部長「西園寺カノン」

運命の出会いと言うものに憧れる。


この世に能力者が本当にいるのなら。

西園寺という家に守られた私と言うヒロインを、壁を壊して攫うような主人公がいるかもしれない。その力で運命を壊す能力者、そんな出会いに憧れる。

まあそんなものはないし、いわゆるお嬢様であることに不満もないから攫われなくてもいいのだけれど。例えばの話だ。

ヒーローはヒロインを守るものだけれども能力者ならばヒロインがヒーローを守ることだって出来る。それでヒロインがヒーローの為に命を掛けて愛する者を守っても素敵だと思う。

私はそんな御伽話に憧れる。

だから、能力者の存在を知りたいのだ。私は。

壁を壊してくれるその力の存在を知りたいのだ。私はヒーローを守るヒロインにはなれなくとも、その存在が確かなものなら御伽話だって現実になるかもしれないから。それが見れるなら幸せなことでしょう?

そう、多くの人が集まる大学ならば能力者の一人や二人、こっそりいるかもしれない。そんな希望を抱く。


「あーどこかにいないかなー能力者!!」

カノンは椅子の背もたれにもたれ掛かり、叫んだ。

西園寺さいおんじカノン。異能研究部、通称「アブソリュート」の部長でありこのサークルを作った者。

そしてこのサークルは活動報告をろくに提出出来ないまま廃部寸前なのである。なお期限は明日まで。どうしようもなくカノンはジタバタしていた。

「カノンちゃん、言っても能力者は現れないよ?ほら、探さないと……」

そう言いながら本を読んでいるのは後輩の雨乃八重あまのやえ。タイトルは能力者の探し方、と書いてある。

「それが現れないから困っているのよ!裄仁!掲示板に目撃情報とかない訳!?」

「無しっす」

「……後輩に頼るな」

「そんなこと言うならあんたも探しなさいよ!優!」

八重と同じく後輩の関宮裄仁せきみやゆきひと、そして人数合わせの為に半ばむりやり入れた氷室優ひむろゆう。以上の四人がメンバーである。

「どうしよう、このままじゃ廃部よ!?掲示板の閲覧履歴でも出したら許してくれないかな!?手っ取り早くなんとかなる方法はないの!?」

それは駄目だろ、と自分の中で気づいたのでカノンは立ち上がり部室をうろうろ歩いた。

「活動記録でいいのだろう」

それを見かねた優がこちらを見て一言。

「ならば能力者絡みの事件の現場を調べろ、それをレポートにして出せば活動記録にならないか?」

「天才!やっぱりあんたがうちにいてよかったわー!」

何故それが浮かばなかったのか。一同はそれを口には出さなかった。



能力者。

かつて魔物がいた時代に現れ、現代にもいるとされる異能力使い。

それを統制する組織はあるもののその存在や能力者たちの起こした事件などは基本的に隠蔽され世に出ることはない。

つまり、周りに能力者でもいない限りはその存在すらあやふやなのだ。

しかし現代にはインターネットが普及し、そういったものを見たという噂が広まることが多い。それを取り扱うのが異能.comという掲示板である。

「うーん、噂として盛り上がってるのはこれっすかね……休日のショッピングモールで能力者が暴れて騎士団の能力者が止めた、って奴。目撃者が多数いるしこれなら店員さんに聞けばレポートにはなりそうです」

何故か掲示板を見る担当になっている裄仁のチョイスによりカノンはデパートにいた。

「みんな!この件についてまとめられそうなことを調べておいて!私が行ってくる!」

と一人で突っ走ったからだが。

「だから一人で突っ込むなっての」

最も、使用人(と言うか用心棒)のステラも一緒にいるから一人ではないが。

「で、お嬢様?お前、聞き込みとかできるのか?」

「全くしたことないわ……」

裄仁の資料によれば、ある日このショッピングモールでナイフを持った男が人質を取るなどして暴走、それを止めたのが騎士団所属の能力者二人。暴れた男が能力者か否かは公表されていないが体力増強か何かの能力者ではないかと言う憶測が出回っていると言うことである。

「と、言うかこの資料をそのままレポートとして提出した方がいいんじゃねーか?」

ステラの最もらしい一言を聞かなかったことにしその現場にたどり着く。

「さすがに血とかは……残ってないわね」

「怪我人はいないって話だろ?そんな証拠がある訳ないだろ」

とりあえず写真でも撮っておこう。カノンがカメラで写真を撮っている間にステラがどこかへ行った。ちょっとくらい手伝いなさいよ、そんな不満を抱きながらもいろんな角度から撮影する。後から拡大したら何か能力者の使った能力の痕跡が!みたいなことがあればいいのだが。

「そこの店員に聞いてきたぜ、例の話」

ステラが片手にメモ帳を握り戻ってきた。カノンは彼をバカにしたことを脳内で詫びる。

「普通の強盗事件として処理されたらしいぜ。ただ、人によっては暴走した奴を殴って取り押さえた男の手から黒いものが見えたとか言ってるらしいぜ」

「黒いもの?」

「そう、黒い光だったり、それが闇に見えたり」

それが騎士団の能力者と言うことだろう。噂は間違いなさそうだ。

「だけどその能力者に会わないと能力かなんてわからないわよね……目の錯覚を起こしました!なんて言われちゃう」

それでもなにもわからないよりましであろうか。能力者の現実味も帯びてきた情報である。

「直接会って話を聞きたいわね、闇の能力者に」

「……お前さ、とりあえず部の存続のための活動報告が欲しいんだろう?とりあえず出せば良くないか?詳しくはそれからでも」

見かねたステラが遂に核心を発する。

「さっさと出さないと潰されるぞ?明日までだろう?」

「うっ、それもそうね……活動できなくなる事の方が困るもの」

せっかくの優の名案でも、肝心の取材を長引かせて期限に遅れてはどうしようもない。

闇の能力者には会いたいが、とりあえずここはこの場で諦めレポートをまとめることにする。


「出来たー!」

部室にこだまする声。

「殆ど裄仁任せだっただろう」

「うるさい、取材したのは私よ!頼れる後輩の仕事が早かった、それだけの事よ!」

戻れば、後は写真を貼りカノンの取材したことをまとめるだけのスペースを残し活動記録が完成していた。

「このスポーツマン、実はデジタルに強いのよね。そりゃモテるわよ、裄仁。すごいぞ、裄仁!」

彼の背中をバシバシ叩く。

横で八重がカノンを睨むように見ていた。大人しそうに見えるが裄仁のことが絡むと随分と好戦的になるのは恋する乙女の宿命であろうか。カノンは大人しく裄仁から離れる事にする。

「さてと、出来た後輩がふたりとも頑張ってくれたから私はこれを提出して来ようかしら!存続存続ー!」

スキップしながら飛び出していくカノン。

その心は希望に満ちあふれていた。

「私ってば天才ね!本当に能力者の情報を掴むなんて!やっぱりサークルを作って正解だったわ!」

現実味を帯びてきた能力者の存在。

そんな能力者がすぐ近くにいることを知るのは、まだ先のお話。

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