お揃いのタオル

 狐山高校との練習試合前日。今日は土曜日で学校は休みだが部活動はある。

 指スマ部の活動は練習試合前日ということもあって午前中のみになった。

午後からは明日の練習試合に備えて体をゆっくりと休ませるということになった。


「「「お疲れ様でした!!」」」


 部活動が終わり玲奈は細く可愛い指で軽くつんつんっと十真の右腕を突っついた。

そのままジャージの袖を軽くつまみ十真を引っ張り自分の方へ引き寄せる。


「ねーねー、十真くん。明日の買い物したいんだけど一緒について来てくれる? ちょっとだけだからお願いっ!」


「今から帰っても何もやることないし……ちょっとだけならいいよ。僕もスポーツドリンクとかいろいろ買おうと思ってたし」


「やったー!! 制服に着替えてこのまま行こうっ!」


 ウサギのようにぴょんぴょんと嬉しそうに飛び跳ねる玲奈。ただの買い物だけなのに尋常じゃない喜び方をしている玲奈を不審がる十真。


「玲奈は、何買うの?」


「えーっと、十真くんとお揃いのタオル!」


 恋する乙女のように頬を赤らめ、ぷるんとした唇を震わせた。その瞳は真っ直ぐに十真の瞳を捉えていた。まるで獲物を狙う野生動物のように。玲奈の場合は十真のハートを狙うハンターだ。


「あー、タオルも必要だよね、絶対疲れて汗かくだろうし。僕も新しいの買おうかな……って今なんて??」


「ん? タオルだよ、タオル」


「いやいや……タオルは聞き取れたんだけど、タオルの前になんか言ってなかった?」


「あー、十真くんとお揃い、だよ!」


「お揃い!? お揃いって、あのお揃い?」


 聞き慣れない単語が耳に入り困惑する十真。男女でお揃いというのは恋人同士でするものだ、という微々たる知識が脳裏に過ぎったが、部活動の仲間同士はどうだ?と未知の領域に頭を悩ませた。男女の友情などを知らない十真には、もちろん答えは出なかった。


「お揃いはお揃いだよっ! 早く着替えて行こう!」


「じゃ、じゃ、せっかくだから1年全員で行こうよ! みんなでお揃いとかなんかかっこいいと思うんだ!」


「えっ……う、うん、そうだね……」


 急にテンションが低くなった玲奈。十真とお揃いの十真の部分がいつの間にか消滅していてげんなりとしていた。十真に好意を寄せる玲奈は二人きりのデートを期待していたのだった。


「それじゃ二人に言ってくるから校門で待ち合わせで」


「あ、うん、待ってるね……」


 恋愛経験が全くない十真を振り向かせるのは玲奈にとって簡単そうに見えて実は難易度が高かったりするのだ。とぼとぼと歩き多目的ホールを出ようとした背中をポンと叩かれた。叩いたのは笑いを堪えている結蘭だった。


「ぷふっ、十真全然気付いてないな……焦らず頑張れ~、ふふっ」


 笑いを堪え切れていなかったが優しく声をかけている結蘭。そんな結蘭は世の男性を魅了する妖艶な大人の魅力の持ち主だ。豊満な胸と綺麗で長い金髪、さらにぷるんとした唇、健康的な褐色の肌。どれも玲奈にはない魅力で羨ましいと感じていた。そのまま豊満な胸に顔を埋めた。


「結蘭先輩のこれはなんなんですか。どうしたらこうなるんですか」


 瞳を潤わせ顔を赤くしながら結蘭の胸にぐりぐりと顔を左右に揺らす。そんな玲奈の姿を見て結蘭はオレンジ色の煌びやかな髪をそっと赤いマニキュアが塗られた細い指で撫でた。


「玲奈には玲奈の魅力があるから落ち込まないで~きっと十真も気づいてくれるはずだから……ねっ」


「なんか元気でました! 先輩の……すごいですっ! ありがとうございますっ」


 スッと胸から離れ胸を凝視しながら感謝の言葉を告げた。そのまま元気よく廊下を走り去った。

 その姿を見て結蘭は「ふふっ」と笑った。


「その元気さが可愛いんじゃないの~」


 結蘭は走り去る向日葵のように元気な美少女を見て安心したような表情を浮かべ歩き出した。



 その間に十真は同じ1年の王人と遥に話をつけていて3人で一緒に先に行ってしまった玲奈が待つ校門へと向かった。


「みんなで……お揃い……いいね……」


 ジャージの袖を伸ばし指を少しだけ出している美少年の遥が嬉しそうにボソッと呟いた。遥も十真と同じく友人とお揃いで物を揃えたことがなかったのだ。なので明日の練習試合に対する緊張を一瞬で吹っ飛ばし胸を躍らせていた。


「お待たせ。行こうか」


 校門の前の木製のベンチに腰をかけて待っている玲奈に向かって十真が声をかけた。ジャージ姿から制服へと変わっている。ジャージ姿もかわいいが制服姿もかわいい美少女の玲奈が十真の声を聞き心弾ませながら立ち上がった。

 視線の先に十真を捉えたがその後ろには二人の同級生がいる。


「本当に連れて来た……」


 と、弾んでいた心が急降下し弾まないただの塊と化した。


(ま、いっか。結蘭先輩も焦るなって言ってたしっ!1年の親睦を深めるか)


「遅いぞっ! レディーを待たせるなんて男の子失格だよっ!」


 いつもの調子に戻り人差し指で十真を指しながら頬を膨らませ言った。


「男失格だったら僕たち何になるんだよ!!」


「いやいや」と手を横に振りながらツッコミを返す十真。


 そんなやりとりをしながら学校の校門で1年組は合流した。

 そのまま自転車を押しながら歩いて地元で一番大きいデパートへと向かった。

そのデパートは大きなピンク色の看板で田舎特有の雄大な敷地を使った2階建ての建物だ。

 後ろから跡をつけて来る人物にも気付かずに十真たちはデパートの中へと入っていった。


「私が買いたかったのはこーれー!!! ウサちゃんっ!!」


 デパートに着いてすぐに目的の商品を見つけた玲奈。白く細いラブリーな指で商品を差している。

 十真に話していた通りその商品はスポーツタオルだ。しかも今大人気のウサギのキャラクターがプリントされている。


「ねーねー、この子、親指立ててて指スマ部にピッタリじゃない?兎島高校だしさ」


 ウサギのキャラクターを見てみると親指を立ててサムズアップしている。他のデザインは飛び跳ねていたり人参をかじっていたりバラバラだ。このスポーツタオルだけ偶然にもサムズアップ しているのだった。

 そして種類は全部で4種類。ウサギのキャラクターの色が『赤』、『青』、『黄色』、『ピンク』になっている。


「ボク……こういうの初めてだから嬉しい……ありがと……吉澤さん……」


 遥はもじもじと恥ずかしがりながらピンク色のウサギのタオルを手に取り「わー」と満面の笑みを浮かべ瞳をキラキラ輝かせている。ピンク色を選ぶところが遥の性格を表している。女の子以上に女の子のような美少年だ。


「吉澤さんって……玲奈でいいよ、呼び辛かったら玲奈さんとか玲奈ちゃんだねっ!私は黄色っ!」


「じゃあ……玲奈ちゃん……ありがと」


 遥の喜ぶ姿に心を溶かし優しく言葉をかける玲奈。その玲奈は自分のオレンジ色の髪色に近い黄色を選んだ。本来、唯一の女子である玲奈はピンクを選びたかったが遥に譲った。否、遥の喜ぶ姿を見たら譲るしかなかったのだ。


「えーっと王人くんはどっちにする? 赤と青……空風だから青がいいんじゃないかな?」


「そうだな、俺様は青にするか。それで残った赤は十真にイメージない色だな。白とか黒だったらよかったのにな」


「そうだね。3人はピッタリな色って言うか、イメージカラーって感じだから僕は赤でいいよ……」


 苗字の空風が青いイメージということから青を勧める十真。残された赤色を選んでこれで1年のお揃いタオル計画は完了したのだが王人には何か引っかかることがある。


「それで、4種類しかないけどお前はどうするんだ?」


 突然、王人が大きな声で誰かに声を飛ばした。ずっと付けていたことに気付いていて声をかけるタイミングを伺っていたのだ。

 その姿から目の前にいる人物ではなく後ろにいる人物に向かって声を飛ばしているのがわかる。


「ちょっとちょっと、デパートでそんな大きい声出したらダメだって……」


 なぜか先ほどまで話していた話し声よりも小さな声で焦りながら注意する十真。


「俺様のファンでもないだろうし……誰だ?」


「いやいやーバレたかー上手く隠れていたつもりだったんだけどねー」


 と、十真たちの後ろにある4つ目の商品棚から王人が声を飛ばした謎の人物が正体を現した。

 その人物は先生でも先輩でも友達でも家族でもない。


「ぇえええええ!!! 誰だァアアアアア!!!!」


 と、驚きながら誰よりも大きな声で叫んだ十真だった。



 王人が見つけた謎の人物は一体何者なのだろうか。

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