兎島高校指スマ部
「ここは……って……なんだこの臭いは……」
十真は鼻を刺すような強烈な臭いに襲われ意識が覚醒する。
美少女玲奈との指スマ対決のあと十真は意識を失っていたのだ。
「酒の臭い……それに布団……ということは……」
十真は状況を理解し飛び起きた。
「おっやっと起きたか」
「王人くん……」
目の前には高身長の王子様系イケメンの空風王人が座っていた。
「遥が十真のこと心配して岩井先輩と様子を見に行ったんだ。そんで戻ってきたと思ったらお前とそこの女を岩井先輩が一人で担いでたってわけだ」
目覚めたばかりの十真にここまで運ばれた経緯を流暢に話す王人。
そして王人は「そこの女」の発言と同時に指を差していた。
指の差された先を辿って見てみると「そこの女」と呼ばれていた人物にぶち当たる。
その人物はオレンジ色のショートヘアーでブルーサファイアの瞳を持つ美少女、吉澤玲奈だった。
玲奈は座りながらこれまた妖艶な大人の魅力を放つ金髪ロングの美女、花澤結蘭と話をしていた。
そして視線と視線が交わり美少女がこちらに向かって耳心地の良い声を発する。
「十真くんっ!! やっと起きたんだ! おーい! おーい!」
玲奈は何事もなかったかのように満面の笑みで手を振っていた。
激闘のあととは思えないほど元気溌剌げんきはつらつとしていた。
十真は呆気にとられながらも振られた手に返事をするように手を振り返した。
「白田先生は?」
十真が寝ていた布団は酒のキツい臭いがしていたことから、この布団は指スマ部顧問の白田一輝のものだとわかる。
布団で寝ていない先生のことが気になり布団をたたみながら王人に先生のことを聞く。
「あぁ先生なら布団で寝れなくて拗ねてたぞ。そんで今は酔いが覚めたみたいでそこで漫画を読んでる……」
王人は漫画を読んでいる先生を親指で「あっちだ」と指した。
そこには漫画を読みながら滝のように涙を流す先生の姿があった。
先生が読んでいたのはラブコメ漫画だった。
主人公とヒロインの名シーンで感動して涙を流していたのだろう。
本当に部活の顧問なのか疑うほど鼻をすすり大号泣。
そんな先生の姿を見て「あはは……」と呆れ笑いを溢す十真だった。
「そんで今はクールダウン中だ。今日の部活は終わり」
「えぇえ……僕そんなに寝てたのか……なんか申し訳ない気分だ……」
十真は王人が座っているだけだと思っていた。
よく見てみると座って膝をまげて太もものストレッチをしていたのだ。
改めて指スマ部の部員を見る十真は再び呆気にとられた。
「あれって……遥くんだよね……なんか言ってる……」
「あぁ、岩井先輩の筋トレが辛すぎてああなった」
遥は死んだ魚のようにクールダウン中の勇の前で倒れていた。
その姿から遥にとってどれほど過酷な筋トレだったのか物語っていた。
そんな遥は白目を向きながら「マッチョ~マッチョ~マッチョ~♪」とマッチョの歌を呪われた操り人形のように口ずさんでいた。
「よし、みんなそろそろいいな」
キャプテンの圭二が頃合いを見てクールダウンを終わらせた。
そして「集合!!」の合図でラブコメ漫画を読んでいた顧問の白田先生に集合した。
目覚めた十真も重たい体を引きずりながらゆっくりと先生のもとへ向かった。
なぜか部員ではない美少女の玲奈も集合に応じて集まっている。
「気をつけ! お願いします!!」
「「「お願いします!!」」」
キャプテンの掛け声に合わせて指スマ部の部員は声を揃える。
そして全員の視線の先にいる白髪頭でうっすら髭を生やした顧問は口を開いた。
「うっ……うぅ……今日も……お疲れ……あうっ……つ……」
先生に集合をかけたタイミングが悪かった。
ラブコメ漫画の感傷に浸りながら泣いていたので全然話になっていなかった。
先生は涙を乱暴に拭い鼻をかんでから改めて部員に向きあった。
「これで今年の兎島高校指スマ部の部員8人全員が揃ったってわけだ。みんな仲良くやれよ~じゃあ解散っ。お疲れっ~」
直前まで泣いていたのでかっすかすのかすれた鼻声で顧問の締めの挨拶を終わらせた。
「ありがとうございました!!」
「「「ありがとうございました」」」
部員全員が頭を下げて先生に敬意を払い本日の指スマ部の活動を終わらせたのだった。
先生の話に引っかかる点があり頭を傾げながら指を使って数える姿の十真がいた。
「えーっと8人? 8人って言ってたけど……」
右手の人差し指を立てて1人目、キャプテンの親野圭二。
右手の中指を立てて2人目、筋肉男の岩井勇。
右手の薬指を立てて3人目、セクシーギャルな花澤結蘭。
右手の小指を立てて4人目、金髪モヒカンヤンキーの花澤亜蘭。
右手の親指を立てて5人目、王子様系イケメンの空風王人。
左手の人差し指を立てて6人目、小柄で可愛い美少年の夢野遥。
「それで7人目はもちろん僕……あっ……8人って先生を含めて8人か!」
十真は謎が解けスッキリした表情で数えた指を自然に戻した。
そんな十真の言葉を聞いていた美少女が十真の目の前に現れて訂正を入れた。
顔と顔の距離は息がかかりそうなほど近く美少女を目の前にした十真は顔を赤くして驚き1歩後ろに下がった。
「部員って言ってたでしょ……8人目は私だよっ! 十真くんこれからよろしくねっ!」
先生が言っていた8人目は吉澤玲奈だった。
サムズアップ、ウインクそして天使のような満面の笑みを十真に飛ばした。
その姿は誰もが見惚れてしまうほどの可愛さだ。
もちろん十真も見惚れてしまった。
先ほどよりも顔を採れたて新鮮のトマトのように赤くした。
すぐに我に返り8人目の部員に震えた声で話しかけた。
「えーっとよしざ……」
「玲奈でいいよっ!!」
苗字で呼ぼうとした十真の声を元気いっぱいの声がかき消した。
「じゃあ玲奈……」
「うん! それでよろしい!」
名前で呼ばれてご機嫌な様子の玲奈。
「も……もう……復讐とかしないよね……僕に復讐するために入部したんじゃないよね……」
「しない、しないよ! でも私に勝った十真くんに興味があるのは本音かな~」
「うぅ……やっぱりまだ復讐するんだ……僕を叩きのめすまで……うぅう」
玲奈に完膚無きまでにやられ、駆除されたドブネズミのようになっている自分の姿を想像してしまい十真は恐怖で涙を浮かべた。
「なんで泣いてるのよ……ふふっ……まっいいや。また明日ねっ! 十真くんっ!」
「うん! また明日!」
笑顔で多目的ホールを出て行くオレンジ色のショートヘアーの美少女を手を振りながら見届けて十真も帰るために1歩前に歩き出した。
その1歩と同時に十真の後ろから腕を首元に乱暴に絡んできた人物が「やるじゃねェか」と言って体重を預けた。
その人物は金髪モヒカンの亜蘭だ。
「うぅ……苦しい……」
「おう、悪りィ悪りィ」
まだ体力を回復し切れていない十真に気を使い離れる亜蘭。
乱暴に絡んできた人物とは思えないほど優しく離れた。
「ありァ十真にぞっこんだぞォ……」
「また気絶させられるような勝負は……困りますよ……もう玲奈とは戦いたくないです……体がもたない……」
自分に好意を寄せているという事に自体に気付いておらず、意味を履き違えて答えた十真だった。
「あの女が言ってたが、十真オメェ……俺の『ケンカスタイル』使ったんだってなァ?」
眉間にシワを寄せた厳つい顔付きが下を向き顔を曇らせていた。
「あっはい! 使いました!」
(あれ? 人のスタイルとか真似しちゃダメだったのかな……もしかして怒られる? なんかいつもと表情違うし……怖っ!! よく見ると怖いわ……いや、よく見なくても怖いけど!!!)とネガティブ思考に走り不安に思う十真だった。
「ど……どうだった??」
「へ?」
想像していなかった言葉が飛んできたことに驚きアホみたいな声を出した。
「だからオレの『ケンカスタイル』を使った感想を聞いてんだよォ!」
照れ隠しをしているのだろうが厳つい顔付きが照れ隠しをなんともいえない表情へと変えていた。
「あの……力がドバーーーって出る感じがして、それでズズズって親指に力が入って、ドドドーンって感じに動かせました!」
「うん。うん。そうだろォそうだろォ」
擬音が多く普通なら伝わらないはずの説明だが、どうやら『ケンカスタイル』の使用者の亜蘭には十真のヘタクソな説明は伝わったらしい。
「わかる。わかるぞ」と亜蘭は腕を組みながら首を縦に振っていた。
「あっそうだ……!!」
十真は大事なことを思い出した。
「勇先輩!!」
十真は倒れている自分を運んでくれた勇に礼を言おうと駆け寄った。
その勇はマッチョポーズをしながら帰り支度をしていた。
「あの勇先輩……ここまで運んでくれてありがとうございました」
十真は深々と頭を下げて感謝を告げた。
「また倒れたら運んでやる。だから全力で戦えよ」
頭を下げている十真に向けてサイドチェストをした。
十真は床に映っている勇の影を見て (あっ……絶対マッチョポーズしてる)と確信した。
十真が頭を上げるまで勇の影は動かない。
どうやら筋肉を見てほしいらしい。
十真はゆっくりと頭をあげた。
生きているかのようにピクピクと動く筋肉と目が合った。
十真が顔をあげた事によって再び帰り支度を再開する勇。
そして十真はもう一人感謝するべき人物と顔を合わせた。
その人物は顔を赤くし照れた様子で目線を逸らす。
「遥くんもありがとう……勇先輩を呼んでくれて」
「ううん。心配だったから……もしもの事があったらと思って……岩井先輩を呼んで良かった……ボク一人じゃ運べないから……」
「ナイス判断!ありがとう!」
「う、うん!」
声を弾ませ返事をした遥の表情は大好物のお菓子を貰い喜びが溢れ出る無邪気な子供のようだった。
「おいおい十真、俺にも感謝しろよ~」
白髪頭の先生が感謝の言葉を求め十真の方へ歩いた。
「あっ……布団さんありがとうございました」
十真は白髪頭の先生の奥にあるたたまれた布団に向かって深々とお辞儀をした。
気絶しているときに暖かく包んでくれていた事を十真は忘れない。
(酒臭かったけど……)と付け足しておこう。
「俺も! 布団さん! いつもありがとう! 明日もよろしく~」
感謝の言葉を求めていた事を忘れ、先生も十真の横に並び愛用の布団に向かって深々とお辞儀した。
そんな姿を見ていた指スマ部の部員は自然に笑顔になった。
このアットホームで楽しく居心地が良い空間が『兎島高校指スマ部』なのだと十真は思った。
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