第36話 女子高生と虫と
「20分後にキャンプ集合としよう。お前らの実力なら、この森に生息するモンスターくらいわけないだろうが、念のため2人1組のペアは必ず維持しておけ。いいな。万が一モンスター等で危険な状況に陥ったときは、『赤』の信号弾を打ち上げるんだ。そして20分後キャンプに到着できていない場合、ただ遅れているだけなら『青』の信号弾を打ち上げろ。もし20分後信号弾が打ち上げられなかった場合、深刻に危険な事態と判断して学園や国の捜索隊に連絡する」
森で行方をくらませたルルップに、俺たちのもとへ合流するための方角を知らせようと、カリーナ先生が「青」の信号弾を数発打ち上げた。しかし、しばらくしても全くルルップの戻ってくる気配はなかったので、俺たちは彼女の捜索に出た。俺はサイカと、メイはミウとペアを組み、手分けして歩き回っていたのだが、捜索の開始から5分ほど経ってなお、ルルップの所在は掴めずにいた。
「大丈夫かしらルルップ。獣型のモンスターに捕まってボロボロに食い散らかされてなければいいけど」
「怖いわ!それにルルップは強いんだから、そんな簡単にやられないでしょ」
「確かにそうね」
俺とサイカは森の西側を回っていた。一度「ダルガラミンク」に襲われたが、すぐに倒した。それからもしばらく歩いたが、ルルップが通った痕跡すら見つからなかった。
「ルルップ。東側にいるのかしら」
「そしたらメイたちが見つけてくれるよ」
「待って、何か音がするわ」
俺たちがいる近くの草むらから、ガサゴソと揺れる音が聞こえた。それはルルップかもしれないし、野生のモンスターかもしれないし、さっきののっぺらぼうかもしれなかった。
「ル……ルルップ……?」
一応ルルップである可能性に賭けて、俺は草むらに名前を呼んだ。するともう一度ガソゴソと鳴り、中から現れたのは、薄い水色の髪を腰あたりまで下ろし、水色のスカートを腰に纏わせ、水色の襟のあるセーラー服を着た、知らない女子高生だった。
「ギャーーーーーーーーー!!!!!!!」
突然現れた女子高生に俺はビックリ仰天し、森の奥まで逃げ去ってしまった。
「アリサ!駄目よ!単独行動はさすがに危険だわ!」
しかしサイカの注意もむなしく、俺の姿は見えなくなった。
「あなた、何でこんな森の中にいるの?あなた何者?」
そんなサイカの問いかけに、水色の女子高生は首を傾げた。
「ルルップさん……大丈夫ですかね……こんなモンスターのいる森の中で………」
「まあルルップめっちゃ強いから、モンスターに襲われて危なくなるとかはないと思うけど。でも心配やなぁ~」
「はい………」
うちとミウは森の東側を回っていた。1回「ダルガラミンク」に襲われたけど、すぐ倒した。それからもしばらく歩いたけど、ルルップが通った痕跡すら見つからへんかった。
「ルルップさん……西側にいるんですかね………」
「ほなアリサたちが見つけてくれるから大丈夫やわ」
「待ってください。音がします」
うちらがいる近くの草むらから、ガサゴソ揺れる音が聞こえた。それはルルップかもしれへんし、野生のモンスターかもしれへんし、さっきののっぺらぼうかもしれへんかった。
「ルルップか……?」
一応ルルップの可能性に賭けて、うちは草むらに名前を呼んだ。するともう1回ガソゴソ鳴って、中から現れたのは、ぶにょぶにょの長いピンク色の身体が、うちの身長ほどはある、ミミズっぽい虫型モンスターやった。
「ギャーーーーーーーーー!!!!!!!」
突然現れた虫型モンスターにうちはビックリ仰天して、森の奥まで逃げ去ってしもた。
「メイさん!駄目!単独行動はさすがに危険です!」
しかしミウの注意もむなしく、うちの姿は見えへんくなった。
「虫型モンスターがいるとは先生言ってなかったのに………あなたホントは何者?」
そんなミウの問いかけに、ピンクの虫型モンスターは首を傾げた。
むやみやたらに俺は走っていた。もうここが森の西側なのか東側なのか、キャンプへの道も分からなくなり、でもそんなことを考えていられないほど俺はパニックになって、ひたすら草木を掻き分けていた。
ゴチンッ!!!!!
突如正面に現れた何者かと衝突した俺は、強烈なおでこの痛みと共に後ろへ倒れた。俺の反対側では、俺と比べれば少し小さめのたんこぶをおでこに作ったメイが、同様に倒れていた。
「メイ!?何でこんなところにいるの!?ミウと一緒じゃないの!?」
「アリサこそサイカと一緒じゃないん!?」
「俺は知らない女子高生が突然現れたから、気が動転してここまで逃げて来ちゃったんだよ」
「うちもでっかい虫型モンスターが出てきたから逃げてきてん!」
「メイ虫苦手なの!?てかこの森って虫型のモンスター出るんだっけ?」
「あかんねん!虫だけはあかんねん!ほんでカリーナ先生は出るって言ってなかったやろ!?それで油断してたから余計パニックなってもうて」
「とりあえず俺たちの居場所を先生たちに知らせよう」
俺たちがそれぞれ自分のたんこぶを「プチーユ」で治した後、俺は信号弾を打ち上げるため、腰に携帯していたピストルを手に取った。それから「赤」の信号弾が発射するようシリンダーを回し、銃口を夜空に向けた。
ガサゴソ
俺が引き金に指をかけた瞬間、脇にある草むらから再び音がした。俺とメイは息をのみ、その草むらを注視する。もう一度ガサゴソと鳴って、中から現れたのは、薄い黄色の髪を腰あたりまで下ろし、黄色のスカートを腰に纏わせ、黄色の襟のあるセーラー服を着た、知らない女子高生だった。
「ギャーーーーー!!!!!また女子高生―――――!!!!!」
「アリサ待って!!!それはあかん!!!」
二度の唐突な女子高生の出現により錯乱状態に陥った俺は、手にしていたピストルを黄色い女子高生に向け、弾を放ってしまった。魔法が込められた雷管がはじけ、赤い光が女子高生に襲い掛かる。女子高生は目をつむり、身をかがめた。
「コチール!!!!!」
メイが咄嗟に赤い閃光へ氷の魔法を発動した。うずくまる女子高生のうなじに向かって2種類の魔法の光線が伸び、女子高生に直撃する手前でお互いが衝突する。赤い光は消えてしまい、氷の塊だけが地面に落ちた。
「大丈夫か?ごめんな、ビックリしたやろ」
「ご…ごめん………本当にごめん……ところで君は……」
「おーい!!!!アリサーーー!!!メイーーー!!!びえ~~~ん!!!」
不意に俺たちを呼ぶ声が聞こえてきたので後ろを振り返ると、涙で顔をぐちゃぐちゃにしたルルップが、パーカーで頭を覆いながら、フラフラとこちらへ近づいてきていた。
「ルルップや!!よかったよかった!!ケガとかないか!?」
「びえ~~~ん!!!ケガはないよ~~~!!!怖かったよ~~~!!!」
「ルルップ……よかった……無事で………」
「のっべらぼうはどうなったん?」
「逃げてる間にどこかへ行ったけど……また出たらどうしよ……って…え?その子……え……?」
「げ!?!?なんで!?!?」
「えぇ!?!?」
先ほどまで確かに女子高生の形をしていた黄色い娘は、頭上からどろどろと溶け始め、小さくなっていた。どんどんどんどん人の形を失っていき、溶けた外側の部分は土に吸収され、そんな様子を俺たちはただ茫然と眺めていた。
そして最後に残ったのは、もちもちしていてまんまるいフォルムが特徴的な、黄色の「スライム」だった。
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