自己紹介
十真は濡れてしまったズボンを履き替えるために自宅に戻っていた。
十真の家は学校から自転車で10分程度の場所にある。
見た目が厳ついヤンキーの先輩、亜蘭先輩を待たせないためにも十真は急いでいた。
「早くしないと……早くしないと……」
片道10分ほどかかるはずが自転車をひたすらに漕いで家から学校まで4分で到着する事に成功。
「ゼェ……ハァ……急げば……4分で行けんのか……ゼェ……」
駐輪場に自転車を乱暴に置いた。
乱れた息を整えるために深呼吸をしてみるが肺は驚きすぎていて言う事を聞かない。
「こんなに……ゼェ……動いたのは……ウゲェ……初めてだ……ハァ……」
自転車を漕いでいる時よりも漕ぎ終わった後が一番辛い。
スポーツ活動をしていなかった十真はクールダウンの仕方を知らないのだ。
「休んでる場合じゃない……ふー……急がなきゃ」
十真は亜蘭が待つ『多目的ホール』に向かうため足を力を入れて踏み出した。
十真が入学した兎島高校はグラウンド、テニスコート、野球場、道場、体育館の他に多目的ホールがある。
多目的ホールは主に卓球部と指スマ部が利用している。
雨の日になるとサッカー部や野球部など外で活動する部活動が一堂に集まり筋トレなどを行うことがある。
そんな多目的ホールの入り口に足をパンパンにさせながらたどり着いた新入生の十真。
「早かったじゃねーか、待ってたぜ十真」
眉間にシワを寄せて厳つい表情で十真を待っていた金髪モヒカンのヤンキー亜蘭。
「怖っ!!!!」
十真は亜蘭の厳つさにビビり思った事を口にしてしまったが亜蘭は気にせず指スマ部を紹介するために多目的ホールの中へと案内をした。
「思ってた以上に広い……」
体育館の半分ほどある多目的ホールの広さに驚きを隠せない十真。
そんな広い多目的ホールに十真と亜蘭以外に十真を歓迎する人物が3人いる。
「本当に連れて来たよ。やるな亜蘭!」
「ありがとうございやーす」
金髪モヒカンのヤンキーの亜蘭がペコペコと頭を下げている。
頭を下げさせた人物はスポーツ刈りで制服も規則を守りしっかりと着こなしている。
亜蘭とは真逆と言ってもいいくらいの人物だ。
その人物が十真に向けて口を開いた。
「俺は3年、指スマ部の
キャプテンの挨拶と共に他の二人も自己紹介をし始める。
「俺も3年。
体操服姿の勇は180㎝超えの大柄の男でピチピチの体操服を着ている。
高校生とは思えないほどの筋肉は肌とフィットしている体操服が余計に際立たせていた。
その筋肉を十真に見せつけるかのようにマッスルポーズを取りあらゆるポージングし始めた。
「アタシも3年。名前は
最後の一人は亜蘭の姉だった。
その見た目は姉弟だとすぐにわかるほど特徴的だ。
亜蘭と同じ金髪で腰辺りまで髪を伸ばし前髪はカールを巻いている。
妖艶な大人の魅力を漂わせるほどの美人。
制服のスカートは校則を確実に破っているとわかるほど短い。
シャツのボタンも開けて溢れんばかりの胸がこちらを挑発している。
「ねーちゃん! ニワトリはやめてくれよ……せめて馬って言ってくれよ……馬って!」
「馬ならいいんだ!」と十真はツッコミを入れたくなったが我慢した。
ツッコミよりも先にやることが十真にはあったからだ。
「えーっと今日からこの学校に入学した
1年生らしく丁寧に敬語を使い自己紹介をする十真。
「あ、あと、ゲームとかアニメとか漫画が好きです。好きな教科は数学です。苦手な教科は英語です。スポーツ系も苦手です。指スマ部を見学しようと思ったきっかけは……」
十真の自己紹介は続き趣味や得意科目や苦手科目を答えていたがその姿は面接のようだった。
その姿を見て笑いを耐えきれず「プフッ」と吹いてしまった人物がいた。
「アッハッハ……面接かよっ! 腹いてぇ……亜蘭面白いやつ連れて来たな、プフッ」
亜蘭の姉の結蘭が腹を抱えて笑い出した。
涙を流すほど笑っている。
赤いマニキュアをした細い指で涙を拭き取っていた。
その姿に顔を真っ赤にする十真は面接のような自己紹介を中断した。
「笑いすぎだぞ結蘭。十真は真面目なんだよ。ごめんな十真」
キャプテンの圭二が笑っている結蘭を優しく注意している。
結蘭も「はーい」と素直に応じた。
その圭二の姿はまさにキャプテンそのものだった。
十真はこの刹那の一瞬で圭二を憧れの存在の一人に加えたのだった。
「これで指スマ部の部員は全員だ。よろしくな十真」
指スマ部の部員は今いる4人で全員ということがキャプテンの台詞から知らされた。
3年キャプテンの親野圭二。
同じく3年の岩井勇。
同じく3年の花澤結蘭。
そして2年の花澤亜蘭。
この4人が兎島高校の指スマ部の部員だ。
「それじゃ早速、
キャプテンの言葉と共に十真以外のその場にいた全員が準備運動を始めた。
屈伸、伸脚、手首を回したり軽い跳躍をしたりしていた。
指しか使わないはずなのに全身のストレッチをしている。
「あれ? 指スマってそんなに準備運動必要だったっけ?」
真面目に準備運動をする先輩たちを見て十真は小さな声で突っ込んだ。
いよいよ指スマ部の部活動見学が始まろうとしていた 。
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