第18話 ガツガツパクパクモグモグモゴモゴ
俺たちはルルップの部屋で、メイも加えて4人で昼食をとることにした。サイカとメイはファンが集まって騒ぎになってしまうため、俺は女子高生に発作を起こしてややこしいことになってしまうため、今日も昼食はルルップが1人で買ってきてくれた。
今日の料理は、こねたパン生地を深い皿のように整形した後、肉やチーズ、卵を中に入れ、カリッと石窯で焼き上げた一品であり、とてもおいしそうだった。ルルップにはおいしい料理を見つけるセンスがあると思った。
そうして俺たちはおいしい昼食を食べ、談笑しながら昼休みの楽しいひとときを過ごした。(以下:ガツガツ=アリサ、パクパク=サイカ、モグモグ=ルルップ、モゴモゴ=メイ)
「やっぱりかなり噂広まってるっぽいねー。購買行ったら、すごい色んな人に避けられたよ。モグモグ」
「あれホンマなん?ルルップがそんな暴れるとは思えへんねんけど。モゴモゴ」
「悪い部分ばかりが広がっているのよ。ルルップは武器さえ持たなければ大丈夫なんだから。パクパク」
「そうだよ。みんな噂の面白いとこばっかり信じて。あんまりルルップに冷たいことしないでほしいなあ。ガツガツ」
「でもやっぱり暴走しちゃうのは事実だしね。それに実際1人大怪我させちゃってるわけだから、みんなが怖がるのもしょうがないとこはあるんだよ。まあ私は他人に避けられても大丈夫だから。ちゃんとここに大事にしてくれる友達がいるもん。モグモグ」
「ルルップ?何?あなた可愛すぎるわ。パクパク」
「俺、今ふつうに泣きそうになったよ。ガツガツ」
「それにミツキさんやアイリンさんだって、いつでも頼りにできるしね。モグモグ」
「へぇー。お姉ちゃん信頼されてるやん。モゴモゴ」
「メイもミツキさんと同じで、属性は騎士なの?ガツガツ」
「それがちゃうねん。うちは騎士っていうよりパラディン寄りやねんなー。馬乗らへんけど、回復魔法はちょっと使える。モゴモゴ」
「メイは身長も高くて、体格もよくて、パラディンにぴったりね。パクパク」
「せやろ?せやねん。ほんでルルップが戦士で、サイカがドラゴンやろ?アリサは属性なんなん?モゴモゴ」
「俺はまだ属性分かってないんだよ。ガツガツ」
「でも勇者学受けてるんだよね。モグモグ」
「えぇー!?すご!先生に推薦されたってこと!?モゴモゴ」
「うん。剣術の先生に。ガツガツ」
「はぁー。ってことは魔法も使えたりするん?モゴモゴ」
「ん?魔法?ガツガツ」
「そら勇者やったら魔法も使えなあかんやろ~。モゴモゴ」
「ガツガツ」
パクパク。ガツガツ。モグモグ。ガツガツ。パクパク。モゴモゴ。モグモグ。ガツガツ。パクパク。モゴモゴ。ガツガツ。モグモグ。モゴモゴ。パクパク。ガツガツ。モゴモゴ。モグモグ。パクパク。モゴモゴ。モグモグ。モゴモゴ。ガツガツ。モグモグ。パクパク。
「使えへんの!?!?」
「もう時間よ。5限に行きましょ。パクパク」
ルルップが買ってきてくれた昼食だけでなく、ルルップの部屋にあったお菓子もついたくさん食べてしまった俺たちは、テーブルを片付け、5限に行く準備を始めた。
「そうだ!メイも剣術受けない?アリサも一緒だよ。パラディンにも剣術はいるでしょ?ミツキさんだって一緒だし。せっかく月曜日までは体験授業期間なんだしさ!」
「あ~。ごめんな~。うち少なくとも今年は剣術受けるつもりないねん」
「そっかー残念。もう選択科目決まってるの?」
「う~ん、ぼちぼちってとこやな~」
「今日はどこ受けるの?」
「それは~、う~ん、秘密ってことにしといてくれへん?」
メイはそうはぐらかし、教室が遠いからと言って早めにルルップの部屋を出た。俺たち3人も支度を終えて、それぞれの教室へ向かう。ルルップはさっきのやり取りについて引っ掛かっていた。
「メイ、何か隠し事してるっぽかったね」
「そうね。まだ仲良くなったばかりだし、言えないこともあるんでしょ。パクパク」
「またそのうち打ち明けてくれるんじゃない?」
「そうだね!今ぐずぐず考えてたってしょうがないか!」
「じゃあここでお別れね。2人とも剣術頑張って。パクパク」
「うん!サイカも勉強頑張ってね!じゃあ行こう、アリサ!」
「うん!サイカまたね!」
「またね!パクパク」
高等部の校舎へと続く別れ道で、サイカに手を振った後、俺とルルップはいつも通り闘技場へ向かった。
この学園には、学生と教師がいるだけでなく、各施設の職員や配達員、警備員や鳶職など、様々な人があちこちで働いていて、中には何に急いでいるのか分からないが、とにかく走り回っているような大人もいた。当然その全員が女性であり、この学園の男子禁制ぶりに驚かされる。
闘技場への経路における、最後の曲がり角を曲がろうとしたとき、後ろから「ルルップさん!アリサさん!」と俺たちの名前を呼ぶ声が聞こえた。2人で振り返ると、そこには清掃のおばちゃんが、息を切らして立っていた。恰幅がよく、年を重ねていそうな皺も見られたのだが、流れる汗が不潔に見えないほど、溌剌とした雰囲気を纏っていて、不思議な人だった。頭には黒と白のシマウマ柄をしたタオルが巻かれていた。
「ハァ……ハァ……ルルップ・ベルさんと、アリサ・シンデレラーナさんね」
「そうですけど、どうしました?」とルルップが答える。
「ルルップさん、あなた、武器を持つと自我を失っちゃうって聞いたわよ」
「はい、そうですけど………」
「闘技場へ向かってるわよね?剣術の授業はどうしてるの?」
「ずっと見学してます。竹刀も武器には変わりないですし……」
「あら、竹刀は稽古道具でしょ。武器じゃないわ」
「それはそうなんですけど、武器に見えてしまって……」
「じゃあこれは武器に見える?」
そう言うとおばちゃんは、掃除用具が大量に詰め込まれたカートから、180センチほどはありそうな大きい熊手を取り出した。明らかにカートには収まらないサイズのものがニョキニョキと現れたので、俺は魔法の関与を推測した。そしておばちゃんはルルップに、巨大な熊手を握らせた。
「これは武器かしら?」
「熊手は武器ではないと思います」
「そうよね。これは掃除道具だわ。だからあなたは自我を失わない」
「はい。その通りです」
「でも実は時代を遡れば、熊手を武器にして戦った人もいるのよ」
「へぇ~」
熊手の広がった先を見上げながら、ルルップは声を漏らした。俺も隣で舌を巻いた。
「どう?熊手が武器に見えた?」
「いえ、確かに武器になるのかもしれないですけど、やっぱり私にとって熊手はただの掃除道具です」
「そうよね。それでいいの。その熊手はあげるわ。竹刀が持てないなら、それで打ち合いをすればいいんじゃないかしら」
「いいんですか!?ありがとうございます!!」
こんなにでかい熊手を貰っても、ただただ邪魔になるだけなのではという邪念が、俺の潜在意識領域から顕在意識領域へ零れ出そうになったのだが、ルルップが無邪気に嬉しそうなので、無理やりそれを抑え込んだ。
「あともう1つ、あなた、自分の属性を把握できてるかしら」
「私は戦士ですよ。先祖代々戦士の家系です」
「でも属性は必ずしも受け継がれるわけじゃないでしょ。暴走してしまうあなたの属性を、単純な戦士とは言えないわ」
「私、戦士じゃないんですか?」
「あなたの属性は狂戦士。またの名前をバーサーカー」
「バーサーカー………!?」
「あなたの属性は、遥か大昔に失われたと考えられていた幻の属性、バーサーカー。だから今回の噂について、大学の方ではかなり騒然としていたのよ」
「私、研究とかされるんですか?」
「研究したくてあなたを訪ねようとした教授はいたみたいよ。でも理事長がまだ普通の女子高生なんだからやめてあげなさいって、止めてくれたみたい」
「はぇ~。私そんなすごいんだ~」
「あら、意外と驚かないのね」
「急に幻って言われても実感湧かないですよ」
「そうよね。あら、もうすぐ5限が始まっちゃうんじゃない?ごめんね、時間取らせちゃって」
「いえいえ、熊手も属性の話も、ありがとうございました!」
俺たちは掃除のおばちゃんと別れ、闘技場へと走って行った。今日の俺は、まともに授業に参加するための、秘密兵器を用意していた。
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