第38話 「カレー作り」開始!
「みんな!!『肉班』が帰って来たわよ!!!」
「メイ様!!ご無事でしたか!!」
「サイカ様!!お疲れ様です!!!」
「ルルップちゃーん!!おかえりー!!」
「アリサちゃんだ!!おかえりなさい!!」
「ミウちゃん!!おかえり!!」
ミホリー先生指導のもと、順調に「カレー作り」の準備を終え、完全に俺たち待ちだった1―Cのみんなが、ようやっと次の作業に進めるという解放感ではなく、ただただ純粋に帰還を歓迎してくれたので、さすがに少し疲れていた俺たちの肉体と精神は、魔法以外の方法で回復したのだった。
「すごい!あれが『ビッグ・ピッグ』の本体!」
「いつも食べてるけど生で見るのは初めて!」
「でっかー!あれを狩ったの!?すごっ!!」
「いいかお前ら!!いつも購買やスーパーで売っている豚肉も、もともとはこいつと同じ姿で生きていたんだ!私たちは命をいただいて腹を満たしていることを忘れるな!!」
「はーい!!!」
クラス全員が一斉に返事をした後、カリーナ先生が、ビッグ・ピッグを捌くのを見学したい人だけ来いと言うので、ミウとサイカと6人ほどがBBQ場の隣にある屠殺場へ向かい、残されたクラスメイトはBBQ場でもうしばらくの待ちとなった。俺たちはミウとサイカの荷物を一応預かったのだが、クラスメイトから旅についての質問攻めに遭っていたので、ほとんど置いていったのと同じだった。
そうしているうちに4人が途中で戻ってきた。さらに数分経った後、残りの4人とカリーナ先生も戻ってきた。サイカとミウは後から帰ってきた方の4人に入っていた。カリーナ先生が手に持っていた四角いトレイには、新鮮な赤が瑞々しく、白く濁りのないサシのギュウギュウに詰まった豚肉が1クラス分、薄く切られ、折り畳まれて並んでいた。
「凄い!!おいしそう!!」
「早くカレー作ろ!!あっちに野菜とルウは用意してあるから!!」
はしゃぐクラスメイトが指さした先には、少し厚めの玉ねぎと、ごろごろとしたにんじん・じゃがいもが、6つの銀トレイに分けられていた。カリーナ先生は銀トレイの余ったスペースに豚肉を分けていった。
その隣には、赤・黄・茶色など様々でカラフルなスパイスが、6枚の紙皿に少しずつ乗せられていた。
他にもテレビの料理番組みたく、テーブルの上には水やバターや米などが完璧に用意されていて、その向こう側ではミホリー先生が、満足気な表情をしながら背筋を伸ばして立っていた。クラスメイトの皆は明るく俺たちを迎えてくれていたけど、その前にはミホリー先生の手厳しい指導があったのではないかと、俺は勝手に同情した。
6つの銀トレイや紙皿があるということは、俺たちは6つのグループに分かれて「カレー作り」をするということだ。1―Cは全部で30人いるので、1グループ5人となる。俺は「肉班」の5人がそのまま「カレー作り」のグループに移ることを期待したが、そういうわけにはいかず、まだ話したことのない女子高生4人と、まずは米を炊くことになった。
「アイアイ!!水を入れるアルアル!!」と言う、糸目で青藍の髪の女。
「マチャッカ。火、点いた」と呟く、プラチナブロンドみずらの女。
「おいゴラァ!ぜってぇ蓋は開けんなよ!!!」と叫ぶ、ドレッドヘアの黒サングラス女。
「………………」と言う(?)、目と鼻をベネチアンマスクで覆った紫口紅の女。
俺はカリーナ先生に言い渡された「クラスの女子高生に慣れる」という目標を思い出した。彼女らは女子高生ではない。いや、女子高生であることには違いないが、それ以上にクラスメイトなんだ。そう思わなければならない。そう!彼女らはクラスメイト!クラスメイト!
「オ゛ラァ!!楽しいぜぇ!!『高等部』最初のイベントォォォォ!!!」
「高等部」という空気の振動は俺の耳に届き、鼓膜を震わせ、耳小骨を震わせ、蝸牛で電気信号に変わり、俺の脳に伝えられた。そして未だ解明されていない脳の仕組みによって、「高等部」という信号は「女子高生」という信号と強く反応し、頭蓋骨内で爆発した。ドォーン!!!!!
もともと十分に睡眠がとれていなかった俺は、立ったまま寝た。
Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz……
「アリサさん」
「アリサ・シンデレラーナさん!」
「はいっ!」
パンッ!という音と共に鼻ちょうちんを破裂させ、目を覚ました俺の正面にミホリー先生が立っていた。先生はアゴを少し上げていた。左右の色が緑と紫で異なる角膜を中心とした、神秘的かつ鋭い眼球をギラつかせ、俺を見下ろすように睨んでいた。
「アリサさん。あなたは常日頃しっかりと席に着き、微動だにせず授業に集中していたこと、私はよく知っています」
違います先生。気を失っているだけで、授業の内容など微塵も聞こえていません。
「先日の事件でも、偶然とはいえ自らが犯した過ちに最善を尽くし、無事収めたことを私は評価していました」
そんなに褒められると照れますなぁ。
「しかしあなた、今寝ていましたね!学園外へ旅に出てお疲れなのは理解できますが、それでも睡眠時間は十分にとったとカリーナ先生から聞いています。それに先日ハッピーさんを叱ったにもかかわらず、あなたを見逃すというのはフェアではありません。少し私と来てもらいます」
飯盒炊爨に興じていたクラスメイトたちは、ミホリー先生に連れていかれる俺に気づくと、ざわつき始めた。
「えっ!?アリサちゃんやばくない!?」
「ミホリー先生がいるのに寝ちゃったの!?」
「てか普通こんなイベントの途中に寝る!?」
「うわっ!アリサやっちゃた!?」
「まぁでも確かにこの状況、アリサには刺激強いで」
「アリサの事情があるとはいえ、ミホリー先生の言うことも間違いではないわ。助けてあげたいけど、せんかたないわ」
そのままミホリー先生の後を付いて行った俺は、BBQ場を抜け、「中・高等部エリア」に戻ってきて、高等部校舎の隣にある、「魔法館」へ入るのだった。
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