横暴キング
部活動体験から翌日のこと。
クラスの
その紙は部活動の入部届の紙だ。
十真は右手でシャーペンをくるくると回している。
昨日の部活動体験で指スマ部のキャプテンの圭二と指スマ対決をした時に戻らなくなった親指は左手の親指だ。
なので学校生活は多少なりと支障はあるものの利き手が右手なのでシャーペンを持ったり箸を持ったり不便はない。
十真は『指スマ部』に入部するかどうかを真剣に悩んでいた。
(指スマは楽しかった……楽しかったけど……恥ずかしいな……指スマ部って何?って絶対聞かれるだろうし……クラスで虐めにあっちゃうかも……どうしよう……本当に指スマ部でいいのか?そもそも僕は部活をやるつもりなんて一切なかった……部活はキラキラしてる人たちのやる活動であって僕みたいなのがやっていいのだろうか……どうしよう……)
悩む十真はなかなか筆が進まない。
シャーペンを持っていた手はいつの間にかシャーペンを置いていて目を隠すほど長い前髪をくるくると弄っていた。
「おい、そこのお前……」
背後から十真に向かって声がかかる。
(ん? なんか呼ばれてる気がするけど……気のせいだろ……僕を呼ぶ人なんて亜蘭先輩ぐらいだろうし……亜蘭先輩や指スマ部の先輩たちの声ではないのは確かだから……ここで振り向いて僕じゃなかったら恥ずかしすぎる!!! 絶対に振り向かないぞ)
「おい……聞こえてるだろ……おい!」
(あれやっぱり振り向いたほうがいい?? なんか怒ってらっしゃる?? なんかしたかな?)
「おいって言ってんだろォオ!!!」
バンッ!!!!!
背後にいた男は十真の机を思いっきり叩いた。
(ひぃぇえええ、いきなりなんだ)
十真は恐る恐る机を叩いた人物の顔を見た。
(もしかしたら中学の時の友達が悪ふざけでやっているのかもしれない)
そんなふうに思いながら十真ふと自分に突っ込んだ。
(僕友達いねーじゃん)
自分にツッコミを入れたタイミングとほぼ同時に相手の顔を確認。
(アァ……イケメンデスネ……イケメンがボクニナンノゴヨウデ……)
十真は自分の心の中でカタコトで喋っていた。
十真の目の前にいる男は一言で表すとイケメンだ。
顔も整っていて身長も高い。王子様系というものだろうか?
同性の十真でもかっこいいと思ってしまうほどの美青年だ。
イケメンという外見の他には同じクラスの人ではない事がわかる。
先輩なのか別のクラスの同級生なのかわからない。
「えーっと……人違いじゃないでしょうか???」
そんなイケメンに絡まれる覚えは全くない
(昨日もこんなことあったな……)と一瞬、金髪モヒカンヤンキーの亜蘭の顔が浮かんだが忘れようと頭を振る十真。
「お前……指スマ部から勧誘があったやつだな? 入部届ってことは指スマ部に入るんだな?」
(あぁ……普通の高校生活を送りたい……2日連続絡まれるなんて……災難すぎる……)
十真は自分の災難を呪った。
呪ったからと言ってこの状況から逃のがれられない。
イケメンに立ち向かい話を聞かなければならない。
「そうだけど……」
「やっぱりそうか。今から体育館裏に来い。1対1で勝負だ」
(なにその急展開!! 聞いてないんだけど……なにが気に食わないのこのイケメンはっ! 指スマ部とか勧誘がどうたら言ってたけど……何なの!!! そしてまた体育館裏……勘弁してくれよぉ……できればここで話し合いをして穏便に解決したい。うん。そうしよう)
「いやいや……ちょっと待ってよ……勝負ってなに?? ここで話し合いで解決しようよ……僕なにが何だかさっぱりわからないんだけど……」
「お前に拒否権はない!! 今から来い! 体育館裏で待ってるぞ」
その男は大声で怒鳴った。
そのまま教室を飛び出して体育館裏に向かって行った。
男の声は教室に響き渡りクラスメイトは皆、ざわついていた。
当然だろう。
よくわかんない前髪の長いやつが王子様系イケメンに怒鳴られ体育館裏に呼び出されたのだから。
「横暴すぎるって……行くけどさ……」
十真は席から立ち上がりボソッと一言こぼして体育館裏に真っ直ぐ向かった。
体育館裏には亜蘭の時とは違いギャラリーが集まっていた。
それも女子生徒10人だ。
全員、十真を呼び出したイケメンのファンとかなのだろう。
(あぁ……また体育館裏だよ……)
十真は体育館の外壁と立ちションをしようとしていた木を見つめ、ため息を吐いた。
「何で呼び出したか教えてくれる? あと君は誰なんだよ?」
体育館裏でポケットに手を突っ込んで待っていた男に向かって十真が先に口を開いた。
「俺様は
(かっこいい名前!! あと呼び出した理由がしょぼすぎるだろ!!! 指スマ部以外の全ての部から勧誘来てるんだったら十分だろ!!!)と十真は心の中だけでツッコミをした。
「勧誘されたってことはお前強いんだよな?」
(あれ……? この展開どっかで……)
「俺様と勝負しやがれ!! お前に勝って指スマ部の先輩たちに俺様を認めてもらうんだ!」
王人は両手で拳を握り親指が上になるように胸の前で肘を折りたたんだ。
指スマの構えだ。
真剣な表情の王人。
イケメンが指スマの構えをすると間抜けに見えると思っていた。
しかしそれは間違いだった。
イケメンが指スマの構えをするとより一層かっこよく見えるのだ。
ここまでかっこいい指スマの構えを十真は見た事がなかった。
「わかった。勝負する。僕も入部するかどうか迷ってたんだ。この戦いに勝ったら悩まずに入部できると思う。だからこれは自分との戦いでもある!!!」
十真は左手についているテーピングをゆっくりと外す。
結蘭がふざけながらつけたテーピングは病院の先生が付けたかのような完璧な巻き方だった。
そのおかげで十真の親指は完治していたのだ。
1日ぶりに動かす親指の感覚。
十真の親指も指スマをしたくてうずいている。
いつの間にか十真の後ろにもギャラリーが集まっていた。
十真の後ろにいるのはクラスメイトたちだ。
心配して駆けつけてきてくれたのだろう。
テーピングを外し終え軽くストレッチをする十真。
「まずはジャンケンから……」
先行後攻を決めるジャンケン。
勝者が選考となる。
ジャンケンは王人の勝利。
先行はイケメンの王人になった。
「指スマは完全に先行有利!! 神は俺様を応援してくれている!」
(ジャンケン勝っただけでなに言ってるのこの人……頭の中まで王子様なの?)と呆れた顔をする十真。
「ギャラリーも集まってきた。これで勝敗は偽れない。俺様が勝って学校中に噂が流れるだろう!」
「えぇええええ!!! それ僕が負けたら高校生活お先真っ暗じゃんか!!!!」
「それがお前が勧誘された罰だ!!!!!」
「なんて横暴なんだ! 横暴キング!!!」
十真は心の中でツッコむのをやめた。
そして気持ちよくツッコんだあとに指スマの構えをとった。
準備完了の合図だ。
十真と王人の指スマ対決が始まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます