新入部員

 指スマ部に入部した、指原十真、空風王人、夢野遥の1年3人は部活が始まる前に2年の金髪モヒカンヤンキーこと花澤亜蘭から洗礼という名の歓迎を受けていた。


「十真、親指は治ったみたいで良かったぜェ」


「結蘭先輩の治療のおかげです」


「オレのねーちゃんはすげーんだぜ。感謝しろよな!」


 亜蘭は十真が指スマ部に入部した事を喜んでいた。

 亜蘭は「このこの~」と十真のお腹をぐりぐりして喜びを表現していた。


「そんで、オメェが十真と指スマ対決したやつか……」


「はい! 俺様は空風王人そらかぜきみとと言います。よろしくお願いします」


「オレよりも身長が高えのとイケメンなのは気に食わないが、十真と指スマ対決をしたその度胸は気に入ったぜェ……王人……期待してっぞォ!」


「ありがとうございます!」


 亜蘭は王人の背中を軽く叩き激励した。


「そして最後の一人だが……」

 亜蘭は1年最後の一人夢野遥を見て言葉を止めた。

 そして亜蘭は十真を手で呼び耳打ちをした。


「アイツ……かわいすぎるだろ……男だよな……男だよな……」


「そうですよ……学ラン着てるじゃないですか……男ですよ……」


「だよな……」


 耳打ちが終わり再び亜蘭は遥の方へと向き直し質問をした。


「オメェは何のために指スマ部に入りてぇんだ?」


「つ……強く……な……なりたいからです!」


 亜蘭に威圧に怯みながらも遥は必死に答えた。

 遥は手を思いっきり握りしめていて頑張って答えたんだと一目でわかった。

 遥の瞳は涙が溜まり潤んでいた。


「そうか……オメェの誠意は伝わったぜェ……絶対に強くなれっから頑張れよ!」


「は、はい! 先輩!!」

 亜蘭の言葉に喜び元気いっぱいに返事をする遥。

 その遥の潤んでいた瞳はいつの間にかキラキラ輝いていた。


「おい……十真……もう一回いいか?」

 亜蘭は再び十真を呼び耳打ちをする。


「男なんだよな……」


「だから男だって言ってるじゃないですか……」


「可愛すぎる……俺は何かに目覚めそうだ……これは恋??」


「ダメです! 絶対ダメです! 正気に戻ってください! 亜蘭先輩のキャラが渋滞します! これ以上個性を増やしたら収拾つかなくなります! 理性を! 理性を取り戻してください!」


「この胸の高鳴りはどうしたらいいんだよ……」


「気のせいですって! 深呼吸してください! 深呼吸!」


 深呼吸をする亜蘭。

 それに一緒に合わせて十真も深呼吸をし始めた。


 その光景を見て王人は「何やってんだあいつらは……」と呆れた顔をして小さく呟いた。

 遥はクスクスと可愛く笑いながら亜蘭と十真の深呼吸を見ていた。


 そんな時、多目的ホールの入り口から声がした。

 入って来たのは指スマ部の3年の3人だ。


「おっ! 早速、新入部員がいるじゃないか! うんうん! 今年は豊作だ」

 先頭を歩くのはキャプテンの親野圭二。


 その後ろを歩くのは亜蘭の姉の花澤結蘭だ。

「あら~可愛い子もいるじゃない」


 その言葉に亜蘭が反応した。

「ねーちゃんもそう思うだろ!!!」


「可愛い男の子は好きよ~❤︎」


 さすが姉弟だ。

 趣味が合うというか好みが一緒らしい。


 そして最後に一番後ろを歩くのは大柄でマッチョの岩井勇だ。

 様々なマッチョポーズをしながら歩いている。



 3年生3人が登場して指スマ部全員が揃った。


「俺はキャプテンの親野圭二だ」


「アタシは花澤結蘭よ。よろしくね~」

 結蘭は遥に向かって微笑みながら手を振った。


「俺は岩井勇」

 勇はサイドチェストをしながら自己紹介を済ませた。


「さて、指スマ部に入部してくれてありがとう。おかげで今年も大会に出れるよ」


「大会??」

 1年3人は揃って首を傾げて頭にハテナを浮かべた。


「部活なんだから大会があんだろ。遊びじゃねんだぞ」

 ハテナを浮かべる1年に亜蘭がツッコんだ。


 そのツッコミを見てキャプテンの圭二は話を進めた。


「亜蘭の言う通り指スマ部も他の部活同様に大会がある。しかし公式大会はインターハイのみ!!」


「「「インターハイ!!!!」」」

 1年3人が驚いたように1秒もズレずに口を揃えていった。


「しかも予選はない!」


「「「予選なし!!!!」」」

 1年3人は予選がないことにも驚き先ほどと同様に1秒のズレもなく口を揃えていった。


「えーっとインターハイって全国大会ですよね。予選がないってそれって……」

 おどおどしながら十真は何かに気付いたかのように口を開いた。


「全国大会出場の切符はもう俺たちの手の中にある!! 目指せ! 五本指! いや優勝だ!!!」

 十真の考えていることを先読みした圭二は腕を組み闘志を燃やしていた。



「「「おぉおお……」」」

 燃えている圭二を見てあまりの迫力に拍手が止まらない1年3人だった。



「ちょっといいですか?その五本指ってのは?」


「えーっと王人だよな。いい質問だ。この際だからインターハイについて教えてやろう」

 王人の質問から圭二はインターハイについて説明し始めた。




 インターハイとは全国高等学校総合体育大会のこと。

 インハイや全国大会などと略して言う人がほとんどだ。

 指スマ部は10月にインターハイが開催される。


 指スマ部は全国で8校しかない。

 その8校全てが集まりインターハイを行う。


 インターハイに出場するためには部員が5人必要となる。


 5つのブロックに各チーム1人ずつが選出されトーナメント戦を行いそのブロックの中で一番を競い合う。

 5つのブロックは『親指』『人差し指』『中指』『薬指』『小指』という指にちなんだ名称で分かれている。

 圭二が言っていた五本指とはこの事でブロックを勝ち抜いた5名のことを指す。

 その5名が2日目の決勝大会に進出することができるのだ。


 決勝大会では五本指になった5名で総当たり戦となる。

 この総当たりでは同じ高校の選手が五本指に入っていれば戦うこととなる。

 そして一番勝率が良かった選手が所属する高校の優勝となるのだ。

 五本指に同じ高校の選手がいればいるほど優勝の確率が上がる。



「なるほど……全然知らなかった……インターハイか……」

 インターハイの説明を受けて十真はインターハイの凄さに驚きを隠せないでいた。


「ちょっと待ってくださいよ!5人ってことはこの中の誰かが出場できないってことですよね!」

 王人の言う通り兎島高校の指スマ部は7人いる。

 この中で2人は今年のインターハイに出れないということになる。


「王人。いい質問だ。インターハイに出場するメンバーは8月の合宿で決める! 選出方法は合宿の時に詳しく話す」


「「「合宿!!」」」

 圭二の言葉に反応する1年3人。


「指スマ部も合宿ってあるんですね……なんかもう普通の部活だと思ってもいいのかも……」

 普通の部活動とさほど変わらない指スマ部。

 そんな指スマ部に少しづつ慣れて来ている十真だった。


「俺たち指スマ部は全国大会優勝を目指す!! それが目標だ!!」


「「「はい!!!」」」


 圭二の気合の入った声に1年だけではなくその場にいる圭二以外の部員が口を揃えて返事をした。

 すでに息の揃った返事に十真は心地よさすら感じた。



(これが部活動。これが青春。これが指スマ部!)

 少し口元が緩みニヤけながら期待に胸を膨らませる十真だった。

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