開幕「星降る夜に」

それは過去の話だが鮮明に覚えている。

確か中学に上がりたての頃、私が家族と旅行に行った日の話。

私はその見知らぬ異国で買い物に歩いていた。

するとふと、本当に何故か分からないが裏道が気になったのだ。

そこは匂いがした。血の匂いだろうと思う。

興味本位で私はその道を進んだ。

すると人が倒れていた。倒れていたと言うよりも路地裏の建物を背に座り込んでいたと言うべきかもしれない。よく分からないけど。

その人は血だらけで、気を失っていた。どうしたらいいか分からないから慌てて私は叩き起こした。

「……誰だ、てめえ」

長い金髪を血に染めて倒れていた男は気がついたらしい。喋れるって事は命に関わることではないのかもしれない。

だがその男は様子がおかしかった。

「いや……どこだここは。俺は何をしていた、俺は誰だ?」

「あなた……記憶喪失?」

あれって漫画とかの世界だけの出来事じゃないのね。

目の前にいた男は明らかに自分のことが分からないらしい。

とりあえず私は使用人に電話する。

「……ねえ、うちに来ない?ちょうど私の用心棒が欲しかったのだけれども」

このまま置いておく訳にも行かないし。なんだかこの人のことが気になって仕方ない。興味しかない。

「誰か分かんねー奴の用心棒なんか出来るかよ。殺すぞ」

「あなただって自分の事が誰だか分かってないじゃない。自分の事を分かっている私の方が上よ。このまま野垂れ死ぬよりいいんじゃない?」

「クソが……」

そうこうしていると使用人が来た。

空には星が輝いている。

「この人は今日から私の用心棒として雇うから。お父様もちょうど私の用心棒を探していたのだからちょうどいいでしょう。名前はステラ。私が今決めたわ!」

使用人は驚いた顔をしていたが否定する事なく彼を車へとのせ、病院へ運んだ。

後から聞いた話だが、ステラには殴られた痣が沢山あったのだそうだ。恐らく喧嘩でもしたんだろう。用心棒としてちょうどいいわね。

記憶はその時に受けた怪我で失ったのだそうだ。本当に何も自分のことが分からないらしい。

そして病院で一日入院となったステラは、病人であるはずが使用人としてみっちり鍛えられたらしいけど、そのことについては誰も教えてくれなかったからどんなことをしたのかは知らないわ。

ステラとまた再会したのはそれから二日後、帰国の日だった。

ステラは執事服に身を包み、嫌そうな顔をしながらも飛行機の私の隣に座る。

出会ったのが夜だから気づかなかったけれど、黒い特徴的な目をしていた。夜のような目に星のような金色の髪。意図していた訳ではないけれどステラって名前はぴったりだったみたい。

「お前、カノンって言うんだな」

「そういえば自己紹介してなかったわね。元気になったなら帰っていいわよ」

「飛行機に乗った今更どこに帰れと?お前本当にバカだろ」

どうやら元気になったらしい。よかった。あのまま死なれていたらそれこそ最悪の思い出になってしまうから。

「助けてくれた礼だよ。一生をかけてお前を守ってやるよ、お嬢様」

とても近寄りがたいツンツンした感じだけど、根は真面目でしっかりしているのかもしれない。

「当然でしょ、私の用心棒なんだから」




そして月日は経って今に至る。

ステラは今日も私の隣にいる。

私の最高の従者として、私を守ってくれている。

相変わらず彼の記憶は戻らないけれど、ずっと隣にいてくれるならそれでもいいかもしれない。

「ねえ、ステラ」

「どうした?」

「能力者って、本当にいると思う?」

彼はため息を一つ。

「また無茶振りかよ……まあ、いるんじゃねーか?」

私は決めていた。

正直なところステラがどう答えても決めていたことを行動に移すということは変わらないのだが。

「よし、サークルを作ろう!能力者についての真実を探るサークル!せっかくの大学生活だもの!」

「……お前はいつも思いついた事を考えもせず動くよな」



「異能研究部、名前は決めているの。アブソリュートって名前に!」

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