エピローグ
「やっぱり、昨日の出来事は、夢じゃなかったのかな?」
翌朝。魚春は目を覚ますと、微笑み顔でこんな一声を発する。
あのお部屋のままだったわけだ。
「こうなったら、異世界生活をとことん楽しもうっと。異世界のお魚さんも研究したいし」
けれどもそこはお茶目な魚春、現実的に考えて起こり得ない不測の事態にも慌てず冷静な気持ちでいようとした。
「明るくなってるけど空飛ぶお魚さんがまだ見えるよ。すっぎょーい♪」
窓から外の風景を眺めつつ、テタマヤが用意してくれていた普段着に着替え、一階へ。
セアヤとテタマヤは台所で朝食準備を進めていた。
「おはようぎょざいます。今日はすぎょく良い天気ですね」
魚春は元気よく大声で挨拶する。
「おはよう魚春ちゃん、よく眠れたかしら?」
「いえいえ。見たことのない光景に目を奪われて。大興奮でなかなか眠れなかったでぎょざいます」
「幸せな気分を味わえたみたいね。はい、朝“ぎょ”飯よ」
「どれもすっぎょく美味しそう」
魔物の腕らしき部分と、日本では見たことのない種類の果物もあった。
魚春は躊躇いなく頬張る。
「果物も、すっぎょく美味しいです♪」
「この国の果物は栄養満点だよ。今日は学校お休みだから、魚春くんを町案内してあげるね」
「それはすぎょく楽しみ♪」
朝食後、
「お母さん、お手伝いします」
「あらあら。お客様なのに悪いわね」
「いえいえ。一宿一飯の恩義をするのは日本では当たり前でぎょざいますから」
桶に溜められていた水と、灰と擦るための藁を使って食器洗いをしていたテタマヤさんをお手伝い。
そのあとはタライを使ってのお洗濯も。
竹帚で廊下などのお掃除もしてあげ、テタマヤさんとセアヤに大喜びしてもらえた。
こうして家事を一通り済ませ、魚春とセアヤはわくわく気分でお外へ。
「ニガトブカの中心地までは、ここから歩いて三〇分くらいだよ」
「歩いて三〇分くらいだと、二キロくらいだね」
「わたし、遠い所に行く時はいつもこれに乗るんだ」
セアヤはそう伝えて、フルートのような笛を取り出してピィィィーッと吹いた。
するとまもなく、
「この子、昨日ぼくを乗せてくれたマンタちゃんだぁ!」
魚春が昨日出会ったマンタっぽい生き物が二人の側に降り立った。
「魚春くんもこの子と知り合いだったんだね。この子は大人しい魔物だから人は襲わないよ」
セアヤは慣れた感じでそいつの背中に乗っかる。
「マンタちゃん、乗り心地すごくいいよね」
魚春も楽しそうに乗っかる。
すると、
マンタ風の生き物は、上空に勢いよく舞い上がる。
あっという間にこの街で一番賑わう中心地へ。
キュピピ♪
「ありがとうマンタちゃん、またね」
二人を降したマンタっぽい生き物は、嬉しそうに翼を広げて空高く舞い上がっていった。
「アーチに何か文字が書いてあるね」
「あれは『海鮮グルメと芸術と科学の街、ニガトブカへようこそ!』って書いてあるんだ。観光客も旅人もいっぱい来るよ」
「素敵な街だね。それにしても、街中なのに車も電車もバスもバイクも自転車も走ってないのはすごく新鮮だねぇ」
「日本にはそんな名前の乗り物も走ってるんだね。どんなのか気になるな」
「残念だけど、写真が今ないからお見せ出来ないんだ」
魚春は申し訳なさそうに伝える。
ともあれ、二人はすぐ目の前の市民憩いの公園へ。
大道芸や、歌、楽器演奏、絵描きなどをしている様々な種族の人々の姿も見受けられた。
「のどかな感じでいい雰囲気だねぇ」
魚春は照れ笑いし、引き続き朗らかな気分で街を散策していくのだった。
これからこの国で暮らしていくの、すぎょく、すっぎょく楽しみだよ。
夢と希望に満ち溢れた魚春、これからどんなことが起こるやら。
お魚大好き少年、人魚や空飛ぶお魚だらけの異世界に召喚されて幸せいっぱい! 明石竜 @Akashiryu
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