第33話 ランチでツリーハウス

「サイカ様ーーー!!!!!お待ちくださーーい!!!!!」

「メイ様ーーー!!!!!ご飯食べましょーーー!!!!!」

「サイカ様ーーー!!!!!お弁当作ってきましたわーーー!!!!!」

「メイ様ーーー!!!!!もっと私の心を盗んでーーー!!!!!」

「サイカ様ーーー!!!!!」

「メイ様ーーー!!!!!」

「サイカ様ーーー!!!!!」

「メイ様ーーー!!!!!」



 デモ隊が押し寄せてくるように、サイカとメイのファンたちの大群が、大地を揺らしながら俺たちを追いかけていた。サイカ・メイ・ルルップ・とその肩に担がれた俺は、「カレー作り」で同じ「肉班」の仲間となったミウ・シタツミがいつも昼に訪れるという、学園内の森に向かって走り逃げていた。



「私たち!!!いつまでこんな昼休み送るのよーーー!!!!!」


「最近さらに規模が増している気がするわ。中等部のときはさすがにこれほどではなかったのに」


「ドラゴンなんが割れたこととか、スイカ事件のこととかで、ファンの数も増えたし、熱狂的になったんちゃう?」


「でもあなたにいくらかファンを取られたわ、メイ。それでもまだ私のファンの方が多いけど」


「そら中学から徐々に積み上げてきたサイカにはまだ勝てんわ。うちまだこの学園来て3週目やで?でも2年後にはうちのファンの方が多なってるで。雑誌も売れてるみたいやし」


「はぁーー!?2年後も私のファンの方が多いに決まってるでしょ!?2学期になったら生徒会に入って、さらに注目を浴びることになるんだから!」


「うちかてもっと凄い魔法唱えれるようになるし、転性したらそれだけでめっちゃ注目されて、めっちゃファン増えるわ!なぁミウちゃん!2年後どっちのファンが多なってると思う!?」


「え……え……うああ………」


「こら!ミウちゃんを巻き込むな!勝手に2人でやってろ!」


「そうね、ルルップ。ごめんね、ミウちゃん」


「ごめんな~」


「えうあ………」


「それにしてもこの群衆……申し訳ないけど本当に厄介……。そうだ、アリサ、力を貸して!」



 するとルルップは、肩で放心状態にある俺を両手で持ち上げ、背後の集団へ差し出した。俺はうっすらとした意識の中、女子高生の大量に混じった群衆を目にすることで、途端に発作を起こす。




「必殺!!!!!アリサウォーーール!!!!!」





ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………





 俺の発作に合わせてルルップが技名を叫ぶと、大きな地鳴りが響き、俺たちと群衆との間の地面から、巨大な岩壁がせりあがった。



「ちょっと!何ですの、この壁!」


「サイカ様の御姿が見えないわ!!!」


「今日も行ってしまわれたのね………」


「メイ様ーーー!!!私たちは諦めないですわーーー!!!」



 俺たちを分断した岩壁の向こう側から、ファンたちの様々な嘆き声が聞こえてくる。この嘆き声を聞くのも3週目で、俺は些かの罪悪感と、でも仕方ないよなという思いと、これだけ振り切られてもなお諦めない、彼女たちへの敬意を抱くのだった。



 高等部の校舎から寮まで行く道の途中、左側に、もう何十年も人の手が加えられていなさそうな煉瓦造りの廃墟がある。外壁には緑の蔦が、さびれた建物とは対照的に生き生きと茂っていた。おそらく窓がありそうなスペースも全て蔦で覆われていて、中は見えない。



 その廃墟の後ろに広がる森へ、俺たちはミウに連れられ入っていく。森の向こう側には、いつもメイと魔法の練習をしている「泉の塔」の先端が見えた。



 鬱蒼とした森の中をしばらく歩くと、この森の主であるかのような、1本の巨木が現れた。高さこそ他の樹木と大きく変わらないものの、その幹の太さや広がる枝の面積は群を抜いていて、ただでさえ薄暗い森の中でその巨木が覆う影に侵入すると、より深く海を潜ったみたいだった。


 そして巨木の枝が分かれているところには、四畳半ほどの立派なツリーハウスが乗っかっていて、ミウはそこから下りている梯子の麓で足を止めた。



「こ……ここです……」


「すごい!これミウちゃんが造ったの!?」


「立派やなぁ~。『建築士』にも転性できるちゃう?」


「う……無理です……これはモンスターに手伝ってもらったので………」


「そのあなたのお友達のモンスターはどこにいるのかしら?」


「ツリーハウスの中です……どうぞ……登ってください……」


「アリサ!もう大丈夫でしょ!早くミウちゃんにも慣れて!」


「うい………」



 ルルップの肩から降ろされた俺は、ミウの後に続き梯子を登った。そしてミウがツリーハウスのドアを開けると中から、白くて長い前歯が口からはみ出ている、茶色い生き物が飛び出してきて、俺の顔に張り付いた。



「ビイィィィィィィ!!!!!」



 そして興奮したその生き物が、黒く平らな尻尾に炎を纏い始めたので、取り払おうとしていた俺の両手が、しっかり焼けた。





「あっっっちぃぃぃぃぃぃ!!!!!」





 ツリーハウスの中は、窓際に木製の机と椅子が配置され、その右隣の角に、木の枝が敷き詰められていた。どうやらこの生き物の寝床のようだ。俺たちは昼食を食べ始めていた。



「す……すみません……大丈夫ですか……」


「ほんま大丈夫か、アリサ?『プチーユ』で回復するとか、『コチール』で冷やすとかせんでいい?」


「大丈夫だよ。ちょっと熱かったけど、このコは女子高生じゃないから、大したダメージにならない」


「何その理由……アリサらしくはあるけど………」


「ホントだよ、サイカ。そして私たちはその変な理由を受け入れ始めている」


「すみません………このハウスに私以外の人が来たのは初めてなので、ビックリしちゃったみたいで………ほら、謝りなさい」


「ビイィィィィィ……………」


「大丈夫だよ。こちらこそビックリさせちゃってごめんね」


「ビィィィィィィ!!!!!」



 その生き物は今俺の膝の上に乗っていて、ミウが持ってきた『シャリシャリンゴ』『陽キャロット』『マキャベツ』を、満足げにほおばっていた。



「その子は『ツヨビーバー』のビビンバくんです……中等部のときこの学園の近くで倒れていたので、こっそり看病したら懐かれてしまって……」


「ミウちゃんすごいね~。モンスターに懐かれるなんてめったにないことだよ」


「そうなの?俺も懐かれてるけど」


「なぜなんでしょう……本来モンスターは人と相容れない存在なのに……」


「ビビンバ君、うちらには見向きもせんもんな」


「私と友達になってくれたのもきっと偶然なんです……私…人が苦手だから……この子と一緒にいるのが一番寂しくなくて……だからこんな森の奥で飼い始めたんです……」


「寮はダメだったの?」


「アリサ、寮どころかこの学園はモンスターの侵入を禁じているわ。本来危険な存在だもの」


「すみません……禁止なのは知っていたんですけど……この子の仲間ももう見当たらなくて……」


「でもサイカだってドラゴンでしょ?ドラゴンはモンスターじゃないの?」


「違うわよ!」


「アリサ、モンスターって言葉を使えない生き物のことだよ」


「正確にはもう1個定義あるけどな」


「なるほど~。じゃあ前のキラースイカとかもモンスターってこと?」


「おそらくそうなるわね」


「まぁええんちゃう?ビビンバ君、あんま危険なさそうやし」


「俺が火傷させられたばっかりなんだけどね~。でもかわいいからいっか~。なでなで」


「ビィィィィィ♡」


「ミウちゃんは、人が苦手でもモンスターは大好きなんだね」


「はい……あまり良くないことかもしれないですけど……その通りです……」


「でもモンスターが好きなんやったら狩りとかしんどいんちゃう?モンスター殺すことになるし」


「いや、それは大丈夫です。殺せます。というか殺します」


「意外と切り替え速いな!」


「食べるためだもの、仕方ないわよね」



 そんな話をしているうちに、ミウともすっかり打ち解けることができた。危険なモンスターのいる場所へ狩りに行くことを考えても、メンバー間の緊張を解いておくことはとても重要で、楽しくも有意義な昼食となった。






 そして金曜日の放課後がやって来た。リュックに荷物を詰めた俺たちは、食堂前の広場に集まり、カリーナ先生に連れられて、狩猟の旅に出るのだった!

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