第16話 勇者たる者
俺は虚しく空を翔けていた。
ルルップたちは大丈夫だろうか。心配だけど、俺にはどうすることもできない。俺はただ冷たい雨を見上げながら、ひたすら空を突き抜けていくしかないのさ。隣を飛んでいる濡れた小鳥たちとさえ、言葉を交わすこともできずにね。イッツ・レイニーブルー。
そうして俺が孤独に浸っていると、足元方向、つまり学園がある方角から、聞き覚えのある声が届いてきた。
「アリサー!!どこまで飛んで行ったのー!!」
「アリサー!!ごめんねー!!空の彼方へ消し去ってしまってー!!」
それはサイカとルルップの声だった。
「サイカー!!ルルップー!!ここだよー!!助けてー!!」
「サイカ!アリサの声だ!」
「アリサ!見つけた!!ほら背中に乗って!!!」
そうして俺は、ドラゴンの姿に変身していたサイカの広い背中に乗った。サイカはUターンをして、学園の方へ向きを戻した。
「ありがとうサイカ。このまま永遠に上空をさまよい続けるのかと思ってたよ。それにしてもその姿、超カッコいい!」
「そう?うれしい♪このまま学園へひとっ飛びよ♪」
「アリサごめんね。大丈夫?怪我はない?サイカもごめんね。せっかく属性を秘密にしていたのに、ナナたちに見られちゃった」
「いいよー全然。怪我は全く無いし、おかげでサイカの背中に乗れたしね~」
「私も気にしないで。友達を助けるためなら、属性を明かすくらいどうってことないわよ。むしろ隠し事が減って気楽になったかも!!」
「え゛~ん゛!!!2人とも優しすぎるよ~!!!」
全身がびしょびしょになり、体温も下がっていたはずなのに、3人でいるこの空間はとてもぽかぽかするものだった。
「はぁー。でもやっぱり私、武器持つのダメだったな~」
「あら、全然大丈夫よ。私が力ずくで止めるもの」
「サイカ、そういう問題じゃないでしょ」
「でもさ。ルルップには自我を失ったって、止めてくれる人がいるってことじゃない?前だってミツキさんとアイリンさんが止めてくれたんでしょ?」
「それはそうだけど……でも迷惑かけちゃダメだよ」
「あら?迷惑だなんて、これぽっちも思ってないわよ?それにあの姿、最後の切り札って感じがして、私ワクワクするわ」
「だからまあ、ちょっとくらい暴走したって大丈夫なんだよ」
「そう?」
「そうだよ」
「そうよ」
それから俺は立ち上がり、相対するようにルルップの方を向いた。
「俺だって女子高生に混乱して、溶けたり爆発しちゃったりするけどさ、ルルップとかサイカとか、周りの人がいつも助けてくれるんだよ。だから俺は安心して暴走できるんだ。ルルップだって、周りに止めてくれる人がいるんだから、また武器を持てるように頑張ろうよ。俺も女子高生を克服できるように頑張るからさ」
「アリサ…………」
ようやくルルップの表情に、晴れ模様が見えてきた。
「なんかアリサって……ホントに勇者なんだね」
「あら、アリサ勇者だったの?」
「勇者学に推薦されたらしいよ。すごいよね」
「すごいわ。あっ!学園が見えてきたわよ」
学園の上空を覆っていた雲は、既にどこかへ消え去っていて、俺たちが帰るその場所には、身体を冷やす雨足の代わりに、夕暮れの陽光が降り注いでいた。
翌日の「勇者学」の授業、俺は宿題の問いに答えた。
「ではアリサ・シンデレラ―ナさん。昨日出した問い『何者が、勇者たるか』の答えを考えてきてくれましたか?」
「はい」
「ではお願いします」
「正直俺は、勇者が何をする属性なのか、どういう能力が必要な属性なのか、全く知っていません。もともと勇者を目指していたわけでもなくて、アチーナ先生の推薦に流されるまま、何となくこの教室へ辿り着いただけなのです。だから俺は勇者について、いまいちピンときていません。ですが俺は昨日、友達から勇者だと言われました。何か勇者らしいことを意図的にしたわけではありません。しかしそう言われました。俺は最初これを、何となくにしか受け取っていなかったのですが、よく考えてみると、友達から勇者だと言われることが、実は勇者にとっての本質に関わることなのではと思われ始めたのです。勇者たる者とは、周りから勇者だと言われる者なのではないか。これが今の俺の答えです」
俺の答えを聞いたユイ先生は、優しく微笑み、優しい声で返答した。
「とってもいい答えですね」
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