた汚れを叩いた。


「やっぱりダメか……でもこれならどう? 明日の練習試合で僕が勝ったらツーショットを撮ってもらうってのは?」


「な、なに!?」


「それともあれかな?負けるのが怖くて勝負を受けれないかな?」


 これは挑発だ。真田は再び前髪を優雅にかき分けて何かを企んでいるかのような表情をした。


「「望むところだ!!」」


 真田はニヤリと笑った。挑発に乗った王人と玲奈は息ぴったりに応じた。王人は凛と立ち男らしい態度で、玲奈は拳を前に突き出し男勝りな態度を取った。


(どうしよう……ボクのせいで……)


 挑発に乗った二人と挑発してきた爽やかイケメン系の変態を遥は不安気な表情をしていた。


「勝負を受けるって事でいいんだね!それじゃ明日の練習試合を楽しみにしてるよ……バイバイ、ハ~ルちゃん」


 本来の爽やかでイケメンらしい笑顔を作り、遥に手を振りその場を去ろうと背中を向けた。遥は、さらに十真の後ろに隠れた。


「あっ、言い忘れてたけど去年僕に負けたトサカくんでも勝負を受けてあげるよ。あのトサカくんは弱かったなー、望み通りにはいかなかったけど結蘭さんにいい事してもらえたし、今年は遥ちゃんとのツーショット楽しみだな~」


 それだけを言い残し後ろ向きで手のひらを振り、この場を去った。


「トサカって……亜蘭先輩のことかな……亜蘭先輩が弱いって……」


 十真はトサカを亜蘭の金髪のモヒカンだとすぐに理解した。そして亜蘭は弱かったの発言に対して衝撃を受けていた。それほど真田達也と言う人物は強いという事になる。1年のメンバーじゃ太刀打ちできないほど強敵だ。


「み、みんな……ごめん……ボ、ボクのせいで……こんな事に……」


 謝る遥に対して王人が口を開く。


「お前のせいじゃないだよ。さっきのあいつが全部悪い。俺様はあいつの態度が気にくわねぇ」


 拳を握り必死に怒りを堪える王人。この怒りを明日の練習試合でぶつけるため、力を抜いて拳を緩めた。


「なんなの! 結蘭先輩にも手出してて常習犯じゃん! なんで私には何もして来ないのよっ! そんなに私って魅力感じない? くーむかつく! むかつくー!」


 怒りと悔しさが交わり、まだ購入していないタオルを噛みながら地団駄を踏み出す玲奈。

 玲奈は地団駄を踏むすの姿も可愛いくらいの美少女だ。オレンジ色のショートヘアーで幼い顔立ち、太陽のように明るく元気な女の子で魅力を感じないはずがない。ただ、真田の好みに合わなかっただけなのだ。


「十真! 明日の練習試合絶対に負けられないぞ。あいつを倒して俺様の靴を舐めてもらう。それで許してやる」


 靴を舐める真田の姿を脳裏で思い描き、整った顔立ちから一気に悪人面になり「フッフッフッハッ……」と、笑いだしタオルを振り回す王人。もうこの姿はどっちが悪なのかわからない。


「蝶のように舞い蜂のように刺すっ!私の前で跪かせてやる!」


 黒いオーラを体中から放出し王人以上に悪人面になっているのは玲奈だ。


「うっ……ツーショットぐらい……大丈夫だから……」


「絶対にダメだ。遥が良くても俺様が許さない!」


「ツーショットなんて撮らせないっ! あいつの泣きっ面をこのスマホで撮ってやるわ! うふっ。楽しみ」


 二人を落ち着かせようと声をかけた遥だったが火に油を注いでしまっただけだった。燃えている二人はもう誰も止められない。


「えーっと、とりあえず……タオル買おうか……」


 十真は他のお客さんの迷惑にならないように燃えている二人に優しい口調で言った。その言葉で目が覚めたのか「あっ」という情けない声を出した王人と玲奈。

 そのまま1年組は静かにレジへと向かったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る