第45話 恐怖の上書き
両手に受け止めた気味の悪い触手を思いっきり前に押し出すと、「首なし魔王」は触手ごと後ろへグラつき、ドシンと尻もちをついた。
「アリサさん!!!」
「ちょ~かっくい~よ~!!!アリサちゃ~ん!!!」
「アリサ……………」
背後にいる「勇者学」の3人が、抱き合った状態は残したまま、俺の方を見上げていた。
「すみません、地面に埋まってしまってて……でももう抜いてもらったんで大丈夫です。これからあの化け物をギャフンと言わせてやりますよ!!!」
「アリサさん。もうあの怪物に頭はないですから、ギャフンとは言えないと思いますよ」
「ツリーフパイセン、そういうことじゃないと思いますよ~。しかもさっき地面に転がってた顔がめっちゃ悲鳴上げてたし」
「じゃあ行ってきますね」
そうして俺は「首なし魔王」のもとへ駆け出した。立ち上がった「首なし魔王」は腹の辺りから球体を3つ連射する。俺は2つの球体をまず躱し、最後の1つを蹴り返した。蹴り返された球体は、「首なし魔王」の股間に直撃し、そのまま体内へ吸収される。その吸収によってできた間を逃さないユイ先生は、すぐさま「首なし魔王」の両脚の付け根へ斬撃を放ち、胴体と分断した。
ついに左手と胴体のみとなった「魔王」は、それでも左手を地面について起き上がる。
「不気味ね。これじゃもはや『スライム』でも『魔王』でもなくてゾンビだわ」
「先生、とどめを刺す方法はないんですか?」
「分からないわ。もはやあいつは『スライム』の域を超えている。本来『スライム』は少し脅かせばもとの姿に戻るはずなのに、あいつはいくら攻撃しても変身を解かない。こんなの初めてよ」
「いや!それです!あいつはあくまで『スライム』なんですよ!」
「どういうことですか?」
するとすぐさま俺は服を脱ぎ、下着のみの姿になった。今日の下着は淡い紫色だった。
「何をしているの!?!?アリサさん!?!?」
「あいつがあくまで『スライム』なら、恐怖の上書きをすればいいんです」
地面に転がっていた体のパーツが、「魔王」のもとへ集まりだしていた。各パーツは胴体に吸収せられて、再び右腕が生え始めていた。脚も、頭も、じわじわと再生を始めていた。だが新しい身体の各部位は、以前の人型とは全く異なる様相で、どちらかというと獣のような、膝や肘から角が生え、鱗のようなものを身に纏い、爪や牙が巨大に発達した姿となっていた。最後に翼もしっぽも生えた。
「あの怪物……まさか魔王の覚醒した姿にまで変身するとは………それで恐怖の上書きって?」
「ユイ先生は俺が最も恐怖しているものを知っていますか?」
「………………女子高生ね」
「そうです。奴は今ミホリー先生の恐怖をきっかけに、『魔王』の姿を維持しています。そこで俺の女子高生への恐怖を上書きすることで、奴を『魔王』から『女子高生』に変えてしまおうという作戦です。『女子高生』なら俺以外には何の危険もありません」
「あなたにも特に危険はないわよ」
「とにかく俺の『女子高生』に対する恐怖を最大にします。そのためにまず無防備な姿になりました。あとは………」
「奴を食い止めながら、女子高生をここに集めればいいってわけね」
そう言ったのはルルップだった。サイカとメイも傍に来ていた。
「アリサ………その下着、とってもかわいいわね」
「サイカ!んなこと言ってる場合か!!!」
「いや、いい感じだよサイカ!!!女子高生に下着を褒められた恥ずかしさで恐怖心が増してる気がする!!!」
「なんやそれ!!!」
「とにかく学園中から女子高生を集めよう。それから女子高生たちにアリサの下着姿を見せて触らせよう」
「うん!その作戦で行こう!!!想像しただけでも頭がおかしくなりそうだ!!!じゃあ3人ともお願い!!!」
そうして3人は「中等部・高等部エリア」のある方へ走って行った。俺はかわいい下着姿のまま、「魔王」との戦闘を再開した。被害が拡大しないよう、ルルップたちが戻ってくるまで「魔王」をこの場に留めなければならない。
ユイ先生の斬撃が「魔王」の首元へ飛んで行った。鋭い牙を持つ口の下にあるしゃくれた顎の下の首は、やはり太く強靭になっており、斬撃を受けても「むにょ」と些かの弾力を見せただけで、ダメージの与えられた様子はなかった。
俺は鋭い爪が繋がっている足の甲をさらに行った先のカラフルな鱗を纏う脛に、数発の蹴りを入れたが、ただ裸足の足がジンジンと痛むだけで、やはりダメージを加えた気配はしなかった。
「魔王」はただその体躯を頑強にしたのみならず、技のキレも増していた。「魔王」の拳が俺とユイ先生に、交通事故のような重みで衝突する。先ほどは地表に達するまでに逃げる時間があって、両手で持ちこたえることもできた「魔王」のパンチが、あっさりと俺たちを弾き飛ばす。力負けしているユイ先生を見るのも、女子高生以外に歯が立たないのも、初めてだった。
「これはやばいですよ先生!!!」
「ええ。だからアリサさんは安全なところで待機していてください。あなたがやられてしまったら、いよいよ為す術がなくなってしまいます」
「いや、俺も戦いますよ!!!いくら先生でもあの怪物相手に1人は…………」
「大丈夫。私は1人じゃありません」
ユイ先生は顔を横に向け、アイコンタクトをした。その先にいるのはミホリー先生だった。ミホリー先生は少し笑って何度も小さく頷いた。
「ええ。分かってる。分かってるわ、ユイ。いくら歳を取ったからって、このまま引き下がっていられるほど、ボケてないわよ、私」
そうしてミホリー先生は、杖をしなやかに振った。
「ゴーカス!!!!!」
激しい攻防がまた続いた。ミホリー先生だけでなく、その場にいた遠距離攻撃を使える者は皆、ユイ先生の援護に力を注いでいた。その間、俺は少し離れた安全なところに避難し、下着姿のままずっと女子高生のことを考えていた。
かわいらしい女子高生。清楚な女子高生。髪の長い女子高生。ショートカットの女子高生。おとなしい女子高生。活発な女子高生。乱暴な女子高生。小柄な女子高生。背の高い女子高生。妖艶な女子高生。痩せた女子高生。太った女子高生。眼鏡をかけた女子高生。やかましい女子高生。制服の女子高生。私服の女子高生。体操服の女子高生。友達と喋る女子高生。机で寝てる女子高生。廊下を歩く女子高生。部活に励む女子高生。電車に乗ってる女子高生。テストを解いてる女子高生。スマホを見てる女子高生。自転車を漕ぐ女子高生。バスに乗る女子高生。笑う女子高生。泣く女子高生。女子高生。女子高生………………………
むにっ
後ろから誰かが俺の腕を掴んだ。それから次々と、脚、肩、腰、胸、髪を触られ、掴まれていく。もにもに揉まれたり、さわさわ撫でられたり、全身が知らない手のひらに犯されていく。しまいには知らないほっぺが、左脇腹をすりすりとし、そのほっぺの上にある瞳が、俺の目を貫いた。
それは女子高生の瞳とほっぺだった。
「アリサ!!!いっぱい連れてきたよー!!!!!」
ルルップの声がして振り返ると、俺を犯していた大量の手のひらもまた、全て女子高生のものだった。
「さあ!ここからが本番よ!!!あの怪物にアリサの恐怖心を読み取らせましょ!!!」
「うちらもあいつの誘導手伝おっか!!!」
サイカとメイが意気揚々とする一方、俺は作戦通り恐怖心で発狂した。
「アア゛ア゛アアァァァァァ゛ァア゛゛アアアァァァアァァァァアア゛ア゛ァァァァアァァァアアアァァアァアアアア゛ア゛ア゛アァアァァア゛アアァ!!!!!」
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