入部届
十真が振り向いた先にいたのはクラスメイトの一人だった。
学ランを着ていなかったら女子だと勘違いしてしまうくらいの美少年だ。
低身長で肩にかかりそうなくらいの髪が、より一層女子だと勘違いさせてしまう。
一言で表すと小動物系男子だ。
(ヤンキー、イケメンと来て今度は美少年か……)
「どうしたんだ? えーっと……名前まだ覚えてなくて……僕になんか用かな?」
「あ……あの……ボクは
中性的な名前もまた勘違いの原因になりそうだ。
そして体をもじもじし顔を赤くしながら話す姿も女の子のように見えてしまう。
「ちっちーのって何だっけ? 何かのギャグ??」
「えーっと……ボクの地元だと指スマの事をちっちーのって言うんだ。それで癖で言っちゃったの……ごめん……」
(なんか謝られたー、何だろうこの気持ち、僕が虐めてるみたいじゃないか……)
涙目になっている遥はるを見て十真は何とも言えない気持ちに襲われてしまっている。
「は、話に戻るけど……どうして呼び止めたの??」
十真はどうしていいか分からなくなり本題に戻ろうとする。
「えっとね……ボク強くなりたい……喧嘩とかじゃなくて……さっきの十真くんみたいに強くなりたい……」
「強くって……指スマで??」
「うん。ボクいじめられっ子だから……」
(なるほど……何となく理解した。でも指スマで強くって……憧れ方間違ってると思うんだけど……でも気持ちはわからんでもない。ここは手を差し伸べるのが一番いい。僕だったら手を差し伸べてもらいたい……)
十真は瞳を輝かせる美少年を見てそう思った。
遥の瞳は涙と希望で輝いている。
「あんまり、その……同情とかはよくないと思うけど……僕も虐められた経験はあるからさ……何となくわかるよ。でも指スマでいいの? 空手とか運動系の部活のほうが強いってイメージがあるけど……」
「うん。指スマがいい……強くてかっこよかった……」
遥は指スマで王人を倒した十真に憧れているのだ。
憧れ以上の気持ちも芽生えてきている。
(かっこよかったか……僕も指スマ部の先輩たちを見て同じ気持ちになってたな。何だろう指スマって……こんなにかっこいいものだったなんて知らなかったよ……)
遥の「かっこいい」と言う言葉に反応し昨日の部活動体験の事を思い出す十真。
「すごい見た目が怖い先輩とマッチョの先輩がいるけど平気?」
(あっ勇先輩は優しいか……)とマッチョに対する偏見な発言を心の中で反省した。
亜蘭の見た目が怖いことは間違い無いので訂正も反省もしない。
「うん。十真くんと一緒なら……へっちゃら……」
遥は自分の胸の前で小さくガッツポーズを取った。
男なのに動きと行動がいちいち可愛い。
「じゃあ一緒に先生のところに入部届け出しに行こうか!」
十真は笑顔でサムズアップしながら言った。
その姿にきゅんとし、ときめいた遥だった。
教室を出てすぐに十真を呼び止める声が廊下に響き渡った。
「おい……待て!!」
「今度は何だよ……って王人くん!!!」
目の前にいたのは先ほど十真との指スマ対決に敗北した空風王人だ。
十真は前髪の隙間から王人の瞳をじっと見て目を合わせている。
次の瞬間、王人は頭を下げた。
(ぇええええ!! 何事!!)と十真心の中で叫んだ。
「さっきのことは許してくれ……お前の実力もよくわかった……だから俺様は決めた。お前と同じ指スマ部に入りたい……お前に勝ちたい」
「ちょっとちょっと頭を上げてよ……どの部活に入るかは自分で決めることだし……指スマ部にはいるのに僕の許可は要らないと思うんだけど……」
「本当か? お前は俺様が入るのは嫌じゃ無いのか?」
(意外と繊細なのか?)と驚きながら頭を上げた王人と再び目を合わせる十真。
「嫌じゃ無いよ……あとお前じゃなくて指原十真だよ」
十真は王人に向かって手を伸ばした。
その手は和解を求める手だ。
王人は十真の手を取り握手をした。
「これからよろしく王人くん。指スマならいつでも相手になるよ……」
「十真……あぁ……よろしく!!!」
1年A組の前の廊下で友情が芽生える瞬間だった。
その瞬間を目をキラキラ輝かせながら遥は見ていた。
「そこのちんちくりんは誰だ??」
王人は十真の後ろに隠れている遥を見て声をかけた。
「ちんちくりん……」
遥の瞳は涙の輝きに一瞬で変わった。
十真の背中に半分隠れていた体を今度は全身が見えなくなるように隠れた。
そこからひょっこり顔を出して瞳を潤わせながら
「ボクは夢野遥。ボクも指スマ部に入る」と言った。
「そうか……てっきり弟でも連れて来てんのかと思ったぜ!」
「いやいや学ラン着てるじゃん! しかも顔も全然違うし! 美少年と一般人! どう見ても弟じゃ無いでしょ!」
十真は王人にツッコミを入れた。
ツッコミを入れたときに十真は気付いてしまった。
(目の前には高身長で顔が整っているイケメン。後ろには低身長で可愛い美少年。あれ……? 僕だけ普通じゃないか……普通すぎやしないか……この二人と一緒にいると普通以下に見られるんじゃないか……オーカミサマ……ドウシテ……ドウシテ……)
十真は涙を流しながらそう思った。
「何で泣いてるんだ?」
「この涙は……哀れな僕に対する涙だ……気にしないでくれ……」
神様を恨んでも仕方がないのでただただ自分の哀れさに涙する十真だった。
「職員室……行こうか……」
涙を拭い十真は歩き出した。
その横を王人が一緒に歩く
その後ろを遥がぴったり着いて行く。
職員室に向かうまでの廊下では「どこ中だった?」「部活何やってた?」など何気ない会話が続いた。
こうして1年生3人、指原十真、空風王人、夢野遥は入部届けを提出し明日から指スマ部の部員になることになった。
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